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トイレからの異世界転移 ~え、豚ですか?異世界で私は人間ではないようです~

作者: なみちか

書いてて段々わからなくなってきました。

 深夜アニメを見つつ時計をちらり。

 もうすぐ午前2時。

 やめられない、止まらない。バリバリもぐもぐ。ゴクゴクゴクッ。


 深夜のスナック菓子と炭酸飲料はなぜこんなにも美味しいのか...

 バリバリもぐもぐ。


 あぁ、何か眠くなってきた。シャワーは明日の朝でいいか。歯だけは磨かねば...

 うつらうつらと歯を磨き、寝る前のトイレ。

 はぁ、すっきり。


 トイレから出たとたん、何かを踏んづけた。


「いたーーっ!」


 痛みで目が覚める。

 そよそよと吹く風が心地よい。


 トイレに入りドアを閉めた。

 足の裏を見ると土がついている。


 トイレのドア開け、もう一度外を見る。

 先ほどと変わらず、そよそよと風が吹くそこはなぜか森の中だった。

 あら、これはいつの間にか寝てしまった?


 夢なら夢で、靴を履くとか、着替えるとかあるでしょうに。

 まぁ、自由にならないのが夢なのか。


 どれ、折角だから探検しよう。これって流行りの異世界転移みたいじゃないの。


 靴下のままだと足が痛かったので、今度はトイレのスリッパを履いて外に出た。


 外から見るとトイレのドアは大きな木についていた。


 今は昼間のようで、森の中でも明るく歩きやすかった。散歩気分でのんびり歩いてきたが、ものすごく喉が乾いてきた。


 夢なのに喉が渇くなんて!

 寝る前にお菓子食べ過ぎたからかな。

 飲み物出てこい飲み物出てこーい。


 都合良くはいかないらしい。だんだんと、喉が渇いただけではなく歩き疲れて息も苦しくなってきた。まるで、本当に歩き回っているようなリアルさ。


 まさかね...。


 飲み物を求め、彷徨っているとどこからか人の声が聞こえた来た。


 人がいる!飲み物をもらおう!!


 声のする方へ行くと人影が見えてきた。

 どうやら大勢いるようだ。何かを囲んで騒いでいる。


「すいませー...」


 ザシュッ!!


 声をかけようとしたところで、何かが吹っ飛んできたので、思わずキャッチ。


 ねちゃっ...


「...ぅんぎぃやあぁあぁぁあ!!!」


 疲れと眠気とショックで気絶した。





 うーん、お腹空いた。

 空腹で目覚めると、自分の部屋ではなかった。

 山小屋のような場所で、硬い長椅子のようなところで寝ていたらしい。


 目が覚めても夢の中。

 もしかしてこれって夢じゃないのかも、と思いはじめる。

 え、夢じゃなかったらどうしよう。


 とりあえず、現状を確認しなくてはと小屋の外へ出てみる。

 周りには同じような小屋が何軒もあり、外にはチラホラ人の様なモノがいる。

 すると、その内の一人?が私に気づいた。


「気がついたか?まさかあんなところに豚がいるなんて思わなかったぜ!生首で倒れちまうとわな!」


 そう、あの時私がキャッチしたのは謎の生物の生首だった。サッカーボールサイズで、毛はなくつるりとしていた。見開いた虚ろな目を思い出し鳥肌が立つ。


「それにしても、お前さん随分変わった服を着てるな。」


 現在の私の服装は高校時代のジャージ上下にTシャツ、トイレのスリッパだ。


 この、人のようなお方達は、ごわごわした甚平っぽい服を着ている。


「お前さん、小さい牙だなぁ。」


 牙とは八重歯の事かな。

 

「どうにも人間ぽい豚だなぁ。」


 こう見えても人間ですからね。逆になぜ私が豚だと...?

 確かに、毎夜毎夜お菓子にジュースでせっせとカロリー摂取に励んでいる私の体型は、152センチ76キロのぽっちゃりだ。もう一度言うが、ぽっちゃりだ。


「もし私が人間だったらどうするのですか?」


「はははっ!そんなの殺すに決まってるだろう。人間は俺達ヨウトーンの敵だぞ。」


 養豚...

 いえ、ヨウトーンね。人間は敵で殺すの決まっちゃってるのね。


「まぁ、お前が俺達豚の仲間なのは間違いない。人間はもっと大きくてヒョロヒョロしてるからな。」


 ここってやっぱり異世界なのかしら。

 この世界にデブ、いや、ぽっちゃりはいないって事?

