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第三十八話 お出かけでの食べ歩き その五

 

「ごめん、待たせたよねっ」


「そんなことは……ッ!?」


 ありません、とアンジェリカは続けられなかった。

 朝、十時ちょうど。声がしたほうに視線を向けて、思考が固まった。



 白だった。

 シンプルながらも清潔感のある白いワンピースに左の肩にだけかけている淡い青のマント、首元に巻いたスカーフ、白い百合を模したミニハットを頭に乗せてと普段の黒を基調とした魔女っ子スタイルに似てはいてもどこか清楚感が強まっていた。



 前髪で隠れた目を照れ臭そうに伏せて、シャルリアは呟く。


「そ、そんなにじろじろ見られると……照れる」


「あっ、申し訳ありませんっ。その、いつもと印象が違って、ですから、ええっと……へっ平民にしては中々なのではなくて!?」


 直後に自己嫌悪に自分の頭を魔法で吹っ飛ばしたくなるアンジェリカ。


 どうしてこうも素直になれないのかと、似合っているの一言が言えないのかと、顔を歪めそうになって──


「そう? アンジェリカ様がそう言うなら似合っているんだね。よかった」


「なっ。それは、その、さあどうでしょうねっ」


「アンジェリカ様のドレスも素敵でよく似合っているよ。いつもの豪華なのもいいけど、ちょっと控えめなのもそれはそれで綺麗だし!」


「ふ、ふんっ!」


 もう何も言えずにそっぽを向くしかなかった。

 その程度では赤くなった顔を隠しきれないのはわかっていたが、それでも今は絶対にシャルリアのことを真正面から見れなかった。


 なぜか。

 そんなの恥ずかしくてそれ以上に嬉しいからに決まっているではないか!!


「シャルリアさんも……」


「ん?」


「シャルリアさんも!! 似合っていますわよ!!!!」


「わっ。え、えっと」


 パチクリ、と。

 まさかそんなことを言われるとは思ってなかったのか、唖然と目を瞬くシャルリア。


 やがてじんわりと顔を緩めて、そしてこう返した。


「ありがと」


「ふん! 早く行きますわよ!!」


「うんっ! で、どこに行くの?」


 …………。

 …………。

 …………。


「あ」


「アンジェリカ様?」


 そこで、ようやく、だ。

 お出かけに誘うことに成功したこと、お出かけをするという事実を受け止めることにばかり意識が集中していてお出かけそのものの計画を全然まったく立てていなかったことに気づいた。


 しばらく固まって。

 そしてアンジェリカは高らかに胸を張ってこう叫んだのだ。


「お花摘みに行って参りますわ!!!!」


「うえっ!?」


 もうとにかく何でもいいから理由をつけてその場を後にする。近くの物陰に隠れて慌てて通信用魔法道具を起動する。


「店員さあん!! 何をするか決めていませんでしたどうしましょう!?」


『あーうん。そういえば私もそこまで頭が回ってなかったよ』


「このままでは何も考えていない無計画な馬鹿だとシャルリアちゃんに失望されてしまいますわ!!」


『そんなことはないけど……ああいやないと思うけど、確かに行き先くらいは考えておいたほうがいいよね。アンさんはどこか行きたい場所とかある?』


「わたくしが、ですか?」


『うん』


「お返しのため……そうです、今回の目的はあくまで巨人の……ごほんごほんっ。お返しを差し上げるためで、そのためには……はっ!? 土地を買いにいきましょうそうしましょう!!」


『はい!? なに土地って!?』


「最近は貴金属よりも土地のほうが資産価値が下がる可能性が低いと注目されているのですよ。貴金属は珍しい魔法の使い手が生まれれば量産される可能性がありますけれど、土地であればその心配もありませんしね。現に──」


『あーえっと……とりあえずお返し云々は忘れてもいいんじゃない?』


「え? ですけど」


『話を聞いた限り、シャルリアちゃんとやらはお返しをそこまで欲しがってないんだよね? だったら無理してお返しのことだけ考えなくてもいいと思うよ。最悪お返しがなくても楽しいお出かけになれば、それだけで満足してくれるって』


「そんな、本当に? わたくしのような高慢で、素直になれずにきつくあたってばかりな女と一緒にお出かけしてもつまらないだけですよ」


『そうかな? こうして一緒にお出かけしてもいいと受け入れてくれたんだよ? だったら楽しんでくれるよ。他ならぬアンさんと一緒なら絶対にね!』


「……しんじて、いいのですよね?」


『これに関しては大丈夫。絶対に大丈夫だから信じてよ』


「店員さん……。はい、店員さんがそう言うのならば、信じます」


『よかった。いや本当、いきなり土地とかもらっても困るだけだからね、うんうん』


 そうと決まれば行き先を決めなければならない。

 お返しをどうするかもそうだが、何よりシャルリアがアンジェリカとお出かけして楽しかったと思えるような計画を立てる必要がある。


 ……あんまり長く考え込んでいたらシャルリアを待たせてしまうのはもちろんだが、何より必然的に長い『お花摘み』だと思われてしまうので迅速に決めなければ乙女の尊厳に関わる。なので早く、本当に早くしないといけないのだ!!



 ーーー☆ーーー



 ちなみに店員さんはもちろんシャルリアなので行き先諸々の相談をわざわざ離れてしている形になっている。


(正体隠しているせいで変に遠回りすることになっている気がするなぁ。まあ、これはこれで、うん)


 アンジェリカには悪いが、シャルリアとのお出かけに対してこうして本気で悩んでくれていることがわかるのは嬉しいものだった。


 それだけ大切にされているのだと、そう思えるから。


(お返しなんてもう十分過ぎるほどもらっているよ、アンジェリカ様)

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