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悪役令嬢は今日もヒロインに気づかずに飲んだくれている〜ヒロインと仲良くなりたいと言いながら〜  作者: りんご飴ツイン


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第七十八話 自覚した恋心

 

 目が覚めると、見慣れた天井がシャルリアを出迎えた。自分の部屋のベッドで横になっているようだ。


「……そういえば、私、ぶっ倒れたんだっけ」


 魔王との戦闘が終わって安心したのかすぐに気を失った。


 それは『魂魄燃焼(ブレイクオーバー)』で消耗していたのもあっただろう。ザクルメリア王家が秘匿してきた魔法道具で『調整』した莫大な魔力という補助があったとはいえ三回も『魂魄燃焼(ブレイクオーバー)』を使ったのだ。その反動は大きく、大幅に寿命を失ったはずだ。


「そっか……。魔王に勝てたんだ。もうアンジェリカ様が殺されるようなことはないんだね」


 残りどれだけ生きていられるのか。

『みんな』を……何よりアンジェリカ=ヴァーミリオン公爵令嬢を死なせないために戦い抜いたことに後悔はない。ないが、その代償を全く気にしないわけがなかった。


 どれくらいアンジェリカと一緒にいられるのか。

 そう考えたら、もう我慢なんてできなかった。



「私はアンジェリカ様が好き。例え受け入れてもらえないとしても、受け入れてもらってもすぐにアンジェリカ様を置いて死んじゃうとしても、この想いを伝えずに死ぬなんて絶対に嫌だ」



 そう言葉にして、あまりの自分勝手さに思わず笑ってしまった。どこか嘲るような、ボロボロの笑みを。


「ああもう……。死にたくないなぁ」


 それでも少しでも後悔しないように。

 身分の差。同性という壁。そもそもシャルリアが嫌われてはいないにしても恋人にしたいと思えるほどに好かれているわけがないというのはわかっている。


 この想いは決して成就しない。

 それでも、とシャルリアはゆっくりと起き上がる。


 残りどれだけ生きていられるのか。

 もしかしたらこの瞬間にも死んでしまうかもしれないのならば、絶対に後悔はしたくない。


 外はもう日が落ちていた。

 夜。今から平民が事前に連絡もなしにヴァーミリオン公爵家に乗り込むのは非常識であり、不敬だと罵倒されるのも当然だろうが、そんなことで我慢できるわけがなかった。


 どうせ死ぬなら好き勝手やってやる。

 ある種の自暴自棄とも吹っ切れともとれるが、もしかしたらこれこそシャルリアの本心なのかもしれない。


 他のどのような事柄であれど他人を慮ることができても、恋に関しては我慢できずに自分勝手に突っ走る。彼女の母親『らしさ』はこのような形で受け継がれているのだろう。


 考える時間だけならこれまでいくらでもあった。

 数多の繰り返し、アンジェリカを目の前で失ってきたからこそ。


 その後悔を知っているならば、自覚した恋心を押さえつけるようなことはもうできない。


 好きだと。

 うっすらと思い出せる時間軸でさえも漏らしていたほどだ。今更身分の差とか同性だからとかアンジェリカがどう思っているかとか、そんなことで遠慮できるような精神状態ではいられない。


 これは一つの決別。

 アンジェリカのことさえも考えていない、シャルリアのためだけの告白。


 死ぬ前に想いだけでも伝えておかないと死んでも死に切れない。だから伝えに行く。それ以上も以下もない。



 ここから先は世界の命運とか何とかそんなの知ったことじゃない。ようやく自覚した恋心、魔王を倒せたという事実が霞むほどに強烈なありったけの『好き』を伝える最初で最後の告白があるだけだ。



 ーーー☆ーーー



 一階。小さな飲み屋でのことだ。

 ()()()()()だというのに遠慮なく乗り込んできたガルドとシャルリアの父親が何事か話していたらドタバタと騒がしく──あの魔王との戦闘から二日ほど眠っていたシャルリアが『店員さん』としての格好ではなくて学園に通う時のいつもの魔女っ子スタイルで店から飛び出していった。


