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「おはようございます」


 背後から声をかけられて、私はお茶を淹れる手を止めずに振り返った。給湯室の入り口には後輩である椎名さんが立っていた。

 ナチュラルに見えるが実はバッチリ施したメイクは今日も完璧で、黒目が大きく見えるカラコンの入った瞳で見つめられると女の私でもコロリと堕ちそうだ。


「おはよう椎名さん。今日も相変わらず可愛いね」


 セクハラオヤジのような挨拶をした私にこの後輩は、呆れたような顔をして溜息を吐いた。


「日暮先輩、私が可愛いのは当たり前です。努力してますから」


 そう言って私の隣まで来ると棚からお盆を取り出して、さっきから私がお茶を淹れた湯呑やマグカップを次々と載せ、それを持って給湯室を出ていった。

 この会社は朝一番に皆のデスクにお茶を配る。それは事務員の仕事で、この会社の事務員は椎名さんと私、それから週に三日のパートの岡本さんの三人だ。今日は木曜で岡本さんがお休みの日なので二人で行っている。

 今どき女性事務員にお茶を淹れさせる会社なんてどうかとも思うけれど、古い体質の中小企業だし、掃除は専門業者が入っているからしないので、まぁこのくらいは良いかと思っている。

 私が使用した急須を洗って片付け、サッとその辺りを拭いていると空のお盆を持った椎名さんが戻ってきたから、お盆を片付けるのを待ってキッチンの作業台に残してあった椎名さんのマグカップを手渡し、私も自分のカップを手にとった。


「で、何かあったんですか?先輩。今日のお茶、美味しくないですよ」


 そうなのだ。私が淹れるお茶はその時の気分によって味が左右されるらしい。ご機嫌な時はまろやかに、不機嫌な時は苦みばしり。とは言ってもそんなことを言うのは椎名さんと、所長くらいのものだけれども。


「いや、昨日ちょっとね」


 私は自分のお茶を一口啜って苦い顔をした。お茶が苦いんじゃなくて、昨日のことを思い出したからだ。今思い出しても腹立たしい。どうしてくれるんだ私のワイン!


「日暮先輩、顔がブサイクになってます。詳しいことは是非、お昼休みにお聞かせください」


 ニッコリと笑う顔も可愛らしい。それに反してこの後輩の言葉はいつもキツイ。最初に聞いたときは驚きと戸惑いで空耳かと思ったくらいだが、付き合っているうちに慣れた。それに実は中身は誠実で真面目なとっても良い子なのだ、毒舌なだけで。 



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