第1話
「殿下・・・今なんとおっしゃいました」
「ふん、理解できんか。ならばもう一度言ってやろう」
ミューラー殿下は、淡々とした口調で話し出した。
細い身体に美しい銀髪。翡翠色の瞳に整った顔立ち。この国レオン王国の第一皇子だ。
突然の婚約破棄。
「・・・・そうですか」
婚約破棄を言い渡された相手、薄紫の宮廷ドレスを身にまとったローランド公爵家の令嬢アリシアーネ様は、冷めた目でそう語った。
「えっ!? なに? なんで?」
その場に居合わせた私の方がうろたえてしまった。
私は皇子のお付きの男性、ニール様に目で訴えた。
ニール様は国防大臣ランスロット伯爵家の三男であり、同年代のミューラー殿下の親友であり護衛も務めている将来有望な若者なのです。
すまない・・・そんな声が聞こえてきそうな表情で、私を見つめ返してくる。
アリシアーネ様とミューラー殿下は、政治的な思惑もあり決まった婚約のはず、そんな一方的に破棄できるはずもない。
それもこんな学園の廊下でするもんじゃない。
「ルシア行きましょう」
「えっ、でもアリス様・・・いいのですか? 一大事ですよ。婚約破棄ですよ!」
「いいの、ミューラー殿下のおっしゃったことですわ。受け止めましょう」
「で、でも・・・」
「ふん、勝手に行くがよい」
「行くわよルシア」
高慢な態度をとる殿下に対抗するように冷たい態度をとるアリス様。先に歩き出したアリス様の後を追うように歩き出しながらも、後ろを振り向いてしまう。
振りかえると、同じように先に歩き出した殿下の後を追うニール様も振り返り目が合った。
ごめん。手を合わせてポーズをしてきた。言葉は聞こえないが彼も謝っていることがよくわかる。
きっとこの婚約破棄も皇子の独断であり、皇子を止められなかったことを謝罪してのことだろう。
これは後で詳しく聞かないと・・・・そう彼と私は、皇子と公爵令嬢の取り巻き同士一緒に居ることが多く、いつしか恋仲になった間柄なの。
名残惜しいが、どんどんアリス様は先に行ってしまう。
「アリス様、待ってくださいよ~」
私は急いでアリス様の後を追いかけた。
◇
「ミューラー殿下はなんのつもりで婚約破棄などと・・・」
アリシアーネ様ことアリス様は、私室に戻るなりそう呟いた。
私とアリス様は幼馴染であり、愛称で呼び合うことを許されている。
「ですよね~。アリス様と婚約破棄されても何のメリットも無いのに・・・むしろデメリットの方が多いと思うのだけど・・・どうなんでしょう」
大国の皇子、それも王位継承権第1位のミューラー殿下の婚約者だ。それは将来の王妃であり知性と品枠を問われる女性が選ばれる。
アリス様はその候補として幼い頃から英才教育を受け、家柄もさることながら容姿も、同性の私からみてもほれぼれしてしまうほどなのに。
誰もが認めるアリス様、その婚約には愛があろうとなかろうと関係がない。それが皇族として貴族としての結婚だ。
まあ、私はどうせ結婚するなら愛がある方が良い。
私の家、ナイトレイ伯爵家には兄が継ぐし、次女の私はいずれ誰かと結婚させられるだろう。
私の想い人、ニール様も伯爵家の三男なのよね。家督を継ぐわけでもなく騎士として国に仕え、親衛隊としてミューラー殿下にお仕えすると目されている。
同じ伯爵家、家格も問題なし、きっと結婚も許されるだろう。
アリス様が婚約破棄されたら、愛しのニール様に会える機会が減っちゃうじゃないのよ。そんなことは許されないわ!
ルシア
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