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第二十七話 光系統魔法

 

 十年ほど前のことだ。


 隻眼の中年男性ガルドは『心眼』の魔法によって人間の心を読むことができる。


 ゆえに『あの女』の娘であるシャルリアに光系統魔法の才能があることも、その力をシャルリアの父親が開花させずに隠そうとしていることも、そしてシャルリア自身が自覚している光系統魔法で『できること』もまた()()()だった。


『あの女』──シャルリアの母親が死んでからしばらく経っていた。男手一つでシャルリアを育てている父親の力になりたいという想いを利用してガルドは言葉巧みに魔法の訓練までこぎつけた。


 魔物の肉を浄化できれば肉に関しては原価ゼロで提供できる。そうなれば父親の助けになる。だからその魔法の力を父親の言いつけ通り周囲に隠すにしても隠れて使うくらいは構わないと、最終的に不特定多数にバレなければそれでいいはずだと言いくるめて、だからシャルリアが魔法を使いこなせるよう手伝うと申し出たのだ。


 ……そもそも父親はその特異な力を目覚めさせることさえも嫌がっていたのだが、そのことを読み取っていてシャルリアには何も伝えないのだからガルドは決して善人ではないのだろう。


『──どうだ? 魔力の流れは感じられたか?』


『うーん。よくわからない……』


 王都の近くの森でのことだった。

 適当な理由をつけてはいたが、本音は万が一にも父親に邪魔されないようにとこんなところまで移動してガルドはシャルリアに魔法の特訓を施していた。


 そんなある日。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今日も駄目かとそう思った時だった。



『あ』


 カッッッ!!!! と真っ白な光が溢れた。

 森を覆うほどに強烈なその光は確かに光系統魔法の顕現であった。



 咄嗟に光が消える前にガルドの全力の魔法を放ったが、具現化したことすら気づかないほど瞬時に打ち消されていた。


 つまりこの光は最低でも──


『うわっ、なになに今のなに!? 目がチカチカするっ』


『……、やっぱり「あの女」の娘だな。方向性は異なるが、既存の法則とかガン無視の規格外なところはそっくりだ』


 何やら金髪碧眼の女の子──あれはヴァーミリオン公爵家の娘だろう──がなぜか猛烈な勢いで迫ってきていたのでシャルリアの首根っこを掴んで素早くその場を後にするガルド。


 こんなにも強力な手札を他の人間に知られても損しかない。


(しかし、ありとあらゆる魔法を具現化する前の魔力の状態に戻して消滅させる魔法、か。随分と節操ない無茶苦茶な力なことで)


 他の魔法よりも大量の魔力を消費する光系統魔法らしい脅威的な力であった。どんな強者だってそこらに溢れるちっぽけな人間に変えてしまうこの力は使いようによっては既存のパワーバランスをいとも簡単に崩すことだろう。


(光系統魔法は多くの魔力を消費するからか、その使い手は内包する魔力も多い。が、それにしても歴代の使い手どもよりも一発の消費魔力量は凄まじいもんがあるし、それでも保有魔力量にはまだまだ余裕があるとか本当『あの女』もとんでもない娘を残していったな。これなら裏技も……はっはっ!!)



 と、そんなこともあったなと思い出しながら王都の片隅にある小さな飲み屋でガルドは目の前の女を見据える。



 派手な女であった。腰まで伸びた赤髪にどろりと欲に濁った赤い瞳、艶やかな唇、豊満な胸を隠すのではなく露わにしているのではと思うほどはだけた胸元、肌から噴き出すように漂ってくる甘い匂い。


 男を魅了する要素の塊。

 色欲を刺激する女の具現化。


 つまりは魔族四天王の一角、『魅了ノ悪魔』である。


「『魅了ノ悪魔』。いいやクルフィア=A=ルナティリスとでも呼ぶべきか?」


「へえ。ワタシの呼び名を知っているだなんてねえ。アナタ何者お?」


「単なる冒険者だ。気軽にガルドとでも呼んでくれ」


「まあ、なんでもいいけどお。どうせそろそろ『雷ノ巨人』が我慢の限界を迎えて全部まるっと()()()にしているからねえ。第一王子という隠れ蓑も、この国を内側から崩す『計画』も、ぜぇーんぶおじゃんだものお。今更ワタシの呼び名がバレていようがねえ。つーかあの野郎さあ、四天王最強じゃなかったらとっくに背中ぶっ刺しているよねえ」


