友達
『お巡りさんこいつです』
「……何でそのネタ知ってんだよ」
説明を求めるように目を向ける。
ジト目を向けられたハクギョクは動揺したようにビクリと震えた後、誤魔化すように話した。
『う……、えーっと。その、……そう! 昔いた転生者の中にそう言っている人がいたんですよ』
「はぁ……。スライムですら知ってるほど浸透するとか……、何というくだらない物を残してんだ、転生者は」
俺は、——実際は痛覚なんてものはないのだが——何だか頭が痛くなってくるようだった。こんなくだらないことまで広まってるなら他にも転生者が広めたものは多そうだ。
『それで、いつまで撫でてるつもりですか?』
そう言われて自分がいまだにリーベから手を離していなかったことに気づく。慌てて撫でている手をリーベから離した。
無意識に撫でてしまうとは……。恐るべし、リーベ。
「……そんな名残惜しそうに見んなよ。あとでまた撫でるから……。話を進めてくれ」
「……別に、名残惜しそうにはしてない」
「なら、撫でなくてもいいな」
「……別にいいし」
少し意地悪に言うと、リーベは少ししょぼくれた様子で言った。
……ちょっと意地悪が過ぎたかもしれない。
考えてみればリーベにとって、こうして誰かに優しくされたのは母親以来、初めての事なのかもしれない。だから、頭を撫でられただけであれだけの反応を見せた。
(そう考えるとやっぱり、さっきの発言は意地悪だったかなぁ)
言って早々だが、すでに後悔し始めていた。
リーベはエルフの里での仕打ちのせいか見るからに人付き合いが苦手だ。
そのせいで今まで世界中を旅し国に使えた事もある身でありながら親しいものは一人もいない。
寂しがり屋なリーベが、魔物に友達としてそばにいて欲しいと願うのは必然だったのかもしれない。
「あー、悪かった悪かった。ちゃんと撫でてやるから」
「だから別にそんなの求めてない……」
『カルホネさん、ほんと女心ってのがわかってないですねー。リーベさん、カルホネさんはこう言ってますが、本当はカルホネさんの方がリーベさんを撫でたいだけなんですよ』
急に話に割り込んできたかと思ったら、とんでも無いことを言い出したハクギョクに抗議の声を上げるが、黙殺されてしまった。黙っていろとのことらしい。
しかし、こんな幼児をあやすようなあからさまな嘘をリーベが信じるとは思えない。
きっとプライドが邪魔をしてリーベも拒絶するに違いない。
「……そう言うことなら仕方ない。私は寛大だから、許可する」
(お前はそれでいいのか……)
どうやらリーベはプライドを持ち合わせていなかったらしい。というより、あやされていることすら気づいてないのか?
『ですって、カルホネさん。良かったですね』
なんとなく釈然としないのだが、ここで抵抗してもややこしくなるだけなので諦めた。俺は大人だからな。別に、リーベの頭を撫でたかったとかでは無い。それよりも話を進めて欲しい。
「はいはい、ありがとーございます。……で、俺は一刻も早くリーベの頭を撫でるために話の続きを聞きたいんだが……」
「そこまで撫でたいなんて……。んんっ、わかった、話を戻す。……魔物を作ろうと決めた私が最初にしたのは国に所属すること。前から、声はかかってたから魔物の研究に協力することを条件にある王国に宮殿魔術師として使える事にした」
うっかり本音が漏れて——思っていないことを言ってしまった。でも、リーベが嬉しそうだから問題ない。
「確か、魔物に好かれなかったから自分で作ろうとしたんだったよな。……聞くまでもないかも知れんが、改造したスライムが暴走して滅びかけた国って……」
「そう、この国。……これがきっかけで今では私もお尋ね者。どこの国でもわしを狙う輩がいるからフードを取るのが怖くなってた。カルホネとハクちゃんにフードを取らずに接してたのもこのことがあったから」
「自業自得じゃねーか……。重い話するから、てっきりエルフの里での体験が理由だと思ったのに」
「……エルフの里のことは、正直もうどうでもいい。私はもうカルホネとハクちゃんに出会えたから」
こうしてはっきりと好意を向けられると気恥ずかしくなる。それはハクギョクも同じようで思わずお互い顔を見合わせてしまった。
「だから……その。……いっぱい迷惑かけると思うけど、お友達になって欲しい」
一体誰がこの申し出を断れるのだろうか。




