鬼
このレベル上げ、もの凄くはかどった。初めのうちは俺が察知&殲滅を繰り返すだけだったのだが、どうやら経験値が共有されるようだ。レベルの上がったハクギョクが攻撃手段を手に入れたことで効率が一気に上がった。
(しかし骨の間から狙撃とかエグいな・・・)
ハクギョクは体の一部を切り離し超高速で発射させることを覚えたらしい。
俺の肋骨の内側という安全圏から敵を攻撃するという実に羨ましいポジション。
できることなら俺も自分の身を危険にさらすこと無く戦えるようになりたい。
俺個人の願望はともかく、レベルも上がり余裕が出てきた。そろそろ別の獲物を探そうと思う。転生してからいまだにスケルトンとしか戦っていない。そろそろ違う魔物とも戦ってもいい頃だ。
(ここってダンジョン的な場所みたいだし、案外ボス部屋とかあるかもな……)
予想通りボス部屋はあった。禍々しい扉の先からはこれまでとは異なる邪悪なオーラを放つ魂の反応が……。
(いけるか?)
先ほどは次の獲物と息巻いていたが、こうして近くで感じると尻込みしてしまう。
(そうだ! ずっと確認してなかったステータスを見よう。うん、これは決して逃げじゃない……だからそんな目で見るな、ハクギョク)
実際にハクギョクがジト目を向けている訳ではないのだが、なんと無く雰囲気として感じられる。これもテイムの影響か……。
(とりあえず、ステータス!)
ステータス
Lv14
Name カルホネ
Race スケルトン
HP 49/51
MP 1197/1197
STR 8.0
INT 68.4
MEN 51.3
VIT 5.1
DEX 203.1
AGI 4.3
スキル <暗視><刀術><隠密><テイム>
ユニークスキル<魔道><魂感知>
従魔:ハクギョク
ステータス(従魔)
Lv13
Name ハクギョク
Race スライム
HP 110/110
MP 64/64
STR 4.7
INT 3.5
MEN 2.9
VIT 11.0
DEX 4.1
AGI 7.6
スキル <暗視><危険察知><射撃>new
ユニークスキル <消化>
<射撃> 射撃時集中力上昇。威力上昇。命中補正。
(おお! 思った以上にステータス上がってる!)
俺の持つスキルの方に変化はない。ハクギョクは新しく<射撃>を得ているが、他は特にない。
ステータスもレベルが上がった分順当に伸びている。
惜しむべきは前衛がいないことだろうか。俺が後衛である事は確定として、ハクギョクを前に立たせるのは忍びない。
(……まあ、なんとかなるか?)
決して楽観視した訳ではない。ただ事実として俺たちは強いという自信があった。前衛については一応俺が代用ということで、おいおい考えていくことにする。
(ひとまずはこの扉の先に待つボスを倒さないとな)
心を落ち着かせ扉に手をかける。ズシリと手に伝わる重量感。見た目以上に感じるこの重さは扉の持つ質量によるものか、それとも俺が萎縮しているからか。
(大丈夫……、俺は強い)
自分を鼓舞し扉を開く。
——ギギギィッ
重苦しい音を立て、開かれる扉。先には広い空間が広がり、中心には巨大な人影。
それは一言で言うなら鬼だった。
赤い肌、脈動する筋肉、蒸気を吐き出しながら焦点の合わない目を向けてくる鬼が一匹、荒い息を吐きながら立っている。
こちらに気づいた鬼はその顔を邪悪に歪め、大きく息を吸いこむ。
「グルァァァア!!!!」
大気を震わす雄叫が鳴り響いた。ビリビリと体を突き抜けるような衝撃。
一瞬のことで油断してしまった。
気づきと目の前で手に持つ棍棒を振り降ろさんとする鬼。
それはほとんど無意識だった。真横に向かって全力でダイブする。
——ドゴンッ
砂埃が舞い、衝撃が風となって体を吹き抜け、停止していた思考が戻ってくる。砂埃が消えるとそこには砕け散った地面。避けなかった時のことを考えると背筋が凍る。
(あ、あぶねぇ! 死ぬところだった)
まさかあの距離を一瞬で詰めてくるとは……。
スケルトンなどとは比べ物にならない、間違いなく強敵だ。
(あー、やだ。俺は楽して強くなりたいのに。絶対死闘じゃん。逃げ道の扉閉まってるし、死闘確定じゃん)
無意識に二回も同じことを考えるくらいに状況は確定していた。ハクギョクのサポートありきでどこまで立ち回れるか。できれば近づきたくないのだが……。
「グオオオオ——、——ォオオ!!!」
当然それも叶わず、鬼は間合いを詰めてくる。
再び棍棒を振り下ろす鬼。単調ながらもその豪腕で振られる一撃は重い。正面から受ける事はせず抜刀した刀で受け流す。
(——ッ、おっもぉ!)
技量の問題か、はたまた鬼が強いからか、俺は受け流しきれなかった分その衝撃をもろに食らう。
——ピキ
骨から響く嫌な音。確実にヒビが入った。
(やばい、痛みがないのは良かったけど……。この分じゃ、何度も受け流せないぞ)
鬼の行動は早い。目で追えない事もないが、避けるとなれば難しいものがある。そして受け流すのにも回数制限が……。
俺は、圧倒的不利に追い込まれてしまった。
こちらをろくに警戒していないのか鬼の攻撃は上段からの振り下ろしの一本調子。それは何度も俺を吹き飛ばす。
——ドゴンッ
また鬼の一撃で吹き飛ばされる。なんとか直撃は避けているがそれだけで誠意一杯だ。
(一瞬でもいい。隙さえあれば……)
隙さえあれば必ず仕留める。俺にはその力も技量もあるはずだ。
詰め将棋のように追い詰められながらも、隙を見せる一瞬を逃すまいと食らいつく。
鬼はそんな俺が気に入らないのか苛立ちが見て取れる。
(そうだ、怒れ……。そして隙を見せろ)
鬼のふるった一撃が俺を吹き飛ばす。直撃はしないまでも、衝撃波にやられ体が宙へ浮く。体が地面へ打ち付けられ無様に転がる。
鬼は勝利を確信し、なめきった態度で近づいてくる。
一歩、また一歩。最初に戦ったスケルトンのように死が迫る。
そして目の前。鬼はゆっくりと棍棒を高く振り上げた。口角がつり上がり勝利に酔いしれている。
それが、命取りとも知らず……。
——ピュッ
完全に意識の外からの攻撃。俺の肋骨の内側から、今まで息を潜めていたハクギョクが攻撃した。狙いは鬼の目。威力は低くとも鬼から隙を作り出すには十分だった。
(ナイスだ、ハクギョク!)
隙、あれほど欲した隙が目の前にある。ここを逃したら次はない。
ハクギョクが作り出した隙を逃しはしない。
倒れていた姿勢から最短で立ち上がる。
刀を握りしめ横薙ぎに振るう。
再び訪れる引き伸ばされた時間。初戦闘で、死を目の前にした時以来のそれは再び音を、色を置き去りにする。
灰色の世界で、俺は鬼の首に吸い込まれていく刀を見ていた。
飛ばされた首が、重力に引かれ落ちていく。鬼の顔は驚愕に染まったまま固まっている。
(ざまぁ見ろ……)
世界に色が戻る。鬼の体地面に倒れる音が、俺に戦いの終わりを告げる。
こうして、俺たちは鬼に打ち勝った。
<レベルが上がりました>
<従魔のレベルが上がりました>
<レベルが上限に達しました>
<条件を満たしたので進化を始めます>