間話 星読みの巫女の予測
摩擦熱によって消失が進むとはいえ、落着時の流星は推定直径約3〜10kmになると予想される(途中で割れる可能性もあるのであくまで参考程度)。
現在、時速約6万kmでザクルメリア王国に向けて接近中。
推定ではあるが流星は99%以上が退魔石で構成されている。並の魔法であれば摩擦熱で砕かれ、周囲を覆う退魔石のチリさえも突破できずに本体まで魔法が届かない。本体に魔法をぶつける『だけ』でも最高ランク上位相当の冒険者の魔法が必要。そこから流星本体の魔力を弾く性質を突破して破壊するにはどれだけの魔法が必要かは予想できない。
強度は鋼鉄以上。魔力を弾く性質がなくとも通常の流星よりも硬く、現存する技術では魔法以外の手段での破壊は不可能と言っていい。
万が一落着を許せばその衝撃波で少なくともザクルメリア王国は消滅。また、その際に舞い上がった粉塵によって空が覆われ、太陽光が遮断されて氷河期に突入。大陸全土の生命体が死滅する可能性が高いと予想される。
ちなみに退魔石とは惑星の終焉と共に発生する『星の力』由来のフォトンホールによる異常なまでの力場に呑み込まれた複数の素粒子や宇宙を漂う死した生命から漏れた微細な魔力などがフォトンホール内に荒れ狂う『星の力』と奇跡的に合わさって生まれるとされていてつまり元は無害なものがフォトンホールの異常な力場によって変異・凝縮されることで魔力を弾く性質を得た鉱石に生まれ変わるという宇宙の神秘そうこれはまさしく神秘としか呼べないものでありやはり星やそれに関連する事柄は摩訶不思議でだからこそこんなにも愛おしくて──
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彼女は今でこそ星読みの巫女と呼ばれている。その能力から教会が手厚く管理しているが、その本質は単なる星が大好きな女である。
昔からいつだって変わらずに夜空に輝く星が好きだった。運がいいことに彼女は『系』の内外を問わずに広い範囲を見通す魔法を使えて、なおかつ見通したものの本質を解明する魔法に秀でていた。
星を読み、理解して、『災い』を予言する。
それはもっと広い範囲で物事を見通し、解明し、その影響をすべからず予測できるからであり、星読み──自然災害のような大きな『災い』を予言する力は彼女の力の本質ではない。
……教会はそんな彼女の力の一部だけを見てわざわざ手厚く管理しているが、彼女としては静かに星のことだけを考えられる環境を用意してくれるなら何でもよかった。
だから。
だから。
だから。
「わたしにできるのはここまで。あとはどこかの誰かの役割だわ」
──今だけは多くの国に影響を及ぼす教会に属していることに感謝していた。おかげで彼女の予測は教会という巨大な力でもって多くの国に届けられるのだから。
「まあ、星に殺されるなら本望なんだけど、わたしの性癖に全人類を巻き込むのはアレだし、何よりどうせならもっと長く星を見てから死にたい。だから誰かが世界を救ってくれるといいんだけど、さてどうなることやら」
世界は滅ぶのか、それとも救われるのか。
左右するのは彼女ではなく『誰か』なのだろうが、生憎とそれはいくら星を読み解いてもわからない。
もしもわかったとしても、星読みの巫女は変わらず星のことだけ考えているだろうが。




