アストラル魔術学院
緑が広がる丘の上である男女は噂する
「今日だってなぁ..."アイツ"が来るのは。」
「えぇ。」
大柄な男の問に対し華奢な女は簡潔に、もとい興味なさげに答えて見せる
男はそんな女の態度に溜息を交えながら話を続ける
「使いもんになるんだろうな?」
「さぁ?...ただ...マトモじゃないのは確かかもね」
視線だけを男の方にやりながら嘲笑を含めて答える
「ハッ...そりゃ言えてるぜ。魔力量、魔法技術共に魔術師としてはほぼ最低ランクの銅等級だ。」
男は女の反応を見るより先に話を続ける
「だが奴はどういう訳かこの国の最高魔術師教育機関、アストラル魔術学院を主席で抜けてる。何者なんだ。」
「私に聞かれても、ねぇ。」
男に向けていた視線をゆっくりと前に直しつつ女は答える
「まぁ、様子見。ってとこかしら。」
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真白に染まった建物を眺めながら少年は息を飲む
この国...アストレアでは珍しい黒髪に深紅の瞳
新調したばかりであろう学生服に身を包んだ少年は
10代前半に見える幼い顔立ちに華奢な体と、
制服さえなければ少女にも見えるかもしれない
(あれが王立アストラル魔術学院...今日から僕の通う学校...
魔力量が極端に少ない僕はあそこで魔法技術を学んで、いつか..."あの人"みたいに...)
「あ、あの」
ふと後ろから声がして振り返ると一人の少女が居た。
俯きがちにこちらに声をかける少女は綺麗な赤髪をふたつに結び、頬までもを赤く染めている。
「その制服...アストラルの...です....よね...。」
「はい!貴女も入学生ですか?」
「そう...です...けど...」
「?...」
そこまで言って少女は口篭り、赤く染まった頬をさらに赤くしながらゆっくりと続ける
「い...い...一緒に...登校...してもいい...ですか?」
「?!...もっ...勿論ですっ」
予期せぬ少女の誘いに少年は驚きつつ快諾する
(それにしてもなぜ僕と...もしかして僕に気が!?いやでも初対面だし...でも女の子は一目惚れが多いってばあちゃんも...)
「あの...道....わかんなくて...」
「あ、あぁーなるほど。」
「田舎から...来たばかりで...難しくて...」
少女の誘いの理由に合点して舞い上がっていた自分を嘲る
(で...でもそれなら黙って付いてくれば良かったんじゃ...やっぱ僕のことを?...)
「いやいやいや!!!そんな訳ない!!!」
「?!...えっ。」
「あ、いや、違くてこれはっ」
突然の少年の叫びに体が跳ねる少女、
その目には薄らと涙が浮かんでいる
「いや、あの、ほんと気にしないでください!ごめんなさい!」
「だ....大丈夫...です...ちょっとビックリして...。」
「あっ!ほら!もう着きましたよ!これがアストラル魔術学院...!」
遠くからでは感じなかった建物の広大さを改めて感じ、少年は目を輝かせて少女を見る。
しかし少年の狙いとは裏腹に俯きがちな少女はさらに瞳を曇らせる。
(...?)
「道...ありがとうございました...。」
「いえいえ!魔術師たるもの困ってる人は見捨てられません!」
「......じゃあ....ありがとうございました...。」
そう言いつつ足早に彼女は校内へと進んでいく
「あの!」
「...はい?」
少年の呼び止めに顔だけ振り向かせて応える
「名前、聞いてもいいですか?、僕はスバル=イオネストです。」
「......エーネ...です...。」
「エーネさん...!これからもよろしくお願いします!」
「こ...こ...こちらこそ...です...。」
こうして、僕の3年間の学生生活が始まる
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「ヒバナ君。少しよろしいかな?」
ステンドグラスに囲まれた艶やかな部屋の中で
白髪の老紳士が訊ねる。
「お呼びでしょうか」
呼びかけに応えた女は如何にも厳粛という風体をしており、
しっかりと束ねられた髪に曇りのない眼鏡、シワひとつ見当たらないグレーのスーツと
几帳面さが滲み出ているようだった。
「君が担当する"例の"入学生ですが...その後なにか聞きましたかな?」
「キンブル家のお嬢様ですね、特に何も。」
「そうですか。しかし彼女の秘めるものは小さくありません、よく注意してください。」
「了解致しました。」
「君も聞いていますね?、彼女の力を」
「えぇ、4年前の時計塔崩落事件ですね。
確か気を損ねた彼女が建設中だった時計塔を崩落させた後、
近隣の民家をことごとく破壊して回ったと。」
「それも"素手で"です、只事ではありません。
くれぐれもお怒りを買うことのないようにしてください、
下手に事を起こされても対処しきれない可能性もあります。」
「了解致しました。」
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(クリエネッタ=キンブル...一体どんな生徒なのか...)
