バカ
「興味深い……」
洞窟内でやけに響く幼さの残る声。その声の主は倒れ伏す俺のことをつつきながらつぶやいた。正直気力がないためやめてほしい……。
「スケルトンなのに魔力がいっぱいある……。普通ここまで魔力量あるならリッチとかになるはず……」
よく見ると肩にはハクギョクが乗っていて、一緒になって俺をつついてくる。
ところで、リッチ? なにそれ強そう。俺もなりたいんだけど。え? そんなのになれんの? 俺スケルトンなんだけど……。
俺を殺そうとしていた鬼——今では上半身がけし飛ばされ、下半身だけが転がっている。
それを行った張本人––––ぶかぶかのローブを身につけた少女は、フードの隙間から深い海を思わせる青い瞳をカルホネに向けている。隙間から覗く白銀の髪は暗い洞窟内でも輝いて見えるほど透き通り、ローブの下は美少女であることが予想できる。
「生きてる……?」
詳しく聞きたいところだが向こうが先に聞いてきた。声は出せないので手だけをふらふらと挙げることで答える。
「——ハクちゃんに助け、呼ばれてきた……。……立てる?」
どうやらこの少女はハクギョクが呼んできたらしい。小鬼達はすでに散っていき、ここに残っているのは、少女とスライムと死体と骨——これだけだ。
ふらふらと立ち上がると少女の方に乗っていたハクギョクがポカポカと俺を叩く。ステータスが上がったハクギョクの抗議は死にかけのカルホネには堪えた。
(ハクギョクさん? ちょっとそれはマズイ。骨の罅から変な音が……)
そんな思考がハクギョクに届くはずもなく、むしろより一層力が強まった。
「——ハクちゃん……助け呼びに来た時、すごく泣いてた。だから……それくらい、受けてしかるべき」
俺の思考を読んだかのように言ってくる少女。どうやらハクギョクを止めるつもりはないらしい。
(ん? 泣いていた?)
ハクギョクはスライムだ。泣くなんてことあるのだろうかと疑問に思う。
(そもそも、どうやって意思疎通を——)
『こうやって話した』
突然、頭の中に少女の声が響いてきた。それはレベルアップ時に聞こえてくる通知のようで思わずあたりを確認してしまう。
『念話、送っただけ。今、あなたと魔力をつなげてる。それを通して思考を送ってる』
『————あ、あー。こんな感じか? えーと、そうすると今まで測ったようなタイミングで俺の思考に答えてきたのはそれを使って?』
あらゆる魔法を操るスキル——<魔導>の恩恵か、俺は念話がなんとなく使えるような気がしたので少女に使った。
『驚いた……。スケルトンなのに念話使えたの? あと、話し掛けるまで念話は使ってない。ただ、あなたがわかりやすいだけ……』
『あ、はい。そうですか……』
(骨って表情とか変化するのか?)
そんなわけないのだが思わず顔を触ってしまう。
なんにしてもここまではっきり言われると心にくるものがある。自分ではどうしようもない事なのがさらに追い討ちをかけてくるのだが……
『そろそろマジでヤバイので、やめてもらえますかハクギョクさん』
それ以上の追い討ち——ハクギョクは落ち込んでいる間もずっと俺を叩いていた。
抗議を念話で送るとハクギョクはびくりと驚いたように震えた。その後、俺からの念話だと気づくと先ほどより強い力で叩いてくる。
『え? ちょ、待って待って。言いたいことあるなら言って!』
抗議をしたのに叩くのをやめるどころか強くなった事に驚いた
『それじゃダメ。念話送ってるだけで受け取れてない。ちゃんと魔力つなげて、自分の魔力と混ぜる感じで』
見かねた少女はアドバイスしてくれる。アドバイスを素直に受け取り実行してみる。俺とハクギョクの間にパスのようなものが繋がった瞬間、頭の中に
『ばかばかバカー! カルホネさんのバカー! なんで、ヒグッ、一人で、ヒグッ、私だけ逃がして。私も、私も、一緒に、う、うわぁぁぁん』
ハクギョクの声が頭に響く。鈴を鳴らしたような可愛らしい声。俺が考えていた以上に心配してくれていたようだ。
短い時間の付き合いだった事もありここまで心配してくれるとは思わなかったので戸惑う。こんな時、なんて声をかけたらいいのか……。
考えを絞り出し、ハクギョクに対して俺は——。
『…………ハクギョク。お前、——————女だったのか?』
心底驚いたといった声で問いかけた。
発言してから気づいた、これ今言ったらいけないやつだと。
これには泣いていたハクギョクも無言。
『ばか……』
ハクギョクと少女、二人に割と強めに叩かれる事を俺は甘んじて受け入れる事にした。