エピローグ つまらない毎日の中、恒例の夜会に向かいます!
初投稿です。短いですが、温かい気持ちで見守って下さい。(誤字脱字報告は大歓迎です!)
「今日はいいお天気ですわね。」
そう、今日は雲一つない青空・・・。
「フィンター嬢にはそう見えるのですか?わたくしには嵐の日にしか見えないのですが。」
紫色の瞳と髪の、わたくしの自慢の側近、ハーリリンが冷静にツッコむ。
わたくしの言葉とハーリリンの言葉、どちらが正しいかしら?・・・はい、勿論ハーリリンの言葉です。
雲一つないどころか、雲に埋め尽くされている。
叩きつけるような大雨に、植物もうなだれて、さすがにかわいそうだ。
「だって、何が悲しくてこんな日に夜会なの?わたくし、結婚する気はさらさらないのに。」
伯爵令嬢という立場柄、結婚を持ちかけられることは少なくない。
その中で、若い男からおじさんまで群がる夜会は、はっきり言ってただの苦痛である。
いい男にはすでに婚約者がいるから私に声はかけないし、寄ってくる男にはろくな男がいない。
要は恋愛ができないという話である。
よって、私は結婚したくない。
なのに、なんで夜会に行かなければならないのか。
「奥様のご命令です。」
「分かってるわよ!・・・ハーリリン、あの人を奥様と呼ぶ必要はないわ。」
我が家では絶対の存在、ファルゼシン・・・通称・奥様。
『奥様のご命令』という言葉はこの家で一番使われる単語ではないのだろうか。
寝るにしても食事をとるにしても、内容はすべて『奥様のご命令』だ。
奥様に縛られた生活。
もう嫌だ。奥様なんて敬称で敬うべきじゃない。
「フィンター嬢、そんな言葉奥様の側近に聞かれでもしたら・・・。」
この後に続く言葉はもはや暗黙の了解だ。
・・・処刑。
「わたくしは処刑されるようなへまはしません。・・・さっさと馬車を用意して頂戴。」
伯爵家に生まれついたとはいえ、性格が性格なもので、気取った令嬢風もなかなか難しい。
お手本を見たい。
・・・一番いい例(奥様)がこの屋根の下にいるんだけど、あっちは極端に気取ってるし・・・。
「馬車ですね。了解いたしました。ところで、スケジュールは・・・」
毎日毎日、飽きずに同じ言葉を繰り返すハーリリンに、私が飽きた。
・・・せっかくだから、ちょっと怒って怖がらせてみようか。
今日こそ、ハーリリンに勝つんだ!
「この時間にそれを言うの?もう6時よ。」
ハーリリンには、私のドスの利いた声などは完全に無視して、次の言葉を続ける。
「一応確認を、と思いまして。」
それどころか主の私に笑顔で圧をかけてくる始末だ。
10年前、彼女が入ってきて1ヶ月の時にはドスを利かせると怖がっていたのに、今ではすっかりすまし顔だ。
私の方が立場上なのに・・・解せぬ。
「・・・はあ、分かったわ。今から一時間でバロンズ家、でしょう?」
・・・もちろん私が簡単に敗北した。
★ ★ ★
美しくもたくましいハーリリンに腹を叩かれた馬にひかれて、整備された道を安定して走る馬車は、全く揺れない。
そして、私の毎日も全く揺れない。
朝6時起床、7時まで身支度と朝食、それから11時までは淑女教育(踊り・作法・刺繡など)、12時までに昼食、五時まで勉強、夕食、6時から夜会の会場に移動、9時帰宅、10時就寝・・・といった代わり映えのない毎日は勿論、『奥様のご命令』だ。
面白くない面白くない、面白くない!!
「フィンター嬢、何をぶつぶつ言っているのですか?・・・到着しましたよ。」
ええええええ~?
バロンズ家、近くない?
え?乗って10分経った?
ねえ、大体どの会場行っても移動に片道1時間くらいかかるもんでしょ!
「す、少し早すぎるのでは・・・ないかしら?」
「そうですね。バロンズ家は、フィンター嬢の城の隣町ですから。」
ふ~ん、そんなこともあるんだ。
自慢じゃないが、我が城はド田舎にある。
伯爵家なのに・・・と思うところもあるが、主な原因は奥様だ。
ほかの伯爵夫人や子爵、子爵夫人に暴行を加えるわ、我が家の荒れ具合が周りにバレるわで、とてもじゃないが街にいられる家ではなかった。
ということで、お父様がこの山に城を築いたのだ。(と言っても、実際に築いたのは大工さんだが)
だから、近くに子爵や伯爵の家があるとは思わなかった。
「そういえば、バロンズ家は子爵家よね。基本、夜会は伯爵家で行われるじゃない?何で今回は子爵家なのかしら?」
「・・・本来はトウィンク伯爵の館で行われる予定だったんですけれど、」
「まあっ!トウィンク伯爵って、あの!?若くして伯爵になった方がイケメン過ぎて社交界が大騒ぎになった!?」
そう、あの人の社交界デビューの日から2ヶ月ほどは夜会でも、あの人の話題で持ちきりだったのを覚えている。
おかげで、私はすっかりトウィンク伯爵について詳しくなってしまった。
確か、銀髪が豪華で、深紅の目が魅力的な人・・・。
「はい、あのトウィンク伯爵でございます。しかし、体調を崩されて今日の夜会にもご出席なさるかどうか・・・。ということで、急遽バロンズ家に変更されたのです。」
ここで、参加だけならいいのか!?と思った人もいるよね。
だけど、招待と参加は全く別物なのだ。
招待する場合は事前に料理や会場などの準備をしなくてはならない。
勿論、人員の確保も必要だ。
とにかく、心身ともにぐったり疲れるのである。
でも参加する側は、用意された環境で好きなように振舞えばいいだけなのだから、ある程度気楽なものだ。
「まあ、そうなんですの・・・。それは誠に残念ですわ。」
・・・嘘だ。
そんなイケメン、もうとっくに誰かのものになっているに決まってる。
そんな人のことを心配していたって仕方ない。
「それはともかく、とりあえず馬車をお降りください。」
丁寧に、外にポイっと投げ出され、顔をあげたときには再びハーリリンは馬車を走らせていた。
「8時に迎えに来ます~!遅れるかもしれませ~ん!」
と叫びながら。