始まり
会社の同僚、佳奈とランチに行った帰り道。
「いつもはいかないお店だけど、ランチ美味しかったねー」
「そうねー。いつもは高くて行けないお店だけど、奮発してよかったよ。
なんてったって今日は杏奈の誕生日だからね!おめでとう!」
「ありがとう!やっぱり佳菜ちゃん、いい人すぎるぅぅっ!」
今日は私、西森 杏奈の24歳の誕生日である。
サプライズとして佳奈が少し高い店でランチをごちそうしてくれた。
佳奈は私と同じ年に入社して、入社そうそう揉め事に巻き込まれていた私を
助けてくれたいい人な同僚だ。
「いやいやフツーだからフツー。杏奈は少し悪い人が身の回りに多かっただけだよ。
しかも杏奈、ちゃんと前見なよ?持ち前の不運体質で、誕生日に死ぬとか最悪でしょ」
「了解!」
そうなのだ。私は不運が多すぎる体質で、人生のだいたいは不運の連続だった。
例えば生まれたとき。私が生まれたときに、母親が出血多量で死亡。
そしてその直後に病院に向かってきていた父親も事故死。
はい、この時点ですでに私の不運さは発揮されていたことがよくわかる。
ついでに言うと、私が親戚中で疫病神と呼ばれているのもこのときからである。
で、生まれたときからむやみやたらとたくさんいた、顔も見たことのない両親の親戚中を、
疫病神という名前つきで順番に預けられた。
つまり、リアルたらい回しにされた、ということだ。
もうそこらへんは面倒なので思い出さないことにしている。
で、結局父方の祖父の家で引き取られたが、とっくの昔に祖母は死んでおり、代わりに
血のつながっていないの祖母がいた。(父親はこの人が原因で家を出て行ったらしい)
とまぁなんやかんやその後も不運体質のせいで色々なことに巻き込まれたが、
私がここまで自殺などせずに生きてこれたのは、
いわゆる「前世」の記憶のおかげである。
私は、前世でもかなり不運で大変苦労した。それこそ今世と同じぐらい。
そんな不運体質で、生まれ変わりの私ですがすべて隠し通しながら
今は化粧品会社で事務員として地道に働いています。本当に頑張った。
そしてそんな私の誕生日に、後、そこの十字路を曲がったら会社につく、というところで。
私が立っている所の反対側から小さな女の子が、車道に出てしまったのが見えて、
その女の子がボールを追いかけることに夢中になっていて。
そしてその女の子の母親らしき人が大きな声でその女の子を呼んでいて、
その女の子を捕まえようとして必死に手を伸ばしていたけど
その手は届かなくって。
その女の子にトラックが迫ってきているのも見えて、
私が助けられる距離で。
あぁこれを見るってことが最大の不運だな。と、私は思う。
だって私は助けなくちゃって考えるだろうし、実際そうするんだから。
こんな不運な体質の私より、未来がある子供の方が誰にとっても必要なんだから。
それに私なら、また生まれ変われるかもしれないしね。
私は取り敢えず、
唯一人に自慢できる俊足で女の子のところに向かっていって、
背中で佳奈の悲鳴を聞き、なんか悪いことをしたなと思いながら
女の子を歩道側に押し出し、
自分はもう助からないんだろうなーなどと考えつつ
ドン、とトラックに撥ねられた。
そして宙を舞いながら
私の意識はプツリと途絶える。
それで、
目を開けると私は不思議なところ=現在地に立っていた。
いやちょっとまて。