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病死



元宰相の手紙が他家に渡る前にクレイルが回収したのは、父の暴走を最小限に留めて侯爵家を守る為―――ではなかった。



アーロンの為だ。




―――殿下の伴侶探しをお助けし、一刻も早くお子をもうけていただく為に後宮制度の導入を―――




そう議会に働きかけるよう勧める元宰相からの手紙に、賛同こそすれ反感を待つ貴族は今の王国に恐らくいない。



王位継承者が2人しかいない、しかもそのうちの1人は訳ありだ。誰もが憂いて当然の事態。



だから、クレイルは手紙を回収し、事前にアーロンに報告したのだ。



別の罪を―――たとえば謀反などを捏造してでも元宰相を処刑して構わないと。


ただ、そうする代わりにクレイルの妻子、そして弟は見逃してほしいと彼は言った。



クレイルだけは分かっていた。何にアーロンが激怒しているかを。


庶子であるカレンデュラの存在を知らず、ただ養女に入っただけの他所(よそ)の娘と思っていたクレイルは、アーロンが元宰相をその職から解き、侯爵家当主の交代を命じて蟄居させた時に初めて裏の事情を知った。



アリアドネの死、そして精霊王の裁きをこの国にもたらした一因が、姦通を誘導した父の行動にあった事をクレイルは知ったのだ。


裏事情を知らず元宰相に協力して各貴族に手紙を送る手筈を整えていた侍従2人は、ある意味とばっちりと言えるのかもしれない。

だが、今の当主はクレイル。彼らは元宰相よりクレイルの命令を聞くべきだった。



確かに王家の血を引く子は必要だ。

アーロンだってそんな事は承知している。




王家の血を引く新たな子を―――それは今の王国の悲願と言ってもいい。



けれど、元宰相だけはそれを口にしてはいけない。



元宰相クロワ・ドマだけは、もうそれに関して口を噤むべきだった。



元宰相は、未だ自分の非を理解していない。いや、きっと弁える日など永遠に来ないのだろう。



―――彼もまた、アリアドネを殺した者のひとりだというのに。






クロワ・ドマは変わらなかった。



相も変わらず王統至上主義で、それを何より優先する。そしてそんな自分を国の忠臣と信じて疑わない。


彼はカレンデュラを側妃として当てがった事を後悔してさえいなかった。だって彼女から3人も王家の子が生まれている。

彼が悔やむとすれば、その後にカレンデュラが取った勝手な行動ひとつだけ。

そう、第二王子を殺害したことだけだ。




「クレイル。奴を殺せ。毒を盛って病死に見せかけて死なせろ。侍従たちの処分はお前に任せる」


「・・・では」


「ドマ侯爵家の罪は問わない。冤罪を掛けては兄上たちがやった事と変わらなくなってしまう。奴がいなくなれば、私はもうそれでいい」


「・・・温情に感謝いたします・・・っ」



クレイルは深く頭を下げ、退出した。





自分がした事を悔やんでくれればいい、深く後悔し苦しむ姿を見せてくれればいいと、アーロンはそう思った時もあった。


それでも設けずにはいられなかった罠にも似た試験期間に、元宰相は最後までその意固地さを示してみせた。



裁定を下した後も許せず試した自分が悪いのか、アリアドネならどうしただろうか。



そう問いたくても、答えを返してくれる人はもういない。彼女は冷たい泉の底にいるのだから。





―――それから3日後。


クレイルより元宰相クロワ・ドマが病死したとの知らせが届く。


王家からの見届け人も死亡を確認してアーロンに報告を寄越した。





その日の夜、アーロンはひとりある場所へと向かった。




現国王である兄ジョーセフがこもる部屋だ。




人を全て退がらせ誰もいない廊下に、アーロンのノックの音だけがやけに大きく響いた。







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