友達からなら……
「先輩私と付き合ってください!」
赤い髪の小さな女の子は臆面もなく上級生である俺の教室に入ると、俺の机に手を置き、俺に顔を近付けはっきりとそう言った。
ふわりと香る懐かしい香り……いや、懐かしいと感じているだけどねなのかも知れない。
しかしなんで元妹であるこの子が告白なんてしてくるんだよ!
俺はそれが疑問で率直に聞く。
「いや、な、なんで?」
「さっき私の事見てましたよね? あれってなにか私に感じたんじゃないんですか?」
「みてたって……いや、綺麗な髪の色だなあって、ただそれだけだよ」
赤い髪の毛、色んな色に染められる、ウィッグもある今の時代ではそこまで珍しくは無いが、俺の前世ならばかなり目立つ色、妹のトレードマークとも言える。
その前世の妹に似ていたからとは言えない。いや、今、能力をつかって見たこの子の前世に俺の映像が……本当に前世の俺の妹だったからなんて、もっと言えない。
「私は! 私は先輩を一目見た瞬間に運命を感じました! お願いします! 私と……付き合ってください!」
そう言ってその赤い髪の可愛らしい女子は、俺に再度告白をしてきた。
学食に行っている者が多いのが幸いした。現在クラスには数人しかいない……まあ、すぐに噂は広まるだろうから今居る人数はあまり意味はないが……。
それでもここで騒ぎになるよりは、ましだ。
俺はとりあえず彼女を落ち着かせる様に言った。
「いや、俺は君の事なにも知らないし、突然そんな事言われても困るよ」
今の現世の君の事は、本当になにもしらない……。
「私は楓! 瑠璃垣 楓中学の時のあだ名はゲコ、身長148cm体重42キロ、バストが78、ウエスト54、ヒップ72、好きな食べ物は甘いもの、嫌いな食べ物はミョウガ、趣味は料理、一人っ子、他に聞きたい事は!?」
「……バスト78?」
制服の上から胸の膨らみを確認……サイズとかよくわからんけど……。
「う、うるさい! 見るな!」
「あ、いやごめん、えっと……その……なんで俺なの?」
「だから言ったでしょ! 運命を感じたの、先輩を見た瞬間、なんかビビビって電気が走ったの! こんなの……生まれて初めて」
「ビビビって……」
「会った事ない筈なのに、今日初めて会ったのに……なんか懐かしい様な、まるで家族だった様な……そんな不思議な気持ちになったの……これって、これってもう……結婚て事でいいですよね?!」
「いや、良くないから! それ勘違いだから」
「なんでそんな事わかるんですか?!」
「いや……何でと言われても……」
前世で家族だったなんて、兄妹だったなんて言えない……言えるわけがない……。
「付き合って、付き合って、付き合って! 先輩! 私と付き合って!」
駄々っ子の様に叫ぶ楓ちゃん……でもその鬼の様な形相から告白というよりは……脅迫に近い。
「いや、そんな事言われても……」
見た目は多分可愛いであろう後輩の女子……彼女いない歴年齢の俺には高嶺の花と言ってもいいだろう……ただ、俺はこいつが、この女の子を可愛いとは思えない……だって妹なのだから……妹を可愛いって思う様な、付き合いたいって思う様な感情は、そんな趣味は俺には無い。
もしこの子が前世で妹じゃなければ……こんな気持ちにならなかったのだろうか?。
勿論、はいとは言えない……ここは、はっきり断りたいんだけど……。
「ふ、ふう、ふえええええええん」
「いや、えええ? ちょ、ちょっと待ってえええ!」
楓ちゃんは、突然しゃがんで泣き始めた。俺の前で、クラスの中で……。
困った……周りが注目している。ヤバい、さっき言った熱血漢、長谷部の彼女がこっちを睨んでいる。
長谷部にこんな事が知られたら、あいつならワンチャン殴られるまである。
俺はこの子に恋愛感情は全く抱いていない。しかし家族愛なら、妹と出会えた喜びならばある。
泣かせたくない……妹を、泣かせたくない……という気持ちはかなり強く感じている。
だから俺は……言った。
「えっと……とりあえず……友達からなら……」
当然興味はある……これっきりで、というのは俺にとっても不本意だ。
なのでありきたりの、というか、場合によってはキープとしての最低な言葉。
そして恋愛物だと、男がこの言葉を放った場合、付き合わなかった事はほぼ無いと言っていい禁断の言葉を、妹に向けて言った。言ってしまった。
俺がその禁断の言葉を妹に、いや元妹に言うと、楓は顔を上げ俺を見て何事もなかったかの様に笑った。
あ……今、また見えた……今また前世の記憶が甦って来る。そんな場面が、妹との映像が今まさに見えた。
そうだ……。
そうなんだ……妹は……前世の妹は……嘘泣きが得意だった。
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