「チッ。やっぱりあの()()()()()()は『雷ノ巨人』か。しかもその口ぶり、『雷ノ巨人』が第一王子に憑依してやがるのか」


「あっは☆ 本当何者お? 『雷ノ巨人』が憑依の魔法を使えるという情報は可能な限り破棄して回ったんだけどねえ?」


「そんなことより」


 真っ向から。

 隣にシャルリアの父親が立っている状態でガルドは言う。


「これから何をするつもりだ?」


「もちろんどこぞの悪癖野郎のせいで全部まるっと台無しだからねえ。裏でゆっくりとこの国を腐らせ、殺すような『計画』なんてもう関係ないとなればあ、魔族らしく殺して殺して殺しまくるってだけだよねえ。となればあ、散々嗅ぎ回ってくれていた見るからに厄介そうな奴らから仕留めるのは当然よねえ?」


 直後。

 激突があった。



 ーーー☆ーーー



 シャルリアの光系統魔法、その本領。

 あらゆる魔法の無効化が可能な力。


「へっ」


 つまり、関係ないのだ。

 瘴気だろうが雷だろうが憑依だろうが、超常的な力であればそれは魔法だ。そして魔法であればシャルリアの光系統魔法は一律で魔力まで戻してその性質を消し飛ばす。



 どっぶう!! と真っ白な光に追いやられるように第一王子の身体からヘドロのように禍々しい『何か』が噴き出した。



 憑依。

 つまり第一王子に乗り移っていた『何か』が弾き出されたのだ。


「へへっ、ふはっ、あーっはっはっはあ!! どんなものよっ。なんか調子に乗っていたけど、私の光系統魔法はどんな魔法だって無効化できるんだからね、こんにゃろーっ!!」


「え、えっ?」


 驚きに目を見開くアンジェリカへと、シャルリアは屈託なく笑ってこう言った。


「これで万事解決だねっ」


 そして。

 そして。

 そして。



 どぶどぶどぶどぶう!!!! と。

 第一王子から弾き出された『何か』が泡立ち、膨れ上がり、どんどん肥大化していったのだ。



 それこそ今にも広大な建物を埋め尽くし、シャルリアたちを呑み込まんばかりにヘドロのような『何か』が迫り来る。


「ちょっ、何あれ!? なんか大変なことになってない!?」


「外に出ますわよ、シャルリアさんっ。このままではこの建物が崩れますわ!!」


「う、うんっ」


 慌てて意識を失って倒れた第一王子を担いで建物の外に飛び出すシャルリアとアンジェリカ。


 外に出た直後であった。

 轟音と共に広大な建物の天井が吹き飛んだ。

 魔法の実技に使うほどには広いし、天井までは数十メートルもあるはずなのだが、お構いなしである。


 ゆらり、と。

 巨大な『何か』が立ち上がった。



 つまりは巨人。

 ヘドロのように全身をぶくぶくと泡立たせた、禍々しい巨人の頭部らしき箇所が裂ける。歪な切れ目が口のように開閉して声を吐き出す。



「は、ははっははははは!! そうだよな、光系統魔法だもんなあ!! あらゆる魔法を無効化する、はっはっ、そのくらいの台無し具合はないとなあ!! あの魔王さえも殺した『白百合の勇者』の系譜、理不尽なまでの絶対的な力! これでこそ人間ってもんだ!! だから『魅了ノ悪魔』はどんな力を持った人間が生まれようともその本領を発揮させずに潰す『計画』を立てて時間をかけてでも確実な勝利を狙っていたが、はっはっ、()()()()()だよなあ!! 我慢なんてできるか!! さあ、台無しにしてやろう。世界の全てを暴力で満たして、倫理も定説も常識も安全圏もなくしてなあ!!」


「ごちゃごちゃとうるさいのよ」


 握りしめる。

 純白の光が輝くその拳を。


「これ以上好き勝手やるってんなら今すぐぶっ飛ばしてやるから!!」


「威勢がいいのは結構だが」


 笑う。

 憑依が破られようとも、『雷ノ巨人』にはまだ笑うだけの余裕がある。


「なあ、シャルリア。その力は確かに瘴気も憑依も雷も無効化できるほどに強力だ。なるほど、光系統魔法らしい自由度が高く凶悪な性能だが、逆に言えば『できること』はそれまでだ。現にその力を受けても第一王子の肉体も俺様も傷一つつかなかったしな」


「何を……」


「つまりその光は物理的な干渉力はゼロだ。となれば」


 持ち上げる。

 広大な建物の天井をぶち破るほどに巨大な体躯、推定四十メートルは軽く超えている巨体が己の拳を構える。


「何の魔法も使っていないこの拳を受け止める『力』が貴様にあるのか?」


 直後。

 人間一人軽々と圧殺できるほどに巨大な拳が振り下ろされた。

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