1.ダンスは楽しくないけど、食事はおいしい!そして何故か銀髪男子を拾う。
2日に1回と書いておきながら、連続で投稿しちゃいました。
「美しい髪ですね。目も髪も、綺麗な水色。」
「・・・ありがとう。」
「お近くにお住まいなんですか?」
「ええ。」
「近くに住んでいる伯爵や子爵はいないと思っていたので、とてもうれしいです。」
「そう。」
「・・・。」
「・・・。」
ダンスを踊る間を埋める会話が尽きた。
若い人と話すとこうなる。
何故か・・・それは私がぼろを出さないために、『奥様のご命令』で無口な公爵令嬢を演じさせられているからだ。
無口・・・ねぇ。え?結構無理あるよね。
「踊れてうれしかったです。有難うございました。」
「こちらこそ。」
微妙な雰囲気のまま別れて、次の相手を探す。
「お嬢さん、私と踊らないかい?」
「ええ。」
「いっやあ~。そんなに可愛いのに、婚約者いないんだって?寂しい18才だねえー。私と結婚する?」
「いえ、それは・・・。」
「そうだよねえ。そういえばこの前さあ・・・」
気持ち悪いオジサンは、一方的に話しかけてくるので、会話(?)が尽きることはない。
その分、気持ち悪いセリフと声をたくさん聞かなければいけないわけだが。
まあ、微妙な雰囲気にはならなかった。
いやでも気持ち悪い。
(結論=若い人でも、オジサンでも、1mmも楽しくない。)
★ ★ ★
・・・子爵家にしてはおいしいわね、この料理。
ダンスに疲れたら、食事である。
私はこの食事のために毎晩夜会に参加しているといっても、過言ではない。
ちなみに、今食べているのは絶品ローストビーフである。
このほど良い肉の柔らかさ、肉そのものの甘さ・・・最高!!
そして、2時間たって、ついに8時!
よぉし!帰れる!
ハーリリン、遅れるかもしれないって言ってたけど、早く来るといいな。
「ああ、残念。もう8時だわ。わたくし、今日はここで失礼いたしますね。」
そう周りの人に断って、この城の使用人に扉を開けてもらい、外に出た。
いぇい。
・・・ここバロンズ家はなかなかセンスがいいわね。
門の手前にある庭に植えてある草花もきれいに整えられている。
私の記憶が正しければ・・・ハーリリンに教わったのだが・・・その花の花言葉は『幸せ』や『愛情』などのポジティブなものばかりだ。
それが雨に打たれていて、心が痛むけど、露に濡れている花々が美しい。
香りのよいハーブも植えてあるらしく、嗅覚も程よく刺激される。
雨らしい湿っぽい空気と共にハーブの香りを肺いっぱいに取り込む。
アーチ状の門も細かくてセンスがいいし、真ん中にある天使の銅像もなかなか可愛いし、門の前に人も倒れてるし・・・え?人?
ごく自然に紛れ込んでいるが、本物の人間が仰向けに倒れている。
「な、だ、大丈夫ですか!?」
一瞬、ドレスが汚れるかも・・・としゃがみ込むのを躊躇したが、人命がかかっている。
ドレスなど気にしている場合ではない。
「き、聞こえますか?カウント家のフィンターです!」
応答はない。
どうやら、完全に意識を失っているらしい。
グッショリ濡れている服は良い布を使っているが、デザインはシンプルだ。
瞳の色は分からないが、顔の形はびっくりするほど整っている。
銀色でウェーブした艶のある髪。
・・・間違いない、伯爵か子爵だ。
夜会に参加しようとここまで来たものの、庭に入ったとたん力尽きた・・・のだろう。
いや、解説をしている場合じゃない。
とりあえず中に運ばなきゃ。
「ちょ、ちょっと失礼します。」
彼のわきの下に手を入れ、そっと持ち上げる。
148cmと背が低い私に、180cmはあるだろう彼が運べるだろうか、と思ったけれどそれは杞憂だった。
彼が、ひたすら軽いのだ。
恐らく、いや確実に、私より軽い。
くっ・・・乙女の体重を下回るとは・・・いい度胸だな。
よくよく見ると、服のウエストはぎゅっと絞られているのに、まだ余裕がありそうだ。
足も、折れちゃいそうなくらいに細い。
・・・これは倒れるよ。
艶があるのは髪だけで、激しい雨に打たれている肌はあれているし、目の下には隈がある。
・・・いやだから、解説せずに運べ自分!
そんなことを思いながら、えっちらおっちらさっき出たばかりの扉まで近づき、
ギギィィィィィィ
さっきは使用人に開けてもらった扉を全力で開け、彼を中に入れる。
おなかに空気を溜めて、会場の端の人まで驚くように、思いっきり言葉をのせて叫んだ。
「すみませーん!この中に、医師免許を持っている方はいらっしゃいますか!?」
私の呼びかけに、一番早く応じたのはバロンズ家の使用人だった。
固まる人々をかき分けて、ぽっかりと空いた空間に出てくる。
3人がこちらへ免許状を提示しながら、銀髪の彼の顔を覗き込む。
そのとたん、全員が全く同じように眉間に皺をよせた。
・・・え、三つ子?
「・・・えーっと、リヒトは脈をとってくれ。セントは熱を測れ。俺は他を見る。」
その中で一番地位が高いであろう人・・・リーダーかな・・・が、ほかの二人に指示を出す。
リヒトと呼ばれた黒髪・金色の目の若い使用人が銀髪の彼の手首をつかみ、腕時計を見ながら脈を図り始めた。
同様に、茶髪・茶色の目の使用人・・・セントも、銀髪男子の口に温度計を突き刺した。
今指示を出した人は、呼吸を見たり服のボタンを緩めたりしている。
3人とも、それぞれの仕事をこなしつつ、ある一点に釘付けだった。
はじめは恐る恐る美しい銀髪と整った顔立ちを見つめていたが、それ以上に体の細さに驚愕しているらしい。
リーダーがメジャーで図っているウエストの目盛りを、これでもかとガン見している。
私は、ただぼーっと見ているしかできず、立ち尽くしているだけだった。
「フィンター様。こちらでお着換えください。」
見かねた女性使用人に促され、個室に向かう。
自分の体に目を落とすと、ハーリリンが選んでくれたドレスが、泥と木の葉でぐちゃぐちゃになっている。
・・・うん、人命救助、人命救助・・・ハーリリン、許しておくれ。
心の中でハーリリンに土下座しつつ、渡された着替え・・・この家の夫人が若いころ着ていた服らしい・・・を凝視する。
今の流行とはかけ離れているが、私の水色の髪によく映える(自画自賛で悪かったわね!)ピンクのドレスだ。
むふふ・・・と置いてあった大鏡の前でターンしてみる。
裾がふわっと広がって、なかなか可愛かった。
今の流行は、ドレスの下に支えを入れてるから、重いったらありゃしないんだよ。
・・・いや、なぁに和んでんだ私!戻るぞ!
馬車は止まって待っていたものの、0.5km先で待っていたため、フィンターはへとへとになるまで走るはめになったそう・・・。