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体育祭からの帰り道。 どいつもこいつも面倒だ。 






 やりたい放題だった体育祭は無事、白組の勝利で幕を下ろした。

 最終競技のリレーで見せた、佐藤さんのジェット機もかくやといわんばかりの走りは、後々伝説として語り継がれていくことだろう。

 そんな慌しかった体育祭の後片付けも終わり、生徒でごった返す帰り道。彼女たちの目をどうにか掻い潜り、田中と二人。いつものように帰路につく最中――またも深刻な顔でヤツは僕に告げた。


 「やっぱり、俺は嫌われてるみたいだな」


 またその話か。僕がわざとらしく大げさに溜息をついて見せると、田中は遠くを見ながら辛そうに笑った。


 「お前は良いよな。あんな最高の恋人がいるんだもんな」


 そして、彼女たち絡みの話になると、決まってこの話を持ち出すもんだから、困ったものだ。


 「アイツとはただの幼馴染みだよ」


 もう何度目になるだろうか、呆れて僕はお決まりのあの台詞をこぼす。それに、仮に恋人だったとして、コイツはそれのどこが羨ましいのか。自分は何人もの美少女を侍らしているだろうに。


 「地味で目立たない、普通の女の子だぞ」


 それこそ、クラスの隅で、静かに外を見ているようなさ。

 だけど、いささか今日の田中はいつもと違い、ストレスがいよいよ臨界点に達しているようで、


 「はぁ? 普通だぁ? 」


 これ見よがしに苦々しく顔を歪めると、大袈裟に不快感をあらわにし始めた。


 「気立てが良くて、穏やかで、勉強に家事にとそつなくこなす彼女の、どこが普通だよ」


 いいか、女子は見た目じゃねぇ。内面だ。それにあの子は最強に可愛いだろうが。

 なんて、熱の籠った口調で、ヤツは僕の肩を小突いてくるもんだから、その勢いと行動に、いよいよウザったらしくなってきた。

 何度も言うが、僕の幼馴染みなんて、コイツを取り囲むあんな美女軍団と比べれば、どう贔屓目に見ても、月とスッポン。

 確かに、良いように受け取ればさっきヤツが言ったような少女ではあるが、毎日のように見ている僕からすれば、ただ大人しいだけの、人見知りで内向的な女子。


 「俺もそんな彼女が欲しいぜ」


 「だから、彼女じゃないって」


 「じゃぁ、今度の休みによ、あの子をデートに誘っても、お前文句言うなよ? 」


 むしろ応援してくれよな。なんて、ムカつく面で、まるで僕を試すようなことを言うもんだからさ、流石にいよいよカチンときてしまう。


 「そんなの好きにしろよ」


 アイツが誰と恋仲になろうと、僕には関係ないんだからさ。僕は、お返しだと言わんばかりに、強めに田中の肩を小突いた。


 「ほらムキになる」


 「なってないだろ」


 「鏡見てみ。スゲぇ顔してんぞ」


 あぁクソと、田中は、諦めと苛立ちを綯い交ぜにしたかのような溜息をつくと、『あ~ぁ……』と、一言。


 「初恋は実らねぇもんだなぁ……」


 これも、もう何度聞いたことだろう。小さな頃から、ことある毎に田中はこの冗談を口にするのだ。

 妬みや嫉みといった、勘違いからくる感情も少しはあるだろうけど、どうせ、僕と彼女の仲の良さを茶化しているだけだからな。クソガキ特有の冷やかしの一種でしかない。

 幼馴染みだから仕方ないだろう云々と、ムキになって反論しても疲れるだけなのは過去の経験から学習済み。だから、こういう場合は無視するに限る。

 何も言わない僕に田中は面白くないと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 そして、頭の後ろで腕を組み、遠くを見ながらもう一度、唸るように呟いた。


 「誰か俺を好きになってくんねぇかなぁ……」


 続けて、誰でも良いわけじゃないけどさ。そう自嘲気味に笑うと、


 「朝から奴隷になれって言われてよ、出会いがしらにさんざ踏みつけられて、昼は猛毒を口に押し込まれたんだぞ。……嫌われすぎだ。なぁ、俺、アイツらに何かしたか? 」


 ……こんなのあんまりだろ。


 ふいにピタリと足を止め、田中は身体を小刻みに震わせながら、それでも泣くまいと堪えるように拳を握り締めていた。


 ――だから嫌われてないって。


 だけど、僕の声は、今の田中には届かないだろう。

 夕日が照らすなか、僕はアイツの肩に手を置いて、もう一度大きく溜息をついた。






 その数分後、


 「一緒に帰ろっ」


 偶然、他校に通う幼馴染が後ろから追いついてきて、微笑みながら声をかけてきたのだが、……その時の田中は、いったいどういう感情だったのだろう。

 はじめは幼馴染みの名を、ずいぶん付き合いは長いんだけどな、律儀にも『さん』付けで呼んで、久しぶりに会ったからだろうけど、心底嬉しそうにしていたくせに、


 「ねぇ、明日休みでしょ。また今日も泊めてね」


 姉妹も含めて、朝までゲームしようよ。と、もちろんそういう意味なのだけど、彼女が僕の腕を抱きながら放ったその一言を聞くやいなや、――ヤツときたら、まるで凶悪犯罪者を断罪するかのような顔で、


 「……お前、俺に手ぇついて謝れ」


 こちらに向かって歯を食いしばりながら、こめかみに青筋まで立てちゃってさ。

 その後、幼馴染を巻き込んでの一波乱が待っているわけだけど、


 「な、何の話なの? 」


 「わからん」


 まぁそれはまた、別のお話。

 だから、一応のところ、僕はいつものこの言葉を残しておこうと思う。



 まったく、どいつもこいつも面倒だ、とね。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 男二人のやり取りが面白かった! 彼にも心から幸せを実感する日が来ますように! ありがとうございます。
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