側妃カレンデュラ
カレンデュラとジョーセフがどこで出会ったのかは知られていない。
艶やかな紅の髪、強さを感じさせる深緑の瞳、豊満な身体の美女。年はジョーセフより2つ上だった。
その美しさから、恐らくは生粋の平民というより、どこかの貴族の隠し子ではないかと噂されたが真実は分からない。
いくら国王の心を掴んだ女だとて、身分も後ろ盾もない彼女は、普通ならばよくて愛妾止まりの筈だった。
だがこの国では、愛妾の子に継承権が認められていない。それは王族であってもだ。
だから、もしカレンデュラとジョーセフの間に子ができても、彼女が愛妾の立場であるならその子は王位には就けない。
正妃アリアドネに子ができれば。
それが期待できるなら。
それが最善の解決策だが、閨を共にする事のないアリアドネに、それが望める筈もない。
となれば、側妃はどうしても必要だった。
ジョーセフの希望を叶える為、そして後継の不安を払拭する為、宰相が動いた。
出自不明のカレンデュラを養女にしたのだ。
そうして侯爵令嬢の身分を得たカレンデュラは側妃となり、王城に上がった。
彼女に与えられた部屋は、ジョーセフの私室の対となる部屋。もちろんジョーセフの指示による。
主寝室を挟んで向かい側にある、即ち正妃の部屋だった。
側妃カレンデュラへのジョーセフの寵愛は深く強く、夜毎に激しい営みがあると報告された。
王に愛され、疲れきったカレンデュラは、いつも昼過ぎまで起き上がれない。
これには皆が驚きを隠せなかった。
国王ジョーセフは淡白なのではないかと思われていたからだ。
なにせアリアドネとの間では、何も起きなかったのだ。彼女が閨を果たせる年齢になってから、少なくとも3年以上もの間ずっと。
カレンデュラを常に側に置き、決して離さない。そんなジョーセフの寵愛ぶりを見て、世継ぎ誕生も近い、そんな期待が城の中で高まっていった。
新たな王族の誕生は皆の願いだった。いや、悲願とも言えた。
直系王族がジョーセフとその弟アーロン、そして幽閉中のタスマしかいないからだ。
そして、彼らの悲願はやがて叶う。
側妃カレンデュラが子を身籠ったのだ。
国王の子を宿した大切な身体として、カレンデュラへの待遇はより丁寧に、恭しいものとなっていく。
ジョーセフはすっかりカレンデュラに心を預け、執務以外の時間は常に彼女を側に置いた。
やがて産み月となり、カレンデュラは男の子を産んだ。ジョーセフと同じ、紫の髪の色を受け継いだ子だった。
王家の色を持って生まれた子の誕生に、城が、いや王国全体が歓喜に包まれた。
―――この間ずっと、国の為に王の為に、忠実に勤勉に公務を果たし続けたお飾りの正妃、アリアドネひとりを置き去りにして。