10.いつもと違う我が家と、お義兄様の寝言。
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いつも通り夜会から帰ると、いつもの屋敷が見えて、いつもの馬車からいつものように降りる。
「ただいま~。」
「「「「「「「「「「お帰りなさいませ!フィンター様!」」」」」」」」」」
ん!?いや、いつもと全然違うんだけど!?
何この、数えきれないほどの側近たち。
・・・20はいる
入る屋敷間違えたかな?
「すみません、間違えました。失礼いたしましたっ!」
恥ずかしい。
自分の家さえ分からなくなってたなんて、どんだけ馬鹿なの、私っ!
足早に帰ろうとしたら、後ろからクスクスクス・・・と笑い声が聞こえてきた。
聞いていて気持ちいい、流れるような声だ。
「フィンター。間違いなくここは、貴女の家ですよ。」
銀髪、深紅の目のイケメン。
言わずと知れたトウィンク伯爵だ。
「お義兄様!この人たち誰~?」
リヒトが隣でお義兄様に通訳をしている。
もう完全に義兄妹のようになった私達だが、そのことを話したのは昨日のことである。
「申し訳ございません。もともと我が家にいた側近を連れてきたんです。勿論、こちらで給料や食費などは負担するので、ご迷惑をかけることはないかと。」
う~ん、フレンドリーなのは私だけで、お義兄様はどこか他人行儀だなあ・・・。
敬語だし。
あ、いや、違う。今の問題はそこじゃない。
「全然いいよ!うん、私がいる離れだけでしか活動できないけどいいの?」
「ああ、ここにいる側近は本人の希望でここに来たので、大丈夫です。難色を示した側近は、屋敷の維持に努めてもらっています。」
へえ、屋敷の維持か・・・。
「って、お義兄様の家に彼の家族はいないの?」
私が他の屋敷に行くとしても、お父様や『奥様』がいるから、二人の世話も頼むことになる。
でも、屋敷の維持だけということは・・・彼と側近以外、誰もいないのではと思ったんだけど。
「はい、いませんよ。兄弟はいませんし、両親は・・・え?」
ん?
え?って何、え?って!
両親のこと忘れたの!?
「も、申し訳ございません。記憶にございません。」
「いくら何でも薄情過ぎない!?」
絶叫してから、ハッとした。
すでにリヒトはお義兄様の手にその言葉を書き込んでいた。
やばい、これは逆鱗かなんかだったかもしれない。
どうしよう・・・。
大体の物語では、両親のことは触れてはいけなかった・・・ってパターンが多いんだけど。
「申し訳ございません、本当に申し訳ございません。」
「ななな、何で謝るの!?ねえ、お義兄様は何にも悪くないって!」
「いえ、私の責任です。」
「いやいや、軽い気持ちで聞いただけだから!責任とかないよ!」
・・・と、そこにいる側近も含め全員で、お義兄様を説得するというなかなかシュールな展開になった。
★ ★ ★
「スーッ、スーッ・・・( ˘ω˘)スヤァ」
説得している間に寝てしまったお義兄様の寝顔をじっと見つめる。
それに飽きてきて、美しい銀髪を右手で救い上げて手から零れ落ちるのを見る・・・を何回か繰り返す。
いきなり謝罪の声が止まったと思ったら、目を閉じて動かなかったんだよ。
・・・冗談じゃなく、その場にいる全員の心臓が一瞬止まった。
リヒト曰く、食事をしない分睡眠で活動するエネルギーを得ているのだろう・・・とのことだ。
魔力持ちって、そんな特殊な体質なんだなあ・・・。
「ん・・・。申し訳、ございません。」
いきなり耳に飛び込んできた声に、ビクッと反応してしまった。
そういえば、前にハーリリンが、お義兄様の寝言が怖い・・・って言ってたっけ。
ホントだ。恐怖だ。お化け屋敷より怖い。
「以後、気を付け、ます・・・。はい、はい・・・。」
う~ん、こんなお義兄様と、これからうまくやってけるのかな・・・?
ちなみに、トウィンク伯爵の摂食障害は、過食症ではなく拒食症。
睡眠で、成長・エネルギー・健康の全てを補っている。