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第四十七話 お出かけでの食べ歩き その十四

 

 三人の魔族は撃破された。

 その理由を自身の認識を希薄化している魔族の男は見抜いている。


(あいつらが動き出す前に居場所が把握されていた理由、それは第一王子がダイヤモンドエリアの真髄を解き放ったからっす)


 王城ダイヤモンドエリア。

 全体がダイヤモンド『のようなもの』で構築された城ではあるが、あのダイヤモンド『のようなもの』の正体は何なのか。


 答えは魔力充填のための魔石。

 魔法道具にも使われる、燃料となる魔力を貯蔵しておくための充填装置なのだ。


 通常魔石は黒ずんでいるのだが、王族が独占している特殊な加工をするとダイヤモンド『のような』輝きを放つのだ。その分だけ魔力充填量も飛躍的に増加する。


 城を形作るほどに大量の魔石でもって大量の魔力を確保した。そこで終わらず、王家は王城を改造してある魔法道具を生み出すことに成功した。



 王族の血筋のみが使用できるよう制限をかけた魔法道具。


 対象となる王族に『調整』した魔力を送り込んで魔法を強化するのに加えて、外から補助して膨大な魔力を『暴発』させずに扱いきれるよう外から補助する機能、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がある。



 魔力は個々人によって違いがあり、いくら他者の魔力が充填された魔石があろうとも、それだけでは他人の魔力を使って魔法を使うことはできない。魔法を具現化する回路が他者の魔力には対応していないためだ(亡霊の遺産や魔法道具はどんな魔力にも対応可能な超常現象具現化用の変換回路を搭載しているために誰でも使えるのだが)。


 王家秘蔵の魔法道具は魔力を『調整』する機能がある。

 つまり他人の魔力だろうとも問題なく扱える機能が。


 またそれだけ膨大な魔力は個人で扱おうとすれば『暴発』の危険があるため、外から補助する機能も搭載している。


 それに加えて戦況に応じて術者を操り、理想的な迎撃方法を実施する機能さえもあるというのだから、王家秘蔵の魔法道具に相応しい性能だろう。


 王の血筋を守護するための自動防衛装置。

 王族が魔法道具を操るのではなく、魔法道具が王族を操って敵を撃滅する防衛装置。


 いつか来るかもしれない決戦の時には王族が矢面に立って魔王のような絶大な脅威を撃滅するために備えてきた秘奥。


 百年以上前、魔王は倒された。

 だが似たような脅威が今後現れないとも限らない。


 そして、百年以上前のように『白百合の勇者』はもういない。ならば王族として担ぎ上げられた自分たちが矢面に立って民を守るしかないのだ。


 だからこその自動戦闘機能。

 来たる時に戦闘経験のない王族であっても国を滅ぼす可能性を秘めた敵を撃滅できるように。


『雷ノ巨人』は第一王子に憑依してきた時、これらの情報を手に入れていた。認識を希薄化できる魔族の男が情報を通達を遮断していたから『魅了ノ悪魔』及びその部下にまでは伝わっていないが。


 もしも伝わっていれば何かが変わっていたかもしれない。


 第一王子の使用可能な身体強化系統魔法の増幅、それが隠れ潜む魔族たちを捕捉することも可能なほどに感覚を増幅可能だとわかっていれば相応の対策はできたはずだ。


(さてとっす。いくら認識を希薄化しても今の第一王子は探知できるっよね。となると、やっぱり逃げまくって持久戦っすかね)


 自殺を誘発する魔族の男はあんなにも簡単に撃破されたが──あくまで第一王子の無意識の外、ダイヤモンドエリアによって操られていたのでそもそも自殺の魔法の対象外だったのもあっただろうが──あれだって今の第一王子の力量を正確に読み取っていなかったからだ。あれだけの力があるとわかっていればもう少しやりようもあったはずだ。


