二日目
制服に袖を通し、リボンを留める。ここでシャツのボタンを掛け違えていると気付いて、げんなりしてしまった。
あのメールの内容が、心を違う場所まで飛ばしている。
ただの迷惑メールなら良かった。でも、あれは彼女本人のメール。文章の書き方や段落の空け方、全てが彼女らしいと思うし……単なる迷惑メールなら手が込んでいる。なりすます意味も分からない。
決心を固めた。
あーちゃんは私に助けを求めていた。
見つけて欲しいと言っていた。
だったら、ずっと目を背けていたことを見なきゃいけない時なんだと思う。
私は彼女が死んだことは理解していても、彼女が自殺することは——いまだに信じられない。実感がなかった。みんなの中心にいた彼女に、そうする理由があっただろうか?
彼女のお葬式にも行った。
けど彼女が本当に自殺だったのかは、家族や友人にさえ疑問視されていた。
真実を見つけに行かなきゃいけないのかもしれない。
自殺した理由を、もしくは本当に自殺だったのか。
一つ頷いて、バッグに突っ込んだスマホを胸ポケットに入れ直した。もしまた彼女からメールが来ても良いように。
*
「アケミンが死んだ時の話?」
「うん……ごめん変なこと聞いて」
「いんや。ただ意外だなーと思って。ずっと塞ぎ込んでたのに、いきなり一年前の話が聞きたいだなんてさ。触れないほうがいいと思ってたし」
「だ、だよね。本当に勝手でごめんね……」
「ほら謝らない! 私だって考えることはあったから。んーでも……よく知らないよ。シイナちゃんと変わらないくらいじゃないかな。神社裏でアケミンが自殺したこと。発見したのは神社の人。それくらい」
嫌な顔もせずマヤちゃんは応えてくれた。突拍子もない問いに。
確かに私が知ってることと変わらない。
「自殺した理由は知ってる?」
「私も知らないんだ。てっきりシイナちゃんのほうが知ってると思ってたし。悩みがある風でもなかったもんね。正直、自殺ってとこに首を傾げちゃうくらい」
「だよね。じゃあ、その前後で何か変化ってあった? おかしいこととか」
「ふふ、なんか刑事さんか探偵さんみたい」
「……これでも真剣だよ?」
「分かってる分かってる! 全く、シイナちゃんは真面目でかわいいなー。えーと前後かあ。事件後の話はするまでもないと思うけど……リリと交流が無くなったことかな。四人で仲良くしてたと思ったんだけど」
「そうだね。私のせいでもあると思うけど、その、良かったの?」
「いーの。気にしすぎー。でもアケミンが死んだのって誕生日だったから、なおのこと驚いたよね」
「うん……」
あーちゃんの誕生日。
その日は私たちでお祝いする予定だった。
しかし時間になっても彼女が現れることはなく、連絡の一つも届くことはなかった。
照れているんだろう。そう考えた私たちは解散して——。
夕暮れの中、神社で息絶えた彼女を知るのは翌日のことだった。
「事件前か。二人とはあまり連絡取ってないからなあ。あ、でもリリがアケミンと話をしてたらしいよ。どんな話かはわからないけどねー」
「話……。リリカちゃんが?」
「んー。噂だけどね。口論になってた、て言われてて……」
「それ本当?」
リリカちゃんはあーちゃんに懐いていた。
口論になるだなんて、よほどのことがあったのだろう。そういえば誕生日会の準備でも不機嫌そうだった。あの時は、私と買出しに行くのが嫌だったのかと思ってたけど……。
本人に聞く必要がある。
でも、聞く勇気はない。
彼女とはベクトルが違うのだ。違すぎる。
派手な見た目と強気な姿勢。私と二人だけでいると、常にスマホを弄ってこちらを見ようともしないし、話す必要があれば「ノロマ。マジでトロい」だの「うじうじしてるんじゃねーよ」だの、激辛で辛辣な言葉が飛び出す。
あーちゃんの前だと普通なんだけど……。
今は近づくのさえ怖い。
もしかしたら「人殺し」と言われてしまうのではないか、と。
「シイナちゃん、リリには会わないほうがいいよ」
「でも、それは逃げることになっちゃう……」
「逃げていいよ。だってこんなに震えてるよ?」
優しく抱きしめてくれる。あたたかい。
知らない内に震えていたようで、身体も声も言うことを聞かない。
あーちゃんは見つけてと言った。
マヤちゃんは逃げてと言った。
きっと、どちらも求めていた言葉だった。