「なっ、ちょっ、シャルちゃん!? どこ行くんだ!?」


「好きだって伝えにいくんだよ、ばーか!!」


 と、そんな叫び声と共に。


「……ええっと、なんだ。青春だなあ」


 それより、とガルドはシャルリアの父親に視線をやり、


「どこまで話したっけか。あれだ、シャルちゃんの力で復活した『白百合の勇者』……いいや、お前の妻によって魔王は倒された。そこで終われば完全無欠のハッピーエンドだったんだがな。そもそもこの世界は冥なる理、あの世だの地獄だの死後の世界だの、とにかく病で死んだりまともに殺し合いをせずに死んだ魂が飢餓の苦しみに晒される場所だった。そういう定めを女王ヘルが一掃して()()()()()()()()()()()()に変えたんだ。死者がポンポン生き返ったりしない『普通』を軸にしてな。代わりに魂が消滅する『前』に天に選ばれて運ばれるような一部の英雄を除いて大半の生物は死ねばそれまで、魂ごと消滅することになったがな。まあ殺し合いとは無縁に真っ当に生きて死んだら地獄の苦しみを味わうくらいならそのまま消えてしまったほうが幸せなんだろうが。その後、自然発生したのがお前ら人間ってわけだ。女神暦の始まりとはつまり冥なる理の一掃後、知的生命体が文化を形成した一つの区切りというわけだな」


「…………、」


「つまり『この世界』からはもう死後の世界という理は消えていて、死者が現存したり復活したりするようにはできていないのが問題なんだ」


「…………、」


「これまでの戦闘経緯については説明しただろ? 魔王を殺すためにシャルちゃんはあの女を生き返らせた。冥なる理を一掃して新たに埋め込まれた『死者は生き返らない』という理をひっくり返したというわけだ。不可能なはずの事象が押し通されたことでこの世界のシステムそのものが根幹から自己矛盾によってエラーを起こしているわけで、まあ、結論としてはこのまま放っておけば女王ヘルが埋め込んだ新たな理がこの世界ごと崩壊するというわけだな」


「待て。シャルリアは何度も世界を過去の状態に戻しているからその時点で死者は復活しているはずだ。そんなことをさっき言っていたはずだぞ」


「あれは『全世界』をまるっと過去の状態に戻しているからな。そもそも誰かが死んで生き返ったという事実ごと巻き戻されているんだ。この世界は誰かが死んだという事実を認識できていないから理が歪むことはないってわけだな」


「だったら一部の魔族が殺されても復活していたのは?」


「あれは魂までは消え去る前に肉体を用意するという擬似的な復活だからな。魂さえ消滅していないならそいつはまだ完全には死んでいない。悪魔とか普通に肉体がないのが基本だが別に何の影響もないだろ? だから、魂だけの状態から肉体を用意して現実世界に干渉することをこの世界の理は死者の復活とは捉えていないわけだ」


「だか、シャリアは違う、と?」


「ああ。あの女に関しては一度完全に死んでいる。魂だってとっくに消滅していたというのにシャルちゃんが生き返らせた。ここまでくると奇跡だな。つまり光系統魔法の本質とは……まあ、それは今はいいか。証拠はないから断言はできないし。とにかくお前の妻であるあの女は存在するだけでこの世界の理に悪影響を及ぼし、いずれは世界そのものを崩壊させる。さて、そうだとわかって『あの』自分勝手を極めた女が素直に死ぬと思うか? 絶対にないだろ。()()()『白百合の勇者』を復活させて魔王にぶつけるのは本当に最後の手段だったんだ。仮に勝利できたとしても今度はあの女が世界を滅ぼす災厄になりかねない。そして、そうなったら今度こそ対抗手段は失われるんだからな」


「…………、」


「ここまでが前提。その上でこの二日で何が起こったか教えてやるよ」

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