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第四十六話 お出かけでの食べ歩き その十三

 

 自然な形に偽造された暗殺の一つ。

 近衛騎士団副団長の自殺。


 王族を守護する最重要組織である近衛騎士団のナンバー2を自殺に追い込むほどにその魔族の力は強大であった。


 王都の中心部、王城ダイヤモンドエリアでその魔族は第一王子ブレアグス=ザクルメリアと向かい合う。


 王族の血筋ながらその『特別』な立場の一切を捨てた男。

 いかに貴族の血筋は魔法の才能に優れていようとも、王族の血筋から生じる力がどの程度かはもうわかっている。


『雷ノ巨人』との戦闘記録。

 認識を希薄化された魔族さえも仕留め切れないならば、あの魔族よりも強い『自殺を誘発する魔法』には決して抗えない。


 対象の無意識に介入し、操り、自殺させる魔法。

 近衛騎士のナンバー2さえも簡単に殺した力が炸裂する。


「己が殺意に焼かれるです」



 ゴォッ!! と炎の剣が振るわれた。

 魔族の男の胴体を両断する形で。



「が、ぶ!?」


 命が尽きる、その寸前。

 魔族の男の耳にその言葉は届いた。


「悪いな。()()()にそんなものは通用しないんだ」



 ーーー☆ーーー



 西部の職人たちの工房が連なる区画。

 その中でも魔法道具の製造や開発を担う場所を狙い、大規模な事故を引き起こそうとしていた魔族の男にシャルリアの父親は立ち塞がった。


 魔族の男はもちろんすでに気圧されて倒れた数十もの元騎士や元冒険者には目も向けなかった。その腕を掴むシャルリアの父親を見据えて、一言。


「乱れよ」



 瞬間、父親が吹き飛ばされた。

 その脇腹にどこからともなく破片が叩き込まれて。



「こんなのは単なる事故だ」


 魔族の男は笑う。

 数多の警護の者たちを力の圧だけで封殺しながら笑って告げる。


「そこに転がっている奴らが落とした魔法道具が『暴発』し、破片を飛ばし、お前を襲ったってだけだな」


 魔法道具さえも製造する工房の護衛は戦闘用の魔法道具が貸し出されている。魔力が充填された、誰でもお手頃に一定の超常を扱う道具が。


 それが不具合を()()()()、爆発し、破片を父親に向けて飛ばしたということだ。


 魔族の男は嘯く。直接戦闘能力であれば三人の中で突き抜けた最強であり、『大罪の領域』を抜きにすれば『魅了ノ悪魔』にだって匹敵する男が。


「さて、魔法を覚えてしばらくして慣れた奴ほど怪我をする事故が多い。『暴発』。魔力の流れを乱す俺の力は避けられないぞ。力づくで破ろうにも、そもそも魔法そのものが乱されて力技で勝負することさえもできないのだから」


「…………、」


「さあ、どうする? 勇敢に立ち向かって『暴発』という悲惨な事故で死ぬか。それとも背中を向けて工房ごとここら一帯が吹き飛ぶ大規模な事故によって死ぬか。選ばせてやるよ」


「そうか」


 父親は背負っていた大剣の柄に手をかける。

 龍殺しの異名もある一振り。とはいえ何かしら魔法で強化されているわけでもない、少し大きいだけの鉄の塊だ。その刃自体に種族の差を覆すような特殊な力はない。


 何かしらの魔法を使おうとすれば『暴発』によって身体が内側から吹き飛ぶ以上、そういった超常に頼ることもできない。


 それでも父親は表情を変えない。

 剣を抜き、真っ直ぐに踏み込む。


「ならば、勝って生き残る道を選ぶとしよう」



 それから三分も必要なかった。

 魔法は使えない。だからどうした。大きすぎる力を乱して事故を引き起こして相手を自滅させる。そんな常套手段が使えず、素の身体能力で抗うしかなかった魔族の男は単純な技術でもって斬り捨てられた。



 素手で大岩さえも砕けるのが魔族だ。

 そもそも素の身体能力さえも人間よりも遥かに上だからこそ、これまで『暴発』で殺しきれずともその拳で叩き潰すことができた。


 それなのに父親はお構いなしだった。

 掠ればそれだけで肉を潰して骨を砕く打撃を受け流し、警護の者たちが落とした魔法道具の『暴発』によって飛散した破片を掻い潜って、魔族の男に斬撃を叩き込んだ。


「運が良かったな」


 鉄の塊のような大剣を軽々と操って、何度も何度も、魔族の男が倒れるまで。


「その魔法には距離の制限があるんだろう。そうでなければすでに工房を大規模な『暴発』で吹き飛ばされていたはずだ」


『魅了ノ悪魔』の配下の中でも最強。

 魔法の『暴発』を誘発することで敵の力を逆に利用して格上を打倒する可能性さえも秘めた魔族の男を倒したというのに父親は誇ることすらなかった。


「まあ、シャルリアの邪魔をしなくて済んだなら何でもいいか」


 それが魔族の男が聞いた最後の言葉だった。

 鉄の塊のような大剣によって叩き潰されたからだ。

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