 とりあえず、今から私は豚です。間違いなく豚です。人間ではありません。


 行くあてのない私はこうして豚のふりをし、彼らに保護してもらうことにした。



 彼らヨウトーンは自分達の事を豚と呼ぶが、見た目は人間に近い。

 二足歩行だし、言葉も話す。なぜ言葉が通じるのかはわからないけど、そこは気にしない事にしよう。

 背は低いようで、大体が私と同じか少し大きいくらい。

 人間と同じような顔つきで鼻は豚鼻。吸血鬼みたいな牙があり、少し耳が尖っている。

 そして、全員太い。私と同程度のサイズで体重は80~100キロくらいありそうだ。

 デブなわけではなく、その体型が標準らしい。


 彼らの話によると、人間は基本的に彼らより20~40センチは背が高く、皆細いらしい。太っている人間等見たことがないと言っていた。


 こちらの世界の人間は随分大きいようだ。これでは確かに、私は人間ではなく豚だと思われるだろう。


 唯一はっきり違うのは足の形だった。手は人間と同じような形なのに、足だけ豚の足が人間の足に変化してる途中です!みたいな感じなのだ。私はどんなに臭くなろうと、ぜったいに靴下を脱がないと誓った。


 生活環境はあまりよくなかった。

 家は山小屋のようだし、トイレは穴を掘っただけの物で、集落の外れにある。

 水は川で汲み、火は集落の真ん中でしか使えず、常にキャンプファイア的に燃えている。


 ただ、彼らは仲間にはとても親切だった。どこの誰ともわからない私にもとても優しい。困った事はないかと皆が親身に話しかけてくれた。


 けれど、私は帰りたかった。

 ここにはテレビもスマホもない。なにより私の愛するスナック菓子と炭酸飲料がない!!!

 はっきり言って耐えられない!


 しかし、突然こんな所に来てしまい、どうやって帰ればいいのか検討もつかなかった。


 その時だ。私は便意を催した。

 トイレはあの穴だ。綺麗で衛生的なジャパニーズトイレに慣れている私には些かきつい。

 女子としてあるまじき事だが、小ならばそこらへんの物陰で...なんて考えたりしたが、私がしたいのは大きい方。さすがの私もそこら辺で大は出来ない。非常にまずい。


 しかし私は思い出した。

 そうだ、私はトイレと共にこの世界に来たではないか!マイトイレがあるではないか!!


 私は、私をここに連れてきてくれた豚に私の倒れた場所まで連れていってほしいと頼んだ。

 早くしないと漏らしてしまう。


 豚が案内してくれた場所は集落のすぐ近くで、聞けば私のトイレの場所も心当たりがあり、近道があると連れていってくれた。


 15分程で、マイトイレに辿り着くことができた。感謝である。

 

 トイレに入り用を足した。

 すごくスッキリした。やはり日本のトイレは素晴らしい。ビバ・ジャパニーズトイレ!


 トイレから出ようとしたところで、雨音がするのに気がついた。


 ついさっきまで、あんなに晴れてたのに雨!?


 雨音はどんどん激しくなり、雷まで鳴っている。これは雨がやむまでトイレにいた方がいいかもしれない。少し狭いけど、案内してくれた彼にも雨宿りしてもらおうとトイレのドアを開けた。


 外は先ほどと変わらず、晴れている。


 あれ?おかしいな。と、トイレのドアを閉めてみる。すると、やはり激しい雨音が聞こえる。

 窓には雨粒が叩きつけられている。


 これはどういう事かと、窓を開けてみた。


 そこにあるのは見慣れた自宅の裏だった。


 まさか、帰ってこれたの?と、喜びトイレから出たが、トイレの外は晴れた森のままだった。


 驚き再びトイレに戻る。


 ドアの外は異世界。窓の外は元の世界の自宅裏。二つの世界はトイレで繋がっていた。



 はっとする。帰れるじゃん!

 窓から出れば帰れるじゃん!!


 喜び勇んで窓の外へ出ようとした。窓に手をかけ、トイレの上に立ち、頭を窓に突っ込んだ。


 ドザーーーッと物凄い雨が頭にあたる。窓の外は間違いなく自宅の外壁だ。


 家だ!帰って来た!!


