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桜の季節は今頃だった。


 綺麗な新緑の葉が開く。桜はすっかり散っていた。

 その葉桜から木漏れ日が差す近所の公園、半月前花見客で賑わっていただろう場所に、今は誰もいないその場所に、俺は楓と二人っきりでその木を見上げていた。


「あーーあ、見たかったなあ……桜……」

 葉桜を残念そうに見上げ、楓はそう呟いた。


「見れなかったのか?」

 受験はとっくに終わってただろうし、見る機会、時間がなかったのかと俺は訪ねると、楓は笑って俺に言った。


「先輩と……好きな人と一緒に見たかったなあって思ったんですよ!」

 そう言うと楓は俺の腕にしがみつく……78……は無いだろうが、楓の胸の柔らかい感触が俺の腕に伝わって来る。


 しかし……全くといってもいい程に、俺の中でいやらしい感情は湧かない……湧いてこない。

 たとえ裸で抱きついて来たとしても同じ事、妹とお風呂に入って興奮する奴はいないだろ? 居たとしたらそいつは変態だ。


 じゃあなぜ俺は今こいつと、楓とここに来ているのか? まるでこれじゃあデートじゃないか? まあデートなんだが。


 俺は楓に付き合ってと言われた翌日から、この自分の能力、そして前世の妹と出会ったという偶然、この二つには何か意味があるんじゃないか? と考えたんだ。

 まあ夜討ち朝駆けの如く俺に付きまとい、朝から晩まで情熱的にメッセージを送り、クラスの冷たい視線に目もくれず休み時間の度に俺の前で愛を囁く楓に折れたってのもあるけど……そしてあの熱血漢の長谷部が彼女の前で格好いい所を見せるべく、俺に「楓の事をよく考えてやれ!」と熱く、暑苦しく言ってきたのって事もあるけど……。


 楓とこうやって触れあう度に俺の前世のボヤけた記憶が映像が少しづつ鮮明になる。

 決して悪い気分でも無い……照れ臭かったりはするけど……妹と一緒に散歩なんてちょっと恥ずかしい気持ちになるけど、周囲は楓も含めて俺達が元兄妹なんて知らないのだから。


 俺は自分の前世の事は殆んどわかっていない、数十年前、日本のどこかで暮らしていたとしかわからない。

 今でもその場所はあるのだろうか? 生きている家族はいるのだろうか?

 俺は楓と出会って今まであまり興味のなかった俺の前世に、興味を抱いてしまった。

 

「あ! 先輩、先輩! あそこ! まだ少し咲いてる!」

 楓は俺の腕を離すと、池の近くにある桜の木の下に駆けて行く。

 桜に駆け寄る楓の姿を見て……桜舞う中笑顔で駆け寄ってくる妹の姿と重なる。デジャブ……いやこれも前世の記憶なのだろう……。


「せんぱーーい」

 楓が満面の笑みを浮かべながら大きく手を振り俺を呼ぶ。

 俺は頭を振り能力のスイッチを切って楓に近付く。


 今までに無いくらいの情報量だった。

 接触すればする程に鮮明になっていく過去の前世の時の妹の姿……。


「はうう、夢だった……好きな人とこうやって桜を見るのが……先輩……しゅき……」

 俺が近寄ると楓は桜を見たまま、俺の手を握ってそう言った。


「うん……綺麗だ」

 

「はううう、先輩……ああ、何か遠い昔に戻ってきた様な気分に……先輩キスしましょう……なんかそんな気分に!」


「しないから!」


「ぶうう、先輩のケチ」


 遠い昔に……か……。

 二人で手を繋ぎ桜を見上げる……能力は切っているのに……俺も楓と同じ気持ちに、遠い昔に戻った様な、そんな気持ちに……なっていた。

 

 


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