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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幽霊が見える彼が、幽霊な彼女にしてあげられる事を考えてみた。

作者: Narim

心臓破りの上り坂を自転車で登る。


日が暮れ始めてもセミは大合唱を止めるつもりもなく、気温も涼しくなる気配はまるでない。

晴己は、汗とともに体力まで流れ落ちるのを感じながら、頂上にあるコンビニを目指してこぎ続け、到着すると一目散に店内へと駆け込んだ。


ひとしきり冷気を堪能した後、ブラックコーヒーと”1.5倍”と書かれたカップ麺をとると、しばらくカップ麺を見つめ、おもむろに弁当コーナー、そしてスイーツコーナーへと向かった。


スイーツコーナーには、色とりどりに飾られた可愛いスイーツが所狭しと並んでいる。

最近のコンビニはスイーツに力を入れているとテレビでやっていたのを思い出したが、普段甘いものを食べない晴己には、それがどんな味なのか皆目見当が付かなかった。


シュークリームを手に取り、迷った挙句ゼリーに変えたが、考え直して水羊羹にした。水羊羹を穴が開きそうなほど見つめた後ため息をついて元に戻した。



(幽霊って何食べるんだ・・・・・・?)



先日引っ越した部屋には、女の子の幽霊がいた。

互いに譲らなかった結果同居することになったのだが、触れることができないとはいえ、幽霊が生きている人間と変わらないくらいはっきりと見聞きできる彼にとって、それは同じ年頃の女の子と同棲することと大差なかった。


着替えなどは彼女が見ないようにしていたので次第に気にならなくなったが、食事のときはさすがに気が引けた。食事といってもカップ麺だったが、もう何も食べることができない彼女の前で平気な顔で麺をすすることが晴己にはできなかった。


せめて形だけでも彼女の食事を用意しようと思ったのだが、幽霊はもとより、女性の為に何かを送ったことなどない晴己にとって、何を選んでいいのかわからなかった。



(もっと、お供えっぽいほうがいいんだろうか・・・)



「なにかお探しですか?」

ぼんやりと商品を見る晴己に、女性店員が声をかけた。


「えっ あ、いや、えーっと。その・・・・・・」不審がられたことに気づき顔が赤くなる。

今すぐコンビニを出て公園で食べようかとも思ったが、この真夏日の夕暮れに熱々のカップ麺をすする気には到底なれなかった。晴己は観念したように「・・・・・・オススメのってありますか」と声を絞り出した。


「これと・・・これなんかも男性にも人気がありますね」と新商品と書かれたスイーツを指さす。

「あ、いや、俺じゃなくて」


店員はブラックコーヒーと晴己を交互に見比べ、「ああ、彼女に頼まれたんですか?」とたずねた。



彼女に頼まれたんですか?・・・彼女に頼まれたんですか・・・彼女に・・・彼女・・・彼女・・・かのじょっ!!



店員の言葉が脳髄に染み渡る。


いや彼女じゃないんです、というか人間でもないんです、幽霊なんです。と思いながらも、ニヤけた口元を手で覆い隠した。



(まぁ一緒に住んでるわけだし、彼女と言えなくは・・・・・・ない!)



露骨に嫌そうな顔をする彼女、怒って机を蹴り飛ばす彼女、いろんな否定的な彼女がいとも簡単に想像できたが、キレた彼女がコンビニに来れるはずもなく、小さく「・・・・・・ハイ」と答えた。


「うわー初々しいですねぇ、付き合って間もないんですか?」

「ハイ」

「彼女さん、可愛いですか?」

「ハイ。トッテモ」

「のろけられたー」と笑う恋バナ好き店員。これ以上突っ込まれるとボロが出そうだったので、「オンナノコってどんなのが好きなんですか?」と質問した。


「どんなものが好きかー・・・・・・。彼女さんがよく食べてるモノとか、わかんないです?」

「いや、あんまり・・・・・・食べないんで」


言った瞬間、あっ!と口を押さえたが、店員は気にする風もなく「彼氏の前でご飯食べれない子っていますよねー」と答えた。

店員の言葉に一喜一憂する晴己に、「いまから知っていけばいいんですよ、焦らなくても大丈夫です」とアドバイスを加える。



「彼氏さんが選んだものなら、なんだって喜ばれますよ、きっと」



店員のキラキラ輝く笑顔を見て、晴己は心が洗われるようだった。

店員の言うとおりだ。自分は彼氏ではないけれど、相手のことを思い、心を込めて選んだものなら何だって受け入れてくれるはずだ。それは生きていようが死んでいようが関係なく、思いは伝わるのだから、と。



(原点に帰ろう。俺達はまだお互いのことを何も知らない。けれど確かなことはひとつだけある)



そう思い、晴己はレトルトの白飯と、箱を手に取り店員に渡した。



「これにします」



「え・・・・・・え!?」困惑する店員に、晴己は今日一番の笑顔を見せた。



昔見た記憶。仏壇に手を合わせる祖母の姿。そして古い中国映画で死者が食べていたご飯。

そう。答えは、すでに自分の中にあったのだ。



晴己は、清々しい気持ちでコンビニを出て自転車にまたがった。

すっかり日が暮れた空を見上げ、同居人の幽霊が見せる、初めての笑顔を想像した。

下り坂をさらに加速し、家路へと急ぐ。



買い物袋の中には、ブラックコーヒーと”1.5倍”と書かれたカップ麺。

そして、レトルトの白飯と線香の箱が揺れていた。





オチがわからなかった若者たちは、美少女が大活躍する、古いキョンシー映画をググってね!

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