七日目 リリカ
とりあえずこいつの家に泊まることになった。面倒だけど首を突っ込んだのはウチ。仕方ない。
帰ったら家族がシイナを取り囲んでいた。もちろん憔悴しきっている中で説明も上手く出来るはずがない。
さっさと部屋で休ませることにした。
もう遅いし、明日にでも警察に連絡すればいい。
ついでに妹がムクれながら付いて来たけど追い払ってしまった。まあ、こいつも姉なら妹に弱ってる姿は見られたくないだろう。
部屋の鍵を掛け、窓も鍵を掛け、カーテンも閉める。これで誰も入って来られない。
それにしても、なんでウチに一緒にいてほしいと言ったのか。
助けたのは助けた。あんな現場を見て、合意でやってるように思えなかったし。
拘束されたまま苦痛を味わうかのような涙。
自身に陶酔しきって相手を考えない傲慢さ。
正直、イラついた。
だから仕方なく助けたけど、こいつはウチを嫌いなはず。怖がっているのは知っていた。いつもビクビクしてるし。
頼るわけないと思っていたけど……今もパニック?
布団を頭まで被るシイナ。
最近、ホントに様子がおかしい。
マヤの件もそうだけど、他にも何かあったのかもしれない。今それを突っ込んで聞くのは野暮だろうけど。
ウチは関係ない。そう突き放すのは簡単なのに、ウジウジしてるこいつを見てると……イライラしてどうしようもない。
ただウザいだけの存在が、心を掻き乱して冷静さを失わせる。あー、こんなモヤモヤしてバカみたい。
「……リリカちゃん……いる……?」
「いないほうが良い?」
「やだ」
意地悪言いすぎたかも。震えているのが分かる。
こんな時、アケミなら抱き締めて優しい言葉をかけていただろう。
ウチには、できないけど。
暇なので部屋を見回す。
久しぶりに来たな。こいつの部屋。部屋の配置もぬいぐるみも、大して一年前と変わらない。
ふとカレンダーを眺めて、あることに気付く。
「あんた今日って——」
「リリカちゃん」
凛とした声。思わず押し黙る。気弱なこいつが珍しいくらいハッキリと遮った。
「もしかしたら、最期かもしれない、から」
「は?」
何を言ってるんだ。何が最後だよ。
せっかく助けてこうやって側に居てやってるのに。
殴ろうと思って近付くと腕を引かれた。
「……っにすんだよ!」
「ごめん。でも聞いて」
濡れた瞳に、どきりとする。マヤに襲われていた時を思い出して、頭から追い出した。変なこと考えてる場合じゃない。
「いま、すごく眠くて——」
だからなんだ。寝てる間を守ってほしい、とか?
「本当は一緒に寝てほしいけど、それはだめで……ええと、なんていえばいいのかな……」
要領を得ない言葉にイライラが募る。
あんたの彼氏じゃねーって言ったじゃん。
でも本当に眠そうだ。
「ね……私は私かな……?」
もう寝ぼけてる。
「は? 当たり前じゃん。もう分かったから寝ろ。一緒に寝てやるよ。ほら」
彼女は安心したのか、穏やかな寝息を立て始めた。抱き枕のように抱き締められて動けないのが問題だけど。
安請け合いするんじゃなかった……。でもまあ思ったほどイヤではない。
動きづらいけどしっかり眠くなる。ずっと駆けずり回っていた身体は睡眠を欲していた。
*
「リリカ」
「……ぁに……」
「ねえリリカ」
もう朝? シイナの声にまぶたを開く。
「聞いて聞いてすごいよ。効果抜群!」
「何がよ。あんた一晩寝たら別人みたいに元気じゃん」
あれ、身体が動かない……。縛られてると気付いて、寝ぼけた頭が一気に冴えた。
どういう冗談? 思いっきり睨むと、怖がりもせずヘラヘラしていた。らしくない軽薄な笑み。
「誰?」
「あはっ、もう気付いちゃったか。そう、別人みたいじゃなくって別人」
にやりとして、自身の髪を愛おしげに撫でるそいつ。
「リリカはやっぱりヘタレだね。可哀想だしベタベタしてたのは許そう。助けてくれたしね。あーあ、あたしならもっと骨抜きにしてあげたのにな。残念でした」
「は? あんたは何を」
「時間が掛かったけど、しーちゃんと一つになれた。一心同体ってこーゆうことだよねえ。ははっ……はははは」
ゾクッと背が凍る。
狂気的な瞳が記憶の中のそいつとダブって、声を失う。
まさか——。
「ハッピーバースデー。見つけてくれてありがとう。これで、一生一緒だよ」
読了ありがとうございました!
ホラーはやっぱり難しい。うん。
てかヤンデレパーティーはホラーに入るのかしら。