進化
<条件を満たしたので進化を始めます>
そう聞こえたと同時に、体の中心——肋骨の内側に存在する赤黒い球体が脈動し、全身が作り変えられる感覚を覚えた。
ピキリと骨が軋み、魔力が内側で暴れ出す。その余波が魂にまで及び存在が根本から作り変えられる感覚に恐怖を覚える。ほんの数秒の出来事、しかし何時間にも感じられた拷問のような時間も終わり、気がつくとハクギョクが目の前で心配そうにしていた。
大丈夫——そう伝えるためにハクギョクを優しく撫でる。
安心したのかハクギョクは定位置である骨の間に収まった。
(どこらへんが変わったんだ?)
見た目にこれといた変化はない。ジャンプをしたり軽く走ってみたりと体の調子を確認する。力が飛躍的に上るようなこともなく、むしろこれは——、
(——弱くなってる?)
進化前の体の軽さがなくなり、前よりも体が重く感じる。魔力も心なしか少なくなってるし……。進化って強くなるんじゃないの……?
(そうだ、ステータス)
真偽の程はこれで確認すればわかる。考えた瞬間に速攻で確認した。
ステータス
Lv1
Name カルホネ
Race スケルトン
HP 32/32
MP 1127/1127
STR 5.3
INT 64.4
MEN 48.3
VIT 3.2
DEX 200.3
AGI 3.1
スキル <暗視><刀術><隠密><テイム>
ユニークスキル<魔道><魂感知>
従魔:ハクギョク
ステータス(従魔)
Lv14
Name ハクギョク
Race スライム
HP 115/115
MP 71/71
STR 4.7
INT 3.8
MEN 3.2
VIT 11.5
DEX 4.3
AGI 8.1
スキル <暗視><危険察知><射撃>
ユニークスキル <消化>
(やっぱりステータスが下がって……、ん? あれ? レベルが1に戻って……、 とゆうより種族変わってない!)
進化とはとても言えない、退化とすら言える変化に開いた口がふさがらない。
(いや、落ち着け。まだ完全に退化とかまったわけじゃない。もしかしたら進化前のレベル1の時のステータスより今の方が高い可能性が……)
記憶をたどってレベル1だった時のステータスを思い出そうとするが記憶に引っかかりもしなかった。
(よく考えたら俺レベル1の時ステータス知らないじゃん……)
あの頃はまだこの世界に来たばかり。ステータスの存在もレベルが上がって初めて知ったのだ。仮に、レベル1の時のステータスなんて見ていたとしても記憶にとどめているかも怪しい。
(ステータスが上がっているかどうかはレベル2まではお預けか……)
こうなってくると、本当に1からレベルを上げるしかない。これで何も変化がなければ何のために進化なんてさせられたのか……。
(だいたい進化って何だよ! 説明書よこせ! チュートリアルプリーズ! 説明不足すぎる!)
今まで順調に来ていた分、つまずいた反動が大きかった。ましてや、強制的に進化させられた上に弱体化する始末。行き場のない怒りを持て余し、悪態をこれ以上なく吐いた。
怒りに全身を震わせステータスを睨む——実際には骸骨がステータスに無機質な表情を向けている—俺を心配してかハクギョクが骨の間から覗き込んでくる。
ハクギョクを心配させようとは思わないので少しずつ怒りを鎮める。
冷静に状況を見つめ直すと完全に弱体化とは言えない部分もある。。
(よくよく思い出してみればVITとDEXがほんの少し——ほんの少しだけレベル2の時より高いじゃないか)
記憶の彼方にあったレベル2の時のステータス。冷静になって記憶の底から思い起こしてみればちらほらと上回っているステータスもある。
(希望が出てきたか? ……もしかして、俺ずっとスケルトンのままステータスをちょっとずつ上げていくことになる?)
てっきり進化したら種族が変わると思っていた。でも、進化によって種族の変化が望めないのであれば、最悪このままスケルトンの可能性がある。
だとしたら、小説のように進化を繰り返して人に近づくなんて淡い期待も打ち砕かれることになる。
(いや、逆に考えろ。進化のための条件は……状況から考えてレベル15——
おそらく、そこがスケルトンのレベル上限。そこまでレベルを上げるのに苦労はほとんどない。そして何度も進化を繰り返せば……)
そこまで考える頃にはナーバスになっていた心に光が射す。
人型は諦めることになったけど、よくよく考えたらこれって結構簡単に強くなれるんじゃない? ゲームとかだと進化するごとに必要経験値上がるから、そこはおいおい確認するとして、最弱と呼ばれるスケルトンが無双するなんてロマンあふれる事も……。
これからを想像してカタカタと笑いが溢れる。
ハクギョクは急にカタカタと歯を打ち鳴らし始めた俺に萎縮し縮こまってしまったが、そんなことに気づかず、意気揚々と鬼を倒した後に現れた通路を進んでいった。
(お? 第一獲物はっけん!)
そこにいたのは先ほど戦った者より一回り小さい色違いの鬼。先ほどの鬼は赤色だったが、こいつは緑色だ。
こちらにはまだ気づいていないようで、間抜け面を晒しながらノロノロ歩きまわっている。
(ふふふ、お前には経験値として俺の礎になってもらう!)
ステータスが下がったことなど等に忘れ去り、何も考えず突っ込んでいくバカ。ハクギョクも完全に気を抜いていて危険察知が発動しなかった。そもそも危険察知は自分の危機を知る物。気を張っていても発動したかはわからない。
俺が放った魔力の圧縮弾——魔力弾はまっすぐに鬼の顔を捉え、そのまま直撃した。
進化前であればそれで終わっていた。しかし今は弱体化したばかり。これでは威力が足りなかった。放たれた魔力弾は鬼の顔にぶつかると頼りなく拡散していった。
それでも衝撃波は受けたのだろう。鬼は怒りに顔を歪め俺を睨みつける。
なんとも言えない空気が漂う。俺は魔力弾を放った格好のまま固まっていた。
汗腺はないはずだが汗が頰を伝う感覚を覚える。
先ほどの鬼とは違い重量感のある剣を握りしめている。手に力が入り全身の筋肉が隆起する。
(……は、はは。——————話し合いません?)
「グラァァァア」
大気を振るわせる咆哮に、ハクギョクの危機察知が今までにないほど反応した。