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西の塔での対決




ジョーセフが大きく振り上げ、振り下ろした剣は、右上から左下へと斜めに軌跡を描いた。


そう、カレンデュラからその隣に寝そべるタスマへと。



けれど、どこまでも―――どこまでもタスマはタスマだった。



咄嗟の、無意識の行動だろう。だからこそ当人の心根が如実に現れた。タスマはカレンデュラの身体を、そのくるまっていたシーツごと自分の裸体の前に引き寄せた。


そう、タスマはカレンデュラを盾にしたのだ。



「え?」



喚いていたカレンデュラがぽろりと呆けた声を溢した次の瞬間、絶叫が響いた。

カレンデュラが切られたのだ。左肩から右太ももまで斜めにざっくりシーツごと。


ジョーセフの背後から、護衛騎士に拘束されていた侍女の悲鳴が聞こえた。



剣を振り下ろした後の一瞬の間、それを隙と言えるのかもしれない、その瞬間にタスマは寝台から転がり出て枕の下から何かを引き抜いた。


幽閉に当たり、身につけていた衣服を除き、身体一つでここに連れて来られた筈。


武器の類など、所持も許されない筈なのに。



けれどそれもまた考えればすぐに分かる事だった。この男は西の塔にいながら毒さえ入手できた。今は何故だかできなくなった様だが、毒が運び込めて武器が運び込めない訳がない。



背後でドサ、という音と共に女の呻き声がした。侍女を床に放り投げたらしい護衛騎士が、ジョーセフの前に出て彼を背に庇う。


だが騎士は丸腰だ。ジョーセフがその腰から剣を抜き取っている。


タスマが手にしていたのは短刀。

それでジョーセフを庇う護衛騎士に切りかかる。


後ろには下がれず、けれど避ける事もできない騎士は、空っぽの鞘を手に取り、攻撃を防いだ。



「っ! 陛下! 今のうちにお逃げくださいっ!」



続いて繰り出される攻撃も凌いだ騎士が、前を向いたまま叫んだ。だがジョーセフは動かなかった。



だって、王が逃げるなどあってはならない。



「俺が奴を切る! お前はそのまま攻撃を防いでいろ!」



騎士の横に並び、ジョーセフは再び剣を振り上げた。



刹那、タスマがくるりと体の向きを変え、ジョーセフの方へと短剣の先を向ける。

国王へと注意が逸れていた騎士の脛に蹴りを入れて。


体勢を崩した騎士を横目に、タスマの短剣がジョーセフの喉元に襲いかかる。咄嗟に騎士が手元の鞘をタスマに投げつけ、それが彼の右肩に当たった。


一瞬だけタスマの動きが止まり、けれど今はそんな一瞬が命運を分け―――



ジョーセフが振り下ろした剣が、タスマの体を掠めた。大した傷でもないが、左上腕から血が滲み出た。



ジョーセフが思わず笑んで、再度剣を振り上げた時。



「ジョー・・・ッ、痛い、痛いの・・・助けてぇ・・・」



切り捨てた後、完全に存在を忘れていた女が、切り裂かれ赤く染まったシーツの中から手を伸ばし、ジョーセフの上着の裾を掴んだ。


引っ張られる形で動きが止まったジョーセフの胸元に短剣が迫る。

騎士が咄嗟に身体を滑り込ませ、直後、騎士は呻き声を上げて膝をついた。



ジョーセフがカレンデュラを蹴り飛ばすのと、タスマが騎士の横を抜けたのがほぼ同時。



だが、タイミングが同じであれば剣の長さが結果を左右する。



タスマの短剣は届かず、ジョーセフの剣はタスマの腹を横に切り裂いた。浅くではあるが彼の腹の左から右へ。



叫び声を上げたタスマが床に倒れた。



その時、ジョーセフの背後、塔の入り口からだろうか。複数の声が聞こえた。



空耳か、その声の一つがアーロン殿下、と言ったかに思え、ジョーセフが振り向こうとした時。



突如、視界に映る全てが闇に染まった。







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