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最後の忠義



数段高い玉座から、ジョーセフはデンゼルを見下ろした。


顔を見るのはほぼ1年ぶりだが、デンゼルは前よりもずっと窶れて見えた。



「本日は、これを陛下に上奏したく」



後ろに控えていた従者が、書類の束を差し出す。それをデンゼルが受け取り、国王付きの従者へと手渡した。



毒粉や薄刃など、怪しいものが仕込まれていないかを確認した後で、国王の手元に渡るのだ。



「陛下、これが最後のご挨拶になります。今日をもって、我がポワソン領はクロイセフ王国の統治から離れます」


「なんだと?」


「既に手続きは終えました。先ほどの書類は、このデンゼルのクロイセフ王国臣下として最後の忠義にございます。必ず(・・)目をお通しくださいますよう」



告げられた言葉の意味をジョーセフが咀嚼するより早く、デンゼルは再度深く頭を下げて踵を返す。

だがすぐに背後から待て、と呼び止められた。



「反逆か」


「反逆ではございません。陛下はポワソンを必要としない。ならばクロイセフにポワソンがいる必要もないでしょう」


「許さぬ。今この場で発言を撤回せよ。さもなくば反逆罪で投獄する」



ジョーセフの言葉に、デンゼルがふ、と笑う。



「私が期日までにポワソンに戻らぬ場合、トラキア王国の従叔父が動きます」


「は?」


「お忘れか? 私の大叔母は大国トラキアの先王に嫁がれた。そのお子である現トラキア王は、私の従叔父に当たりますぞ」



そうだった。ジョーセフは思い出した。


デンゼル・ポワソンは由緒正しき辺境伯であり、当時の王国騎士団長として武を極めた男でもある。


そしてなにより大国トラキアの王家の縁戚だった。



だから、若いジョーセフの後ろ盾としてはこれ以上ない存在で、彼のひと声で内乱の気配が消えたのも当然の結果で。



―――そう、だから。




『後ろ盾に恵まれ、陛下はようございましたな。

アリアドネさまさえ居てくだされば安心です。若く経験が浅い少年王でも何の憂いもなく玉座につけるのは誠に―――』









「・・・陛下?」



デンゼルからの呼びかけに、ジョーセフがはっと顔を上げた。



「・・・大丈夫だ」



ジョーセフは緩く首を振って過去の記憶を頭から追い出すと、背もたれに身体を預けた。



「そうか、お前を帰さねばトラキアが攻めてくるか」


「正直に申しますと、私は今ここで陛下に殺されても構わないと思っております。約1年前、ここ、この広間にて我が娘アリアドネは断罪されました。他ならぬ夫であるあなたによってです。あなたを支える為だけに生きていたあの子を、あなたは酷く罵り冤罪を掛けた」


「俺を恨むか」


「さてどうでしょう。あの子を国に差し出したのは、第一王子だったあなたを支持した私。恨むなら、過去にその決定をした私自身を恨みます」



だから、とデンゼルは続ける。



「ここであなたに殺されるのもまた良策。私自身への罰にもなり、この王国も滅ぼせますゆえ」



真っ直ぐに国王を見て、デンゼルはそう言った。



彼は深く後悔していたのだ。


国より平和より、家族とポワソンを守るべきだった。

それで、たとえジョーセフとアーロンが王弟タスマの手に落ちようとも、国が内乱で荒れようとも、気にかけるべきではなかったと。



王家に忠誠を示した結果が今なのだ。

デンゼルが王子に与えた最大限の庇護は、想像だにしなかった大いなる仇となって返された。



こうしてデンゼルは王城を去った。


最後に王家が管理する森―――アリアドネが沈んだ精霊の泉がある森―――に花を手向ける為、足を踏み入れる許可を得た後に。






―――その後。


人払いをした後、ひとりジョーセフは渡された書類に目を通した。


そして、その内容に酷く驚愕し、暫し放心する。



ようやく我に帰ったジョーセフは、掠れた声で廊下に控えていた従者に向かって言った。


筆頭医師を呼んでくるようにと。








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