 最初から逃げに徹すれば、選択肢は増える。

 例えばダイヤモンドエリアの秘奥は膨大な魔力を消費している以上、いつまでも自動戦闘魔法が使えるわけではない。


 もって五分。

 それだけ逃げ切れば後は──



「『相談役(プリンシパリティ)』。それがザクルメリア王国におけるジークルーネの役割なれば」



 その声は。

 魔族の男からしても予想外だった。


 網タイツにガーターベルト、赤い蝶ネクタイ、真っ黒なバニーガールという衣装を白い羽が縫い付けられたコートを上からマントのように羽織って覆った金髪碧眼の美女であった。


 瞳がまるで無機質のように虚無に満ちた女は魔族の男を見据える。


「相談内容:魔族の魔の手から王国を救う、その方法は? 回答:ジークルーネが殲滅すればいい」


「『第七位相聖女』……いいや、『第七位相』()()()()がどうしてこんな下層まで堕ちているっすか!?」


「ミラユルが守ったこの世界は絶対に壊させないから」


 瞬間、その細く美しい腕が魔族の男を貫いた。

 迅速に決着をつける。



 ーーー☆ーーー



 そして。

『今の』第一王子は王都どころかその外側のことさえも敏感に感じ取っていた。


(その力を憑依されていた時の俺にも向けてくれたら俺ごとでも『雷ノ巨人』をぶっ殺して被害を最小にできていたかもしれないが……『相談』されないと動けないとか『相談』が完全に解決するまで次の『相談』はできないとか制限がありすぎる。だが一度問題解決のために動けばあの『最大戦力』は誰にも止められないだろうな。ダイヤモンドエリアの魔法道具で強化した俺でも最適解が逃走一択で勝ち目はないと判断しているくらいだし)


 ブレアグスが『相談役(プリンシパリティ)』について知ったのは『雷ノ巨人』が撃破された後、国王に聞かされたからだ。だからこそ魔族側にそこまでの情報は渡っていなかった。


『──本来の意味の「相談役」はすでになく、しかし「相談役(プリンシパリティ)」としてあのお方は降臨した。これも全ては天の意思とやらなのだろう。ブレアグス。「相談役(プリンシパリティ)」はブレアグスに預ける。あとは好きにして構わない』


『いいのか? 話を聞くに随分と強力な手札だが。それを使って俺が王位を取り戻すために内乱でも起こすかもしれないぞ?』


『建前はともかく、本音は王位を継ぎたくなくて妹に丸投げしたブレアグスがどうしてそんなことをするのやら』


『ちえ。バレていたか』


『……すまぬな。歳をとって魔法もまともに使えなくなっていなければブレアグスに背負わせずに済んだのだが』


『王が矢面に立とうとするなよ。いやまあ昔の親父は随分とはっちゃけていたみたいだけど』


『血筋なのだろう。この手で始末した先代もそのまた先代も何かあれば最終的には自分で殴り込んで解決していたしな。ダイヤモンドエリアに仕込まれた魔法道具が歴代の王族「らしさ」をこれでもかと示している。そう考えれば歴代で考えてもあんなにいい子なのはニーニャくらいだな、うんうん』


『あの悪巧み大好きな妹をいい子でくくるのは親父くらいだと思うが。気がついたらガルドとかいうのをはじめとして随分と物騒な連中を飼っているみたいだし、それこそ王位を俺から奪うために色々とえげつないことだって企んでいただろうしな。……他の飼い犬はともかくガルドは妹の手には余ると思うから火傷しないうちに引き剥がせればいいんだがな』


 それはそうと、と王との会話を思い返していたブレアグスは切り替えるように呟く。今の己の力を正確に把握し、その上で王都の外に意識を向ける。


『魅了ノ悪魔』。

 そして、彼女に立ち向かう二人の存在。


「あいつらの誰にも今の俺でも勝てそうにない、か。王国がいつかやってくるかもしれない魔王のような強大な敵に備えに備えてもそれ以下の四天王にさえも届かないとはな。情けない限りだ」


 とはいえ、それが変えられない絶対の事実だ。

 王国秘蔵の魔法道具を使用して己の力を強化しても、なお、『魅了ノ悪魔』の足元にも及ばない。


 ならば、どれだけ情けなくとも頼るしかない。

 ガルド。そしてあの男が連れてきた戦士たちに。


「悔しいが、今はこの国の命運はお前たちに託す。頼む、ここで全て終わらせてくれ」

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