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2話 

 

 俺は高い山の上で、血のつながらない父さんと暮らしてる。


 可能な限り生活は自給自足。


 畑を耕して野菜を、山に住んでる魔物を倒して肉を、貴重な甘味成分は果実。


 ただ果実の生る木は山の下の方にしかないから、ちょっと採りに行くのが面倒だ。


 あと山の土質が悪いっていうか、栄養素が偏ってるらしくて野菜の成長も良いとは言えない。


 土質や栄養素うんぬんっていうのは姉さんの受け売りだから、俺は詳しい事は理解してない。


 だから自給自足とか言ってるけれど、実際は定期的に様子を見に来る姉さんの買ってきてくれる食料に依存してる形だ。


 姉さんが来なくなると俺たちは確実に餓死するので、あの人に逆らうのは得策じゃない。


 いやまあ、ガチでヤりあっても俺なんて片手で完封されるんだけど。


「リヒト」


「何、父さん?」


 呼ばれて振り返ると白髪を頭の後ろの高い位置で一つに結んだ父さんが笑顔で手を振っていた。


 父さんは東方の小国の民族衣装のキモノを緩く纏って、腰帯にこれも東方で生まれたカタナを二本、佩刀している。


 何でも父さんは『剣聖』の称号を神様から賜ったすごい人らしい。


 あと二年くらいで70歳を迎えるのに、剣を手に構えた時の覇気は年齢による衰えを感じさせない。


 今はカタナじゃなくて畑道具のクワを手にしてる。


 畑の手入れの途中だったんだろう。


「山の中腹あたりで黄竜が暴れてるらしい。ちょっと行って止めてこい」


「成竜?」


「いや、気配的にまだ幼体だな」


 それなら何とかなるか?


 さすがに属性竜種の成体には歯が立たないけど。


 一応、父さんに剣は教えてもらってるしね。


「でも、わざわざ止めに行くって事は何か被害でも出そうなの?」


「暴れてる場所ってのが、お前の好物のモモの木の近くでな」


「それを早く言ってよ!!」


 居ても立っても居られずに俺は駆けだした。


「おい! 忘れ物だぞ、リヒト!」


 忘れ物?


「いくら相手が幼体の属性竜種とはいえ素手で挑むのはまだ早いと思うぞ」


「あ」


 小走りで追いかけてきた父さんから俺は、姉さんが用意してくれたカタナを受け取る。


 先日の十歳の誕生日祝いのプレゼントとして貰ったものだ。


 それを父さんに俺の手に馴染むように柄の部分を改造(いじ)ってある俺カスタム。


 カタナの鞘を腰のベルトに固定して、今度こそ準備は万端!


 本当は父さんと同じようなキモノが欲しいんだけど、あれはかなり高い物らしい。


 ゆにゅうひん、で、かんぜい、がどうのこうのって姉さんが教えてくれたけど、よくわからなかった。


 その話はひとまず置いといて、今はモモの木を護りに行かないと!


 あそこのモモの木がなくなると麓近くまで下りないといけなくなって面倒が増えるからね。



  ▼



 急勾配の山を飛ぶように駆けおりて、あっという間に目的地に到着!


 ちょっとした魔法を駆使して、たまに魔物の頭を踏み台に使わせてもらったから早かったと思う。


「本当に暴れてる。しかも俺のモモの木に本当に近いじゃん!」


 死守したいモモの木から50メートルも離れていない場所に、鮮やかな明るい黄色の鱗の竜種がいる。


 背中に羽はあるけれど退化して小さく、代わりに手足が太く短くなった四足歩行の竜種。


 突進力に長けた種類で、だけど幼体だから竜種の代名詞ともいえるドラゴンブレスはまだ吐けないはず。


「でも神をも殺せる可能性を秘めた牙の一撃は有効なはずだから、噛みつかれないように注意」


 竜種と戦うときの注意点を復習しながら、幼体黄竜を観察。


 何が原因でここで暴れてるのかを知るために。


 痛みで暴れてるのとも違う感じだし、前に見た機嫌が悪い時はもっと周りのものに八つ当たりしてたよな、確か。


「…………そういえば親は?」


 竜種の子育て方針は放任が多いけど、さすがに自分のテリトリー内限定の放任。


「このあたりを棲家にしてた黄竜のテリトリーは、もう少し山頂寄りだったような……」


 迷子、なのか?


 家が、親が恋しくて暴れてるんだろうか?


 ……それっぽい気がしてきた。


「さて。そろそろモモの木に被害が出かねない距離になってきたし」


 大人しくしてもらおう。


 俺は柄を握る。


 抜刀は、まだしない。


 腰を深く落として左足を前に。


 前傾姿勢にしながら、腰をぐぐぐっと限界近くまで捻る。


 その姿勢のまま地面を蹴る。


 ダンッ、と俺が地を蹴った音が遠くから聞こえた(、、、、、、、、)


 当然だ。


 俺はもう幼体黄竜の目の前まで移動を完了しているんだから。


 これは『瞬動』っていう短距離高速移動技術。


 移動距離の長い『縮地』は、まだ会得できてない。


 まあ今の所、瞬動で十分間に合ってるから地道に練習を続けよう。


 そして一呼吸に満たない間に抜刀。


 カタナの刃で幼体黄竜を全力でぶっ叩く。


 あ、もちろん峰打ちです。


 斬り殺しちゃうと、我が子を殺された怒りで狂った黄竜一族全てと殺し合わないといけなくなるから。


『キュルアアァァアアーーッ!!!』


 幼体だから鳴き声は可愛らしい感じだけど、翻訳すると『何すんじゃテメエぶっ殺すからなゴラァ』みたいな感じだと思う。


 殺意と敵意に満ちた視線を見れば誰にでも翻訳可能なんじゃないかな。


 だから俺も紳士的に返答しておいた。


「上等だこのマヌケドラゴンが! 殺しはしないけど死ぬ一歩手前くらいまでは覚悟しろよアアン!!」


 ちなみに黄竜は地系統の属性竜種に該当し、その特性は異常なほど高い自己防衛力にある。


 簡単に言えば超硬い。


 九割殺し宣言なんてしなければよかった、って少し後悔したのは内緒の話。


 

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