表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/42

賽は投げられた



王城を出たデンゼルは、従者に指示を出した後、城下に降りて花を買った。



デンゼルはこれから森に向かう。


王領の、アリアドネが沈んだ精霊の泉がある森へと向かうのだ。



従者は任務を果たした後、先にポワソンに戻る事になっていた。


その時に報告は行くだろうが、念の為にポワソンへ鳥を飛ばした。何か勘違いをしてトラキア王国が動きでもしたら大ごとだ。



移動中に見た城下町は、どこか落ち着きがなかった。皆どこか不安そうで、苛立っていた。



それもそうだろう。


精霊王の裁きについては緘口令が敷かれ、アリアドネは公的には病死とされた。


だが、ひとの口に戸は立てられない。どこから情報が漏れたのか、突然に闇が訪れ3日3晩雪が降り続いた異常について、精霊王の怒りによるものと噂になった。


冬が来る前、国王は宰相らに命じて国蔵を解放したが、それで不満は多少抑え込めたとして不安は拭いきれなかった。



国民は今、現国王への不信感と疑心でいっぱいだ。

精霊王の怒りを買った国王、いつまたどんな天罰が下るか分からないと。


それも因果応報とデンゼルは思う。

だがその言葉は、デンゼル自身にも言えることだ。



娘を死なせてしまったデンゼルに罪がない筈がない。



明日はアリアドネが亡くなった日。


アリアドネの無実が完全に証明された日。


デンゼルは今から、娘が眠る泉の前で懺悔をしに行く。


それで娘が帰ってくる訳もないが、今デンゼルが娘にしてやれる事は、それくらいしか思いつかなかった。



買ったばかりの花束を抱え、デンゼルはひたすら森を目指して馬を走らせた。



今頃、幽閉中の王弟アーロンは、従者から書類の写しを受け取っただろうか。


彼がそれを読んでどうするのか少しばかり気になりつつも、もはや自分はこの国の民ではないとデンゼルは(かぶり)を振った。



(さい)は投げられた。



これからこの国で何が起ころうと、デンゼルには関係ない。


王弟が王位を取ろうと、側妃と前王弟の関係が明らかになろうと、国王の種無しが判明しようと、宰相の計画が露呈しようと。



デンゼルにはもう関係ない。



王城を出る前、デンゼルは宰相と―――かつての盟友とすれ違った。


恐らく宰相は、デンゼルが何をしに来たか察しただろう。そして国王が全てを知ってしまったであろう事も。



王の血統を存続させることに注力し続けた彼は、デンゼルの行動をどう思っただろうか。


妾が産んだ自身の娘を使ってまで、その娘を前王弟に引き合わせてまで。


そこまでして王家の血を繋げようとした宰相は、全てを暴露したデンゼルを裏切り者と言うだろうか。



宰相は、デンゼルのように国王を支えたつもりでいたかもしれない。


血の繋がりを敢えて隠し、カレンデュラをただの平民としてジョーセフに会わせた事を、忠臣の証だと言いたいのかもしれない。


願うのは王族の血を存続させる事それのみで、私利私欲を満たす意図がないから隠したと。



いや、最早そんな主張などどうでもいい。いずれにせよ、デンゼルは宰相を許せない。



宰相は、デンゼルに何も話さなかった。


国王が種無しだと判明した時も、宰相は事情を知る当時の筆頭医師を独断で処分した。


たぶん宰相は悩んだろう。


3人にまで減ってしまった直系王族の血を、どうやって守ればいいのか、しかもひとりは罪人だ。



理想はアリアドネの懐妊。だが夫は種無しと判明し彼との子は望めない。


王弟アーロンが貴族令嬢と結婚して、妻との間に子が生まれるならそれもよかった。


だがアーロンはまだ若かった上に、アリアドネへの冷遇を気にかけ婚約者を決めなかった。


新たな妃の存在が、アリアドネの立場を更に弱くすることを懸念したからだ。



庶子では継承権がない。


正式な夫婦の間に生まれた子でなくてはならなかった。



アリアドネとジョーセフが正式な婚姻後も白い結婚だった事で、策を弄する時間が生まれ、宰相は考えた。


世に知られていない妾との間の娘、カレンデュラに、王の子としてタスマの子を産ませようと。


幸い、彼女は美しかった。

力を持たない美しいだけのカレンデュラを国王は喜んだ。


宰相は、カレンデュラをタスマにも引き合わせ、国王との閨の前後に逢引きさせた。


西の塔を守る護衛騎士と、カレンデュラの専属侍女たちをも巻き込んで。




暫くの間、宰相の思う通りに計画は進んだ。


第一王子、第一王女、第二王子と立て続けに子が生まれ、少なくとも王位継承権を持つ男子がふたり増えた。



そう、順調だった。



―――タスマとカレンデュラが暴走するまでは。








「・・・結局は策に溺れたか」



つらつらと考えを巡らせながら馬を走らせるうち、デンゼルは森の入り口に到着した。



森の番人に許可証を見せ、泉までの案内を頼む。



花束を抱えるデンゼルを見て、何かを察したのだろう。番人は神妙な態度で先導した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