考えに耽り教室へと向かう、
入学初日を迎えて早々に悩みの種が増えたことに落胆しつつ
今後3年間担当する生徒をしっかりと把握しなければいけないと自らに言い聞かせる
「....痛っ」
横から突如現れた少女にぶつかり後方へと転倒し、
衝撃で先程まで抱えていた思考は霧散する。
「......っご.....ごめん....なさい....お怪我....ないですか?」
赤髪の少女は衝突した位置から微動だにしておらず
そのままの位置から手を差し伸べている。
「いえ、こちらこそ前方不注意だったわ、ごめんなさいね。」
「い....いえ....私は...大丈夫....です。」
終始俯いている彼女は小さな声でそう言うと
握った手を引き上げた。
「ありがとう。紋章がないけれど、新入生かしら?」
「....はい」
「クラス発表はされてるはずだけれど、何か急用かしら?」
少女が向かっていた方向は各クラスが集まる学生棟とは真逆の職員棟であった、
「先生方へ用があったなら取り次ぐけれど...」
「いえ....あの...私、場所が....」
「ああ、そういうこと。」
可愛げに恥じらう少女に少し笑みがこぼれ、即座に表情を整える。
この学校の入試は王都内で行われる都内入試と
各地域の学校に校長が赴き行われる地方入試の2種類の入試があり、
地方入試の場合、院内へ入るのは入学初日が初となる。
地方入試という形をとっているのは
国内でも地方地域に住む才ある子供達に
気軽に入試を受けてもらおうという学院側の試みだ。
(おそらく地方の子供ね、恥じることはないのだけれど。)
「それじゃあ私が案内しましょう、クラスはどこかしら?」
「....A組....です...」
「あら、私の担当するクラスね、偶然だわ。」
「......あの...ありがとうございます...。」
「えぇ、気にしないで。」
しばらく歩き教室へ着くと、既にほとんどの生徒が着席しており、
直後に始業を告げるチャイムが鳴る。
少女は軽くお辞儀をすると席順を確認して同じく着席した。
「さて、まだ来てないのは...」
チャイムが鳴って2分ほど経つがまだ全員揃っていない。
教壇に立ち、名簿と席順の書いた用紙を探しながら生徒達を一瞥する。
ーーーと同時に教室のドアが激しく開く。
「っち...」
入ってきたのは翡翠の瞳に金色の髪、
唇には黒のピアス、両耳から十字架のチャームが付いたピアスと
如何にも不良という感じの少年だった。
「初日から遅刻とは、アストラル生の自覚が足りないんじゃないかしら?」
「あ"ぁ"?っるっせぇんだよ、こんなもん遅刻に入んねぇだろうが。」
「1分だろうが2分だろうが遅刻は遅刻。初日なので見逃しますが次はないわよ?」
「...ちっ。」
少年は舌打ち混じりに席に着くと
机に足をかけこちらを睨みつける。
「はぁ...」
今後への明らかな不安が1つ新たに増えたことにため息をつきながら
もう1人の"不安要素"を確認する。
「出欠を取ります、呼ばれた者はその場で返事するように。」
(名簿順...と行きたいところだけれど、まずはキンブルの令嬢よね...)
「キンブルさん...クリエネッタ=キンブルさん。出席していますか?」
おもむろに少女は立ち上がる。
灼熱の如き赤髪をふたつに結び、伏し目がちな瞳は黄金のような輝き、
緊張からか顔は真っ赤に燃え上がっている。
「....は...はい...。」
小鳥の囀るようなか細い声で少女は答える
「あら....あなたが...?」
小声で呟くと、眼鏡をクイッと持ち上げる。
先程まで道案内をしていた彼女が、"不安要素"
『狂戦魔術師』クリエネッタ=キンブル。