6.便利な魔術具と、虚勢を張る私。
今日、フィンターが(やっと)本気を出します!!
頑張れ!!
「伯爵家及び子爵家の皆さん。カウント家のフィンターよ。皆さん、聞こえていますわよね?・・・現在、我が家には高熱の男性がいます。ただ、わたくし達だけでは対応しきれないのです。ですから、医療器具及び医師免許を持っているもの、食料などに余裕がある家は、直ちにカウント家の離れまでお越しください。」
全ての伯爵家・子爵家の屋敷には、放送するための魔術具とそれを聞くためのスピーカーが設置されている。
この魔力がどこから出ているのかは知らないが、とっても便利なものだ。
そして、我が家では私がいる離れのみに設置されている。
勿論、『奥様』に情報を与えないためと、頼りない父親よりも側近・ハーリリンに情報を聞かせるためだ。
「子爵家の皆さん、これは、命令ではありません。従ったからといって何かメリットがあるわけでもありませんし、従わなかったからといってデメリットがあるわけでもありません。伯爵家の皆さんも同様です。」
そう、こういうお願いを伯爵家の私からすると、お願いではなく命令になってしまうのだ。
それも、「命令ではない」と言っても、このお願いを聞くといいことがあるのではないか、このお願いを聞かないとこれから出世できないのではないか・・・などと勘繰る人が続出するし・・・。
「ただ、協力できるほどの余裕がある家は、協力してほしいという要請です。・・・協力しても差し支えない家は、カウント家の、フィンターがいる離れまでよろしくお願いいたします。」
ブチっとスイッチを切って魔力を遮断した私は、さっきまで張っていた虚勢を解く。
あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!
とりあえず・・・これで、私のやれることは、やったと思う。
とにかく、令嬢という役が合わないので、こんなちょっとしたことでもドッと疲れるものである。
「まあ、いっか。私がこんなにダサいってことは、みんな分かってるだろうし。」
・・・嘘だ。
虚勢を張ってばっかりの私の素の顔なんて、ハーリリンとリヒトとお父様ぐらいしか知らない。
トウィンク伯爵を、バロンズ家に運び込んだときにちょっと本当の自分が出てしまった気がするけど、あの時は気が動転していたということで、セーフだろう。
・・・ってこんなつまんないこと考えてる場合じゃなかったよぉ!!
「・・・トウィンク伯爵のことが心配で仕方ない!急いでリヒトのところへ行きましょう♪」
あえてハイテンションで言ってみた。
そうでないと、気分が沈んじゃうだろうから。
★ ★ ★
「リヒト!トウィンク伯爵は大丈夫なのですか!?」
バッターンとものすごい音を立てて扉を開けた私は、息をつく間もなくリヒトを問い詰める。
汗でべったりと張り付いている髪を邪魔くさそうに払いのけたリヒトは、こちらを見ることもなく返事をする。
「・・・はっきり言うと、難しいですね。もう、こちらでは手を打つことができません。」
そんな・・・。
ハーリリンが戻ってくるまで、あと10分はある。
それまで持つのだろうか。
「彼の魔力と生命力が死ぬのを拒んでいます。」
・・・この人、まるで私の心を読んだみたい。やっぱり面白いけど、ちょっと怖い人。
でも、そうか、そうなのか。
彼の魔力と生命力が体と熱に勝利していると。
彼の魔力の量は知らないが、魔力の色を感じ取れるということは魔力は多い方なのだろう。
ならば、あと10分くらいなら持つのでは・・・?
「いえいえ。そんな単純なものではありません。」
・・・また心を読まれた!?
「・・・あなたの表情が素直なんですよ。で、単純ではないといったのは、彼自身の心が生きることを拒んでいるということです。」
トウィンク伯爵の魔力と生命力は死ぬことを拒み、心は生きることを拒んでいる?
それって、どういう事・・・?
フィンターがカッコいい・・・リヒトもかっこいい・・・。