 全身くぐり抜けようと腕を出したり、足を出したり、びしょ濡れになりながら四苦八苦。


 そうして私は遂に気づいてしまった。


 太すぎて窓を通れない事に...。


 トイレの窓は私の豊満ボディには小さすぎた。しかし、すぐそこに帰り道がある事も事実。


 私は人生で初めてのダイエットを決意し、トイレを後にした。




 ダイエットを決意したのはいいが、ひとつ不安要素があった。

 今はヨウトーンそっくりな体型をしている為、豚の仲間と認められている。

 しかし、もしあの窓を通れるくらいまで痩せたらどうなるのだろうか。

 痩せている豚はいない。

 人間だとバレる可能性があるのではないか。

 しかし、痩せなければ帰ることが出来ない。


 そこで私は思い付いた。

 人間に保護してもらえれば、痩せても問題ないのでは!と。

 しかし、ここでも不安要素がある。もしこの姿のまま人間に会えたとして、果たして人間だと認めてもらえるのかだ。

 足を見せれば信じてもらえるのではないかと思いつつ、もしかしたらそんな事する暇もなく、即豚認定され殺されるかもしれない。


 なんせ彼らは殺しあいをしているのだ。


 私は人間だが、パッと見豚だ。


 どうせ、すぐには痩せられない。私は人間の情報収集をしつつ、こっそりダイエットを始めることにした。

 ある程度痩せ、豚なの?人間なの?と、一目ではわからないくらいになったら人間に会いに行こう。

 それなら話を聞いてもらえるのではないだろうか。


 帰り道ができた事で、ずっと不安だった心が少し軽くなっていた。






 私は頑張った。積極的に彼らを手伝い、体を動かした。

 深夜に見ていた異世界転移・転生アニメのように、生活改善をしたかったが、ノー知識だったので、水汲みや木材運び等の力仕事を頑張った。無知で申し訳ない。


 スナック菓子と炭酸飲料を断ち、朝から夜まで肉体労働に励んだ結果、思っていたより早く私の体に変化が訪れた。

 ジャージがゆるくなってきたのだ。

 今まで使っていなかった紐を初めて活用した。

 動きやすい、太さの変化にも対応できる、ジャージは万能だな。



 だんだんと筋肉がつき、動くのが楽になってきた頃、私は荷物持ちとして狩りに同行させてもらった。


 森の奥へ進んで行き、途中の泉で休憩していた時だった。


 大きな木の影でひと休みしていると、上からハラハラと木葉が落ちてきた。

 落ちてきた木葉を手に取りくるくる回し、ふと上を見上げた。


 木の上に一人の人間がいた。


 驚く私に、彼は絶望的な表情をした。刀の様な物を持ち、飛び降りようとする彼に向け、私は人差し指を口元にもってきた。


「しーっ。」


 これで伝わるだろうか。伝わらなかったら、私はあの人間に殺され、あの人間は豚に殺されるだろう。


 どうやら伝わったらしい。

 彼は動きを止め、静かにこちらを見ていた。


 これはチャンスだと思った。彼と話すことができれば、人間に保護してもらえるかもしれない。


 ただ、私のトイレはヨウトーン達の集落の近くにあるので、彼らと揉めたり争ったりすることは避けたかった。


 私は木の側を離れ、狩りに連れてきてくれた豚達に、思ったよりも疲れてしまい、できればここで帰りを待たせてほしいとお願いした。

 優しい彼らは、「そうか、結構歩いたからな。じゃあ狩りが終わるまでゆっくり休んでな!」と言ってくれた。


 彼らを見送ると私は人間の隠れていた木へ近づいた。


「もう降りてきても大丈夫ですよ。ヨウトーン達は更に奥の森へ狩りに行きました。」


 どうやら、人間は警戒しているらしい。しかし、私を睨み付けながらも、ソロソロと木から降りてきた。

 辺りを見回し、本当に他のヨウトーンがいない事がわかると、ほっと息をついた。


「随分小柄な様だが、ヨウトーンのメスだな。」


 危ない、やはり私は豚認定されるらしい。


「俺を助けてどうするつもりだ。」


 やだ、この人。めっちゃ、こわい。


 私はいそいそと靴下を脱いだ。

 ...クサッ!


