16.襲われた。そして、女神が舞い降りた。
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それにしても、急に寒くなりましたね。
この前までは暑かったのに。
秋がどこかに言ったような感覚です。
「わ~っ!綺麗なバラ!・・・暗くてよく見えないのが惜しいわ。」
ぼんやりとだけど、夜の闇に紛れて深紅のバラが目に映る。
つい歓声を上げた直後、その赤をお義兄様の瞳の色と重ねる。
・・・うーん、やっぱりお義兄様の瞳の赤の方が綺麗かな。
「ありがとうございます。この花、わたくしが育てたんですの。」
頬を少し赤く染め、目を伏せたエレゲンス様がぼそぼそと言葉を発する。
・・・え!?
「うそ、え?どこまで万能なの、エレゲンス様~!」
そして、お義兄様の瞳の方が綺麗とか言ってごめん。
心の中で呟いて、再びバラに目を移す。
・・・お義兄様がこのバラを見たら、どう思うんだろうな、なんて言うんだろうな。
彼がこのバラを見ることができないと知りつつも、ついそう考えてしまう。
「・・・ありがと。」
さっきより少しだけ大きい声に違和感を覚え、エレゲンス様の方を見た瞬間、首元にひやりとしたものが触れた。
何が起こったのか理解できず、固まっていた私には、すべてがスローモーションに見えて。
清楚な表情から一変、般若のような形相になったエレゲンス様は、小刀を構え・・・私の首にあてていた。
「・・・なんて、言うとでも?」
残忍に嗤いながら、手に力を入れ、そこで私は一生を終える・・・はずだった。
エレゲンス様の口から、こらえきれない高笑いが漏れた、その時。
突如、目の前が銀色の光でいっぱいになった。
その光が自分から出たものだと気が付いたのは、跳ね返った小刀がエレゲンス様の頬をかすめた時だった。
私もエレゲンス様も、お互いに何があったのか分からない・・・と黙って見つめあう、間の抜けた数秒。
初めに口を開いたのは、エレゲンス様だった。
「あ・・・なた!何を、したのよ!」
「いやいやいやいや、私何もしてないから!勝手に光っただけだから!」
必死の弁解もむなしく、再び刃物を構えられる。
どこから出してきたのか、次は槍のような長い刃物になっていた。
・・・ん。本気で終わった。
さっきの謎の光のことは全く分からないが、とにかく私を守ってくれたのは確かだ。
でも、この刃に勝つとは思えない。
「覚悟しなさい!」
・・・貴方は剣士ですか?違いますよね。伯爵令嬢ですよね。
人間とは、窮地に陥った時はつまらないことを考えるものだ。
自分を殺す相手にツッコミを入れてしまった。
今度こそ首に槍が振り下ろされる!
・・・。
・・・。
・・・。
・・・あれ?
いつまでたっても、首に衝撃は来なかった。
「はあ・・・フィンターを傷つけたらただじゃおきませんよ?」
低音の、落ち着いた声。
私が大好きな、大好きな人の、大好きな声。
「お・・・義兄様っ!」
ばっと顔をあげ、声がする方を見つめたら、女神のごとく微笑んでいるお義兄様がゆったりとたたずんでいた。
ハーリリンとリヒトの姿は、ない。
魔力の形だけを頼りに、ここまでたどり着いたのだろう。
顔や手の白い肌に、ところどころ擦り傷や切り傷が見える。
『おにいさま だいじょうぶ?』
「今死にそうになってた人が、それ言います?・・・はい、大丈夫ですよ。」
『よかった』
と、ここで一番気になっていたエレゲンス様を見る。
今度こそ、本当に何が起こったのか分からないという顔で座り込んでいた。
彼女の手にあったはずの槍は、燃え切ったらしく黒い炭と化している。
焦げ臭いにおいがあたりにむわっと広がっているけど、勿論誰も来ない。
「ホント・・・何なの、こいつら。意味分かんない。」
ぶつぶつと呟き、ゆらりと立ち上がったエレゲンス様が、落ちていた小刀を拾い上げて襲ってくる。
うつろな目の中に、狂気が垣間見える。
「きゃああっ!」
悲鳴を上げたものの、私は確信していた。
お義兄様が助けてくれる。
私の確信通り、お義兄様は言葉を発する。
『消失』
即座に槍と同じように炭化した小刀が、サラサラと零れ落ちる。
突っ立っていた私の腰に手を回し、さらに追い打ちをかける。
『拘束』
エレゲンス様は、見えないものに押さえつけられるように、仰向けに床に崩れ落ちる。
しばらくは抵抗していたが、力尽きたようにふっと意識を失った。
~エレゲンス様の名前の由来~
エレゲンス・・・傲慢
フール・・・馬鹿
(もはや悪口でしかありませんねww)
謎の光の正体はまた次回。
次はトウィンク伯爵目線で、夜会を描きます。