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3話

 

「リヒト」


 声と同時に玄関のドアが開いた。


 いや、ドアが開く方が圧倒的に早かった気もするけれど誤差だ。


 それに我が家の生命線を一手に握りしめている方の来訪。


 文句を言うのは絶対にダメだ。


「いらっしゃい、姉さん」


「元気そうで安心しました」


 来訪者は俺にとっての義姉で、名はラピスラズリ・フォン・ドレヴィス。


 家名からもわかるように、父さんの娘で俺の義姉にあたる人。


 ゆったりした紅色のローブに、同色のとんがり帽子。


 長い水色の髪を後ろで三つ編みにして肩から胸に垂らしてる美人さん。


「俺を忘れてないか、娘よ」


「忘れていませんよ。父さんも生きててよかったわ」


「安否確認!?」


「仕事が忙しいので今、死なれると迷惑です」


「娘が冷たい!」


 えっと、うん、……姉さんは忙しい。


 忙しい合間に俺たちの生活を援助してくれて、さらに俺に魔法や魔物について教えてくれる先生役もしてくれてる。


 とても有難く、特に魔物の知識には何度も命を救われたりもしているので必要なのは理解してるんだけど……正直、座学は苦手だ。


「あとこれね」


 家に入りながら姉さんは片手をスッと振る。


 すると手の動きに合わせて空間の裂け目を生み、その中へ手を入れた。


 収納魔法とか言われてるもの。


 ただ一般的には空属性の単一属性魔法なんだけど、姉さんのは術式に手を加えて時属性も取り入れられてる特別製。


 空属性単一の方でも超高等魔法に分類されるのに、時属性まで加えて亜空間内であれば時間経過なしのアイテムボックスの魔法は世界的に難易度分類さえされていない。


 というよりも姉さんは複属性のアイテムボックスを世間に公表してない。


 公表すれば新しい魔法として魔法省からお金がもらえるみたいだけど、それをすると教えろと訪ねてくる人、居座る人たちが増えるから嫌なんだとか。


 こられても難しい上に嫌になるくらい複雑で助長な術式を暗記しないといけないから習得まで辿り着けないし、それに加えて消費魔力が馬鹿みたいに多いから人を選ぶのよ、と前に姉さんが言ってた。


 だから使えるのは姉さんと、姉さんの魔法のお師匠様くらいなんだとか。


 もう少し成長したら俺にも教えてくれる約束だ。


 ……使える気はしないけど一応、便利だから頑張ろうと思う。


「はい」


 少しの間、空間の裂け目に入れた手で中を漁る素振りを見せた後、パンパンに膨らんだ皮袋を取り出して父さんに渡す。


 中身は食料や生活消耗品。


 俺も手伝おうと荷物に手を伸ばしたら、その手は姉さんに掴んで止められた。


「リヒトはお勉強。片付けは父さんに任せておきなさい」


 俺も父さんも姉さんの決定に異は唱えない。


 ただ粛々と従うだけだ。



  ▼



「私がいない間、何かありましたか?」


「ん~……」


 何かあったかな?


 座学が始まる前の雑談。


 家族として互いを知るための時間が欲しいとお願いされて始まった習慣の一つだ。


「この前、幼体黄竜が迷子になって暴れてたくらいかな? あとは平和なものだったよ」


「属性竜種ですか。……しかし幼体なら(父さんの)敵ではありませんね」


「うん。硬くてちょっと大変だったけどね」


「幼体とはいえドラゴンの鱗は…………大変だった? その言い方だとリヒトが戦ったみたいに聞こえてしまいますね。もう少し言葉選びに気を付けなさい」


「え? 俺が……いや間違えた。戦ったのは父さんです」


 遅まきながら、俺は自分が口を滑らせた事に気付いた。


 紫色の姉さんの瞳が、過大な魔力の発露の影響で緋色に変化する。


 これは魔法使いである姉さんが戦闘態勢に入った事を意味していた。


 父さん……ごめんなさい。


 心の中で謝罪した直後。


「ちょっと!!」


 ズバンッ!! とキッチンに繋がる扉を姉さんは開ける。


 姉さんが持ってきた干し肉で隠れて昼間から一杯やっていた父さんの肩が大きく跳ねた。


「い、いや! これは違くてだな! 味見! そうリヒトに食べさせる前に毒見役が必要だろうと思って!」


 いや、父さん、俺、酒に興味はまだないよ。


 それに姉さんが怒ってるのはソレじゃないんだ。


「私のリヒトをドラゴンと戦わせるだなんて、何を考えてるのよ!!」


「あ、ああ、その事か。今のリヒトなら幼体程度なら問題ないと思ってな。実際に無傷で帰ってきたしな。俺の目は確かだったってわけだ」


 はっはっはっ、と父さんは笑う。


 きっと父さんはもう、それなりの量のお酒を飲んでいたんだろう。


 だから酔っていて気づけなかったんだと思う。


 姉さんが素の口調になるくらい本気でキレてるって事に。


「はっはっはっ、じゃねえんだよ! この酔っ払いジジイ!」


 ブチ切れ姉さんが魔法を撃った。


 父さんに直接魔法を撃ち込んだりはしない。


 何故か父さんは魔法が効きにくい体質であり、その事を実子である姉さんも知っている。


 だから姉さんが狙うのは父さんの手の中にあった酒瓶。


 その酒瓶のお酒だけを瞬間で沸騰させる。


 酒精を完全に消すほどに。


 何がすごいって、酒瓶は加熱しないで中身だけを加熱する繊細な魔力コントロールがすごい。


「あ゛あ゛っ!? 俺の秘蔵の酒がただの白湯にいいぃぃーーっ!!?!?」


 確かあのお酒は東方からの輸入品で、米から精製されてるとか。


 エルファレス国にはないお酒で、人気商品という事もあって入手困難だって父さんも大切に少しずつ飲んでいた記憶がある。


 俺や姉さんには酒の魅力は理解できないけれど、魂の抜けた表情で崩れ落ちた父さんの姿を見れば、どれほどの衝撃だったかは想像するのは容易だ。


 父さんへのお仕置きを完遂した後、姉さんの授業が始まった。



 

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