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第三十六話 お出かけでの食べ歩き その三

 

 夏の長期休暇、()()()()()()


「うおう……。服とかどうやって選べばいいの!?」


 アンジェリカ=ヴァーミリオン公爵令嬢とのお出かけのためにとりあえずいつもの魔女っ子スタイル以外の服を選びに街に出たシャルリア。


 とはいえ彼女は今も身につけている魔女っ子スタイル以外は踊り子が好んで身に纏うようなヒラヒラでスリットだらけな大胆な格安の服だけというくらいには服装に興味がない。


 なので王都ではそれなりに有名な衣服店に足を運んでみたが、服が多過ぎてどこから手をつければいいのか分からずに頭を抱えていた。


 記憶の中の『母親』も魔女っ子スタイルが基本だったので服装に無頓着なのは血筋なのだろう。


「何かお探しかなあ?」


「うえっ!?」


 と、そう声をかけてきたのは女のシャルリアから見ても色気に頭がくらくらするほどに綺麗な女の人だった。


 服装こそ衣服店の店員のものだが、他の店員と違って彼女が身につけているというだけで淫靡な感じがするのだから不思議である。


 腰まで伸びた赤髪にどろりと淫靡な赤い瞳、そんな彼女の盛り上がった胸元の名札には『サラ』と書いてあった。


「あ、あの、その……たまにはいつもと違った服を買いに……だけど、えへへ。私のような可愛げのないちんちくりんがおしゃれしてもあまり意味はないよね、はは」


 こんなにも女らしい店員を前にすると、自分の容姿の平凡さが浮き彫りになって思わず卑屈な言葉が出ていた。あるいはそれはアンジェリカ=ヴァーミリオン公爵令嬢というどこまでいっても『違う』人間を見てきたからか。


 対して色っぽい店員は背を丸くするシャルリアに視線を合わせるように屈んで、


「あらあ、そんなことはないよねえ。貴女は可愛いわよお。思わず食べちゃいたいくらいねえ」


「え、ええっ!?」


「ふっふ。それはまたの機会としてえ」


「あれ!? 冗談じゃなくてまたの機会なの!?」


「どんな人間でも可愛くなれるわよお。そのためにおしゃれという技術は磨かれてきたんだからあ」


「店員さん……」


「ワタシに任せてくれない? 貴女の良さを活かしてとびっきり可愛くしてあげるからあ、ねえ?」


「うん。うんっ、お願い、店員さん!!」


「はい、お願いされましたあ☆」



 ーーー☆ーーー



 アンジェリカ=ヴァーミリオン公爵令嬢は自身の全身がうつくほどに巨大な鏡の前で腕を組んでいた。


 私室でのことだ。

 そこらに平民では逆立ちしても手が届かないドレスが床が見えなくなるほど大量に投げ捨てられていた。


 その中心。

 生まれた時の姿そのままでアンジェリカは一言。


「シャルリアさんとのお出かけに着ていくドレスが決まりませんわ」


「とりあえず何か着てください。風邪ひきますよ」


 黒髪のメイドに声をかけられるが、アンジェリカはそんな場合ではなかった。


 何せあのシャルリアとのお出かけなのだ。

 気合いは入れすぎても足りないくらいである。


「ふ」


 前まではツンツンしすぎて避けられていたが、ようやくお出かけを許してくれるくらいの関係にはなれた。


 ここからだ。

 もっと仲良くなれるか、『なんか違った』と思われて疎遠になるかは今度のお出かけにかかっていると言っても過言ではない。


「ふ、ふふ、ふふふふふっ」


「お嬢様?」


「店員さあん! 相談に乗ってくださあい!!」


「はいはい、夜まで待ちましょうね」


 お出かけが始まってもいないのにグダグダにも程があった。こんなのお出かけが始まったらどれだけ面白くなるのかとメイドはついに耐えられずに肩を揺らして笑い声を上げていた。



 ーーー☆ーーー



 うきうきを隠しきれずに買った服が入った袋を両手で抱えて帰っていくシャルリアの背中を『彼女』はじぃっと眺めていた。


『サラ』。

 偽名が記された名札を胸元から千切り、そこらに投げ捨てながら、蕩けるような目でだらしなく表情を崩す女店長へと声をかける。


「ありがとねえ。お陰で自然な形で接触できたよお」


「いいえ、親愛なる貴女様のご命令であれば店員として紛れ込ませることなどお安いことです!!」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()女は笑う。


 瘴気の応用で殺さないよう調整して店内全員の短期間の記憶だけを奪いながら、その場を後にする。


 店員という記号を偽造して接触は完了。

 さて、次はどうするか。


「あの店に通う前にい、ある程度は好意を埋め込んでおくのもアリだよねえ」


 それはそれとしてシャルリアの『顔は今のまま前髪で隠しておきたい』という要望を聞きながらも似合う服を選べたと口元を綻ばせる『サラ』。


「あっは☆」


 色々と策謀は巡らせているが、それはそれとして可愛い女の子がさらに可愛くなるのを見るのは気分がいいものだ。



 その数十秒後。

 微かに魔力の残滓がまとわりつく衣服店を見据えて、ガルドは額に浮かぶ汗を拭う。


 全速力で駆けつけたが、『彼女』はもうどこにもいない。

 魔法自体も解除されているようで異変は見て取れない。


 つまりこうして探知されるリスクを負ってでも魔法を使って果たすべきことはとっくに果たされたということだ。


「チッ。何を企んでいる、『魅了ノ悪魔』クルフィア=A=ルナティリス」

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