「この足を見てください!」


 彼は顔をしかめつつ、私の足を見た。臭いのだろう。私も臭い。しかし申し訳ないが命には代えられない。


「突然変異のヨウトーンか?」


 どうやら、私はこの世界の人間とかけ離れているらしい。なんてこった。

 私は口を大きく開ける。


「見てください。牙もありません。」


「随分小さな牙だな。お前、劣等種なのか?」


「いえ、そうではなく...、私ヨウトーンじゃないんです。」


「何だと?では新種の豚なのか?」


 もしかして、人間かも。とは思わないわけね。


「いえ、人間です。」


 彼はカッと目を見開いた。


「そんな姿で人間だと!?」


 なんて失礼な男!


「こんな姿ですが人間です。よく見て。」


 彼は遠慮なくマジマジと私の全身を観察した、


「確かに、ヨウトーンとは少し違うな。人間に似ているといえば似ているが...本当に人間なのか?」


「...人間です。ただ、私はこの世界の人間ではないのです。」


「何?」


 私は彼にこれまでの経緯を話した。そして、帰り道を通るためには痩せなければいけないが、このまま痩せれば人間とバレる可能性がある為、人間に保護していと頼んだのだ。


「なるほどな。理解した。確かに人間ならばあの低俗野蛮なヨウトーンとの暮らしは辛かろう。俺と共に来るがいい。」


 自分から保護を求めておいてなんだが、イラッとしてしまった。

 ヨウトーンは優しい。そんな風に言わないでほしかった。

 確かに知性溢れるお上品なって感じではないけれど、彼らは豪快で温かいのだ。


「よし、奴等が戻る前に行くぞ。」


「ちょっと、待ってください!私がいきなり居なくなったら、彼らは私を探すかもしれない。彼らは仲間思いだから。きちんと、出ていく事を伝えないと。」


 彼は少し不満そうな顔をしたが、3日後の昼に再びこの場所に迎えに来てくれる事になった。




 ヨウトーンの集落に戻ると、3日後に出ていく事を告げた。

 皆、行くあてもないと言っていたのにどこへ行くんだと言い、最近痩せてきた体を見て、こんなに細くなるなんて異常だ、新種の病気なんじゃないかと心配してくれた。


 森の中で皆を待っている間に知り合いに会い、彼の元へ行くことにしたのだと言うと、口々によかったな、よかったな。と言ってくれた。


 やはりヨウトーンは優しい。


 私は出ていくまでの間、いつも以上に働いた。少しでも恩を返したかったから。


 3日後、皆に別れを告げ私は森へ入っていった。


 ひとり黙々と歩き、待ち合わせた場所に着く。


 そこにはあの時の彼の他にも2名の人間がいた。


「本当にヨウトーンみたいだな。」

「だが、ヨウトーンにしてはあり得ない程小柄だ。背の小さい人間と言われれば人間にも見えるな。」

「お前、足を見せてみろ。」


 私は大人しく足を見せた。


「確かにヨウトーンではなく人間の足だ。」


 一応人間だと判定してもらえたらしい。


「よし、ここはヨウトーンの集落が近い。急いで戻るぞ。」


 その時だった。


「おーい、手土産にこれ持ってけ~!」


 後ろからヨウトーンが来たのだ。

 親切にも私に手土産を持たせる為に。


「こっちに来ないでーーー!」


 と叫ぶも、時すでに遅し...。


 ヨウトーンと人間がお互いを認識してしまった。

 両者はすぐに武器を構える。


「人間に見つかっちまったのか?危ないぞ早くこっちに来い!」


「おい、これはどういう事だ!?お前、やはりヨウトーンなのか!」


 やばいやばいやばい。

 このままでは私のせいで殺しあいが始まってしまう!


