5.令嬢のプライド。
今回、時間がないのとアイデアが浮かばないのとで、とても短いです。
話を聞きながら少し体をくねらせているハーリリンが面白い・・・。
なんて思ってたら。
「そして・・・っ!?」
朗々と話す声が止まったのに気が付いて、顔をあげる。
リヒトは目を見開いて、ある一点を凝視していた。
その視線の先は・・・
「・・・トウィンク伯爵!」
先ほどまでは目を開いて少し身動きしていた彼が、就寝台に深く沈みこんでいた。
目を瞑って胸を大きく上下させている。
ぎゅっと眉根に寄った皺に、こっちまで苦しくなってくる。
「・・・熱が上がってますね。油断していた私の責任です。申し訳ございません。」
最後の2文くらいはほとんど棒読みで言い切ったリヒト。
まさに天から地にたたき起こされたように、顔色が赤から青に変わったハーリリンに向かって、
「解熱剤をいただけますか?」
と声をかけた。
でも、いつも頼りになる側近は、トウィンク伯爵を呆然と見ながら脂汗をにじませるだけだった。
「ないんですか!?」
「あっ、う・・・私が元気すぎて、一回も熱を出したことがなかったので・・・」
「はぁっ!?熱を出したことがなくても、常備は基本でしょう!」
さっきまでふわふわとしていた空気が、頬を刺すほど冷たくなった。
随分と忙しい空気だ・・・と、場違いなことを考える。
人は、窮地に追い込まれると、現実逃避したくなるものだ。
でも、現実は私を逃がしてくれない。
「どうするんですか!?」
「あ・・・っ、ごめんなさい・・・。」
もう、この声が私のものかハーリリンのものか分からない。
絞り出した謝罪に、リヒトは辛辣だった。
「謝罪はいりません。解熱剤を、早く!」
解熱剤、解熱剤・・・。
リヒトにも弁解したが、本当に我が家にはない。
「ハーリリン!」
まだ俯いて立っている美女は、ぴくっと呼びかけに反応した。
潤んだ瞳をゆるゆるとこっちに向けてくる。
くっ・・・可愛い。
・・・いや緊急事態だぞ、オタクは封印!
「悪いけど、バロンズ子爵の家にもらいに行ってくれない?多分解熱剤はあるわ。」
恐らく、解熱剤をもらって帰るまでの所要時間は20分。
私とハーリリンだけだったら、絶対に無理。
でも、今は2人じゃない。
心の底から彼を信頼しているのに、私は素直に言えなかった。
自分でも意地悪い、狡いと思う言い方。
さっき怒鳴られたのが尾を引いてることは自覚してた。
ただ認めたくないだけだ。だって、子供みたいだもの。
「・・・リヒト。20分、持たせられるわよね?」
「・・・はい。」
そう、貴方ならそういうわよね。
盲目的にリヒトを信じている自分に苦笑する。
そして、次の瞬間その表情をひっこめた。
・・・看病については私は何もできない。
じゃあ、私は何をすればいい?
料理・・・厨房の使い方も分からない。
氷の場所だって分からない。
今までハーリリンに頼りっきりで、何もしてこなかった自分を心の中で罵倒する。
・・・側近にできることはできない。
でも、私は伯爵家令嬢。
側近にできないことができる。
そうだ、全部できる人間なんていないんだ。
ハーリリンも、リヒトも、私も。
みんなそれぞれ出来ることがあって、出来ないことがある。
だから一緒にいて、補い合って、生きていく。
それが、誰かと一緒に生きるということだと思う。
なら、私ができることは。
リヒトの顎を伝う汗を目で追いながら、自分ができることを頭の中から引っ張ってくる。
すると、パチンと何かがはまった。
・・・私、伯爵令嬢・フィンターにしかできないこと、見つけた。
出来ることが見つかれば即結構である。
「リヒト!悪いけど、私も外に行ってくるわ。一人で大丈夫よね?」
リヒトがうなずくのを待たずに、扉を乱暴に開けて走り出す。
令嬢には、あるまじき姿だろう。
令嬢らしく、つつましく。穏やかに。鷹揚に。
なんて・・・っはぁ?笑えるわ。
「知らないわよ!人の命がかかってんの!令嬢のプライドなんか捨ててやる!」
・・・ま、令嬢の職権は全力で利用させていただきますけど?
誰も聞いてないであろう私の叫び声は、秋の廊下に消えていった。
説明が多かったですが、飽きずに読んでください!
お願いします!