雨の世界の少女は不思議
少しの残業で終わるはずの仕事にはまって一人で事務所にいた。
さっきから意識の外で耳にしていたらしいが、いよいよ叩きつける
ようになってきたのか窓の水音に気が付いてしまった。
こうなってしまうともう、気になって仕事どころではなくなる。
ビルの外は、どうやら雨が酷く降っているようだ。
どんな按配かと窓を開けてみたら、目の前が滝だった。
慌てて閉めようとした瞬間、表の通りに人影が見えた。
恐らくは女子大生だろうか、濡れた髪が肩に張り付いている。
上からなのに様子が分かったのも道理、傘も差さずに歩いていた。
夜も遅い時間ではあるし、気になって仕方ないので
様子を伺おうと階段を下りてエントランスに向かう。
セキュリティドアを開けてエントランスを抜け、
相変わらずの雨に顔を出してみると、丁度
彼女が目の前に差し掛かるところ。先程よりも
幼く見えたのは、距離と角度が違う所為か。
兎にも角にも、彼女はずぶ濡れだ。丈の長い
ワンピースも、裾の方から水が流れ落ちている。
そこで待つよう声を掛けて、階段に踵を返す。
「ほんとなら雨宿りをしてもらえばいいんだけど、
中に入って貰う訳にはいかないからここで我慢して」
そう言いながら、幾つか持ってきた景品用のタオルを渡す。
「いえ、ありがとうございます。」
そう言って受け取ると、肩までの髪を拭き始めた。
「濡れたタオルはこれに入れて」とバケツも用意。
彼女が拭いている間に、置き傘や放置傘だらけの
傘立てから埃を被ってなさそうなビニール傘を見繕う。
「これ持って行っていいよ」と手渡すと、
彼女はもう一度「ありがとう」と言って微笑んだ。
返す必要などないことは説明したが、「いいえぇ、
明日きっと返しに来ますね」と彼女は言う。
「タオルも助かりました。洗ってきましょうか?」
小首を傾げる彼女に「いやそれは大丈夫。それより
気を付けて。雨は未だ酷いから」と、答える。
彼女は傘を差して表に出ると、振り向いて会釈をする。
最初に見掛けた無表情とは同一人とは思えない程
明るい笑顔の横で、乾き切らない髪がくるんと踊った。
ちょっと見惚れた後ろ姿は、なんだか高校生のようだった。
時候に合わせてFacebookから発掘して、なろう流を意識して一部書き直しました。
Facebookでの公開日は4年前。余り書き足さず、ちょっとした改修に留めてあります。
評価、感想など、歓迎します。




