間話 ある王国の奥に潜む存在
ザクルメリア王国は大陸の中心部、瘴気によって汚染された禁域に程近いながらも大陸でも随一の規模を誇る国である。
かつてはあの『白百合の勇者』さえも侯爵の位を与えて配下に加えており、実質的には勇者パーティーを自国の戦力として迎え入れていたほどだ。
そんな王国の王ともなれば多くの命を左右するような判断を求められる。
細々としたものならまだしも、大きな決断であればあるだけ王自らが下さないといけない。その大きさに潰れそうになることもあるだろう。
絶大な権力があるということは、過ちによって起こる悲劇もまた大きいということだ。そんなつもりがあろうがなかろうが、大国の『行動』は多くの者の命運を左右してしまうのだから。
そんな判断を抱えるのは一人では無理だと考えた遥か昔の王がいた。それでいて配下に弱みを見せるのは支配構造を維持するにあたって問題があるだろうし、どうしても誰かに相談すればその者の所属する派閥などに有利に働くよう言葉を選ぶこともあるだろう。
ゆえに、その王は外部の中立な人間に助言を求めた。
『相談役』。そんな風に呼ばれた、どこの派閥にも所属せず、それでいて優れた頭脳を持つ人間に、だ。
特殊な魔法道具で頭の中を弄り、自動的に最適解を導くだけの助言装置に仕立て上げたとされているが、詳細な記録は残されていない。
とにかくザクルメリア王国の裏にはそんな『相談役』が存在した。困難な問題に対して適切な助言を行う最適な人間が。
とはいえ現在は赤子を選別し、頭脳『だけ』の都合のいい助言装置に教育するようなことはやっていない。現国王がまだ若く王ではなかった頃、非人道的だとして『相談役』をつくり出す仕組みそのものを(頭の中を弄る当時にはもう再現できないほど希少な魔法道具を物理的に破壊することで)なくしたのだから。……それが当時の王や国家上層部の大半と致命的に決別、最終的に雌雄を決するきっかけでもあった。
その後、『相談役』の候補だった者たちは現国王の支援のもと思い思いの道に進んでいる。『相談役』だった女性も時間はかかったが『相談役』として生きる以外の道を見つけたとされている。少なくとも今の時代に『相談役』などという冷酷なシステムは存在しない。現国王が国家上層部さえも粉砕してそんなシステムはこの世からなくしたのだから。
ここまでが前提。
その上で『彼女』はこう名乗った。
『「相談役」。それがザクルメリア王国におけるジークルーネの役割なれば』、と。
バニーガールに白い羽のコートの美女は王都の外、『魅了ノ悪魔』や彼女と敵対する者たちに意識を向ける。
駆けつけるのは簡単だ。
だが『相談』されたのは今この国に潜む魔族の撃破だけではない。
魔族の魔の手から王国を救う。
そのための答え。ゆえに戦闘に割り振れる力の残量を考えると──
「今はミラユルと共にあった勇者パーティーに託すのが最善なれば」