「武器をしまって、落ち着いてくださいーーーーい!!」


 私は力一杯大きな声で叫んだ。


「私のー、話をーー、聞いてーーー、くださーーーーーい!!!」


 最近力仕事を頑張って腹筋がついたおかげで、中々の大声が出た。


 両者は私の大声に怯み、武器を構えたまま止まった。


 まず私はヨウトーンに向き合う。


「私に手土産を持たせようと追いかけてきてくれたのですね、ありがとう。」


「そんな事はいいんだ、早くこっちに来るんだ!」


「私は大丈夫だから、落ち着いて。」


 今度は人間達に向き合う。


「私はあなたたちを騙してはいません。まずはこちらのヨウトーンと話をさせてもらえますか?彼は私に手土産を持たせようと、わざわざ追いかけて来てくれたのです。」


 人間達は3対1という事もあり、「いいだろう。」と認めてくれた。


 私は再びヨウトーンに向き合う。


「私は親切にしてくれた貴方たちに謝らなければいけない事があります。私はヨウトーンではないのです。」


「何を言ってるんだ?」


「私、人間なんです。よく見てください。牙もないし、耳もとがってない。そしてこの足です。」


 ヨウトーンは私に言われた箇所を順番に見て、目を見開いた。


「本当にヨウトーンじゃないのか?...人間なのか?」


「はい、騙していてごめんなさい。皆あんなに親切にしてくれたのに。」


「人間のところへ行くのか?」


「はい。本当はヨウトーンの皆と居たかったけど、私は人間だから。だんだん痩せてきて、このままだとヨウトーンじゃないのがバレてしまうと思って、皆の元を去ることにしたのです。自分勝手でごめんなさい。」


「そうだったのか。俺が人間は殺すなんて言ったから、言い出せなかったんだなぁ。お前は俺たちと一緒に頑張ってくれてたのになぁ。」


 ヨウトーンは私を責めなかった。彼は私が人間だとわかっても変わらず優しかった。

 今度は人間達に向き合った。


「聞いていた通り、私は人間です。なので、人間に保護を求めました。バレたら殺されてしまうかもしれないと思ったから。けれど、本当は優しい彼らの元にいたいと思っていました。ヨウトーンは低俗野蛮な種族ではありません。話せばわかります。」


「確かに、今まで我々が対峙してきたヨウトーンとは少し違うようだが、他の豚はわからない。」


「そんな事ありません、私のいた集落のヨウトーンは皆優しかった。無駄な殺しあいをやめることは出来ないのですか?話し合いをしてみる事はできませんか?今、せっかくこのような機会が出来たんです!」


「いや、しかし...。」


 私はヨウトーンに頼む。


「この人達を集落へ連れていって、皆の事を見てもらうことは出来ない?」


「そんな危険な事は出来ない!」


 と反対するヨウトーン。


「そうだ、ヨウトーンの集落だと?そんな所へ行けばなぶり殺しにされるだけではないか!」


 人間達も大反対。


 だが、私はこの機会にヨウトーンと人間を和解させたかった。

 無駄な争いはするべきではないし、もしかしたらこれが私のできる恩返しになるのではないかと思ったからだ。


「では、私と人間達はこのままここで待ちます。後ふたりヨウトーンを連れてきてくれませんか?同人数で、この場で話し合いをするのならどうでしょう?」


「そんな事を言って、ヨウトーンが大勢攻めて来たらどうする気だ!」


 またしても人間が反発する。


 私はヨウトーンを見つめた。


「わかった。後ふたりだけ連れてくる。話し合いとやらをしてみよう。」


「ありがとう!」


「おい!」


「大丈夫です、もしヨウトーンが大勢攻めてくるなんて事があったら、私が命に代えても貴方方を逃がします。」


 本当にそんな事になったら、私なんて即やられるけど。私が人間だと聞いても変わらず優しかったヨウトーンを、私は信じる事にしたのだ。


「そんな事になれば即座にお前を殺す。」


 これ、絶対ヨウトーンの方が優しくて親切だよね。


「しかし、確かに良い機会かもしれない。我々もヨウトーンとの争いがなくなれば、安心して生活できるのだ。誰も好き好んで殺しあい等したくはないからな。」


 ちょっと、偉そうな人が言った。

 話を聞いてみると、ちょっと偉そうな人は本当に偉い人らしい。ヨウトーンと暮らしていた人間がいると聞き、今回調査の為付いてきたというのだ。

 本当に人間がヨウトーンと共存できるのか、何か弱点はないのかと色々聞かれたので、ヨウトーンは仲間思いでとても親切にしてもらった事を伝えた。

 人間達の中ではヨウトーンは人間を見つけたら即襲いかかってくる大変狂暴で危険な種族とされていた。

 会話が成り立つとは思っていなかったそうだ。



 暫く待つと、ヨウトーンが戻ってきた。約束を守り、ふたりだけ連れてきてくれたのだ。


 それを見て、人間側も少しだけヨウトーンを信用したらしい。


 私は、そもそもなぜヨウトーンと人間は争っているのか聞いてみた。


「ナゼって、昔から人間は随分敵だ、殺せと言われてきたからだ。やらなければ、俺達が殺されちまう。」


「何故って、そんなのヨウトーンが襲いかかってくるからに決まっているだろう。戦わなければ、殺されるだけだからな。」


「何かを奪いあっているとか、権利を主張しているとか、そういうんじゃなくて?」


「殺されない為に殺すんだ。」

「その通り。」


 なんと!


「ではここで、お互い急に襲いかかったり、殺したりしないと約束できませんか?殺されない為に殺すなんて!お互いに話をすることができて、意志疎通できることが今、わかったではないですか!」


「しかし、急には信用できない。」


「そうだ。こちらが襲いかからなくても、向こうは襲ってくるかもしれないではないか。」


 うーむ、拉致があかないな。


「ではまず、お互いを知るところからはじめてみてはどうでしょう?少人数で交流会をするのです。もちろん、武器の持ち込みは禁止です。

 心配なら、お互い交流会の会場の外に武器を持った人を配置すればいいのです。」


 ヨウトーンと人間は各々相談し、とりあえずやってみようという事でまとまった。

 そこから、日程、人数を決め、場所はここになった。

 ヨウトーンは私に一緒に帰ろうといってくれたが、私は人間達の世界も見てみる為に、人間達に付いていく事にした。

 ヨウトーンは信用できると思っているが、人間達がどういう考え方をするかわからなかったので、監視のつもりもあったのだ。


 話し合いには私も中立として参加させてもらう事を約束し、ヨウトーン達と別れた。




 人間は達の町はヨウトーンの集落より発展していた。けれど、現代日本とは程遠く、昔の田舎町といった感じだった。

 家の外だが、水場とトイレは各家庭に設置されていたり、家の周りには畑があったりした。


 人間達は私の事を物珍しがった。

 こんな小さい人間がいるなんて、こんなに太った人間がいるなんて、ヨウトーンそっくりだ!と言いつつ私がヨウトーンは優しいし、争わなくてよくなるかもしれないから、皆にも協力してほしいと言うと、きちんと話を聞いてくれた。


 人間達も私に親切にしてくれた。


 ヨウトーンも人間もコミュニケーションさえ、とれれば仲良くやっていけるのではないかと私は確信した。



 そして約束の日は訪れた。


 まずは前回のメンバーひとりを代表に他10名ずつ集まった。

 最初はお互いギクシャクしていたが、互いの生活環境や、狩りの仕方等話したりして喧嘩することもなく第一回交流会は無事終了した。


 私はヨウトーンの集落と人間の町を行ったり来たりして過ごした。その際に、お互いの良いところを語って聞かせたりした。

 その後も彼らは交流会を重ね、段々と信頼関係が築けてきた頃、遂にヨウトーンと人間は和解することに成功した。


 その頃には、私はすっかり痩せており、窓を通り抜けられるくらいになっていた。


 無事彼らの和解を見届けた私は元の世界へ帰る事を伝えた。


 するとヨウトーンと人間、両方とすっかり仲良くなっていた私を見送る為にと、皆が集まりお別れ会を開いてくれた。


「皆さん、本当にお世話になりました。まだ少しぎこちないけれど、この調子でこれからも仲良くしてくださいね!もう殺しあいなんてしないように。それじゃあ、さようなら!」


 私との別れに泣いてくれる人もいた。私は笑顔で別れたかったので、挨拶をするとそのままトイレに飛び込んだ。


 窓を開けると、自宅の裏が見える。


 窓に手をかけ、トイレにのぼり、窓から足を出した。そのまま全身くぐり抜け、窓の外へ着地する。


 下校時間なのか、家の前の通りを子供達が歩いている。

 犬の散歩をしているおばさん。

 自転車に乗るお兄さん。


 私は無事、元の世界へ戻れたようだ。


 家の中に入り、トイレを開けてみる。

 私を異世界に連れていったトイレがあった。


 ドアを閉める。

 深呼吸してドアを開けると、そこは変わらず家の中だった。


 私の冒険は終わったらしい。


 彼らの今後に幸あらん事を願う。






痩せた彼女はこの後、幸せな恋とか待ってるかもしれないですね。

そんなに長い間いなくて大丈夫だったのかな?こっちの世界でも失踪事件とかになってそうですね。

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