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光を見る日はアリアドネの


ジョーセフからの手紙を読んだアーロンは、急いでヨバネスを遣わした。


本当は自ら精霊の森に駆けつけたいが精霊の泉への往復は丸一日かかる、日々激務に追われるアーロンが急に予定を空けられる筈もなかった。


それに、今から都合をつけて泉に行ったとして、アリアドネに会える保証もない。


実際、前にアーロンがジョーセフを連れて行った時は何も見えなかった。


そもそもの話、ジョーセフが森の家に移って半年近くになるが、その間毎日泉に行っていたのに、その小さな光を目にする事はなかった。



それに、ジョーセフが光を見たという日は―――




「・・・義姉上の命日だ」



アーロンは、デンゼルからの手紙を思い出した。


彼が小さなアリアドネを見た日も、彼女が亡くなった日だった。



では昨年と一昨年も、誰も泉に行かなかったから気づかなかっただけで、アリアドネは小さな光となって泉の上を舞っていたのかもしれない。



「そうか・・・義姉上は毎年・・・兄上はそれを見る事ができたのか・・・」



自由に動けない身を恨めしく思いつつ、アーロンは報告を待った。




夕方近くにヨバネスが戻ったと聞き、アーロンは執務を終えた夜遅くに彼を呼び、仔細を聞いた。



2日前、アリアドネの命日であったその日、ジョーセフはいつものように朝に泉を訪れたという。


その時の泉はいつもと同じ静寂に包まれ、波紋ひとつ立っていなかった。



ジョーセフが異変に気づいたのは、夕方近くになってから。

木の実取りから戻る途中、泉の方角が微かに光って見えたらしい。



不思議に思ったジョーセフは、泉へと足を向け。


そして見たのだ。


水面上を舞うように浮遊する、たくさんの小さな光を。











アーロンはもはや涙を堪える事ができなかった。



「アリアドネ・・・義姉上・・・」



ひとしきり泣いた後、彼は侍従を遣わし大臣へと知らせを送った。



『翌年のアリアドネの命日に、慰霊の為に精霊の泉を訪れる』と。




この知らせに、1年近く先の予定ではあるが議会は揉めた。


泉に行くだけならまだよかった。


けれど、アーロンが希望した時間は午後の3時過ぎ。

泉から森の入り口まで戻るには半日かかる、つまりその日その時間に泉を訪れたいのなら、その後に危険な夜間の移動を敢行するか、森で夜を過ごすしかない。


今はジョーセフが住むかつての管理小屋はあるが、少しは環境が改善されたとはいえ国王を泊めるに相応しい場所である筈もない。



だが、アーロンは譲らなかった。


騎士たちと一緒に野営で構わないとまで言い出し、大臣たちを困惑させた。



粘って、折衝して、互いに意見を言い合って。



最終的に議会側が折れた。






そして翌年―――







「ろくな宿泊施設もないのだけれど、本当に君も来るつもりかい?」



困り顔でそう尋ねるのは、アーロンだ。



「あら、もちろんですわ。大切な公務ですもの。寝る所など気にしたりしません」



返事をしたのは、4か月前に輿入れしたアーロンの妻ソニア。


トラキアの反対側に位置する隣国テマスから嫁いだ第三王女で、アーロンより6つ年下の20歳。

気が強い彼女は気弱なところのあるアーロンを上手く補っており、かなり年下にも関わらず、夫は既に尻に敷かれ気味である。


そんなソニアは、侍女たちから聞いたのか、ひと月前に精霊の泉への慰霊訪問について知り、それからずっとアーロンに同行を願っていた。



「今も国民の間で語り継がれる前正妃さまの慰霊なのでしょう? 陛下の義理の姉に当たる方ともお聞きしています。義妹として、きちんと挨拶に伺わなくては」


「そ、そうか。いや、だが・・・」



自分だけなら野営も辞さぬと強気で議会を説得したアーロンだったが、新妻をそんな目に遭わせるつもりは毛頭なかった。


実際にはアーロンのみ森の家に泊まり、護衛騎士らは野営すると決まっていたが、隣国の元王女である王妃を、改装したとはいえ元管理小屋に一泊させるのは憚られる。



そう説得しようとしてもソニアに引く様子は一切なく、最終的には押し切られて同行が決まった。




―――それが予想もしない出来事につながると、誰もこの時は想像もつかず。







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