骨と愉快な仲間達
きれーなおねーさんがすきです
「うーきもちわりぃ、まだ頭くるくるするわ・・・」
クライドは、ふらふらしながら廊下を歩いていた。
危険探知、
魔法検知、
悪意検知など
危険を調べる調査系の魔法を使われまくった結果だ。
従来であればこの手の魔法は使われた側が
気が付くことは無いが、今回は入念に調べる
ということで、強化された検知魔法を至近距離で
使われたことによる影響が出たのだ。
「すげーきぶんわるい。
頭の中に、くちゅって手を入れられて
ぐにゅぐにゅされるそんな感じ。
脳みそをくちゅくちゅされる感じ?
いや脳みそくちゅくちゅされたことないけど」
ふらふらしながらもなんとか
エイトとシーノの待つ部屋にたどりついた。
「ふむ、ご苦労。敵対勢力の者ではない。
というのは報告が来た。そこで疲れているところ悪いが」
「自分がどこの者で、何者であるか、
族名は何であるかわからない。
つまり記憶喪失である。間違いないか?」
自分は、別の世界の者で、
ブラック企業勤めのサラリーマンで、
田中冬二、人間である。
記憶もばっちりある。
シーノさまは相変わらず、お美しい。
わからないのは、なぜ、どうやってこの世界に来たのか?
なぜスケルトンになってしまったのか?である。
ということを説明しても、
絶対理解してもらえないだろうから
記憶喪失ということにしておく。
「はい、記憶が完全に無いというわけではなく、
所々わかることもありますが、基本はわかりません。
この世界の常識的なことすら
全然わからないことが多々あります」
これで、矛盾はあるまい、
と自分の中で100%な答えを出せた。
すると、ちょっと考えていたエイトが
「記憶がとぎれとぎれであり混乱はしている。
しかし意識はハッキリ明瞭なんだな。不思議なもんだ」
鋭く重箱の隅をつつくエイトに一瞬ドキッとしたが、
気を取り直し
「そ、そうですね、私にも何が何かさっぱりわかりません。
混乱しています。ハイ」
と答えた。
「では、族名は無いと思っても良いのですか?」
とシーノが尋ねると、クライドはうなずく。
するとシーノは、とっても嬉しそうな顔をして
「じゃあ、お名前をつけなきゃいけませんね。
私がつけてもよろしいですか?クライド」
そんなうれしい、もったいない話喜んでと思ったが、
なぜかシーノの横にいるエイトが複雑な表情になり
「おい、よせ・・・」
とシーノに何か言おうとするが、それよりも素早くシーノが
「クライドは、スケルトンですから、族名、
"ほねほねほーね"はどうですか?」
「それ以外にも、
"ハガカタカタカタ"とかも素敵ですよね、
"ロッコツマン"とかもカッコイイと思いますよ」
「希望という意味で、"キボーン"とかどうです?
あ、勇ましい名前が良いなら、"イカリカタカタ"とかは?」
「大きく成長してほしい思いを込めて
"びっくだでぃ"とかどうです?」
「切れがある人という意味で"ハンバーグシショウ"
とかも割と好きですよ私」
「あとは、そうですねー、えーっと・・・・・」
シーノはとっても嬉しそうに次々と名前の候補?
らしきものを出してくる。
エイトがそれを遮って
「し、シーノ、
クライドも色々思うところがあるだろうから、
また今度にしような?クライドも、また今度で良いな?」
と、困ったような視線をこちらにむけてきたので
うわぁ~シーノさまって見た目お美しくて、
優しくて欠点ゼロだと思ってたけど
ネーミングセンスが残念すぎじゃね?
と思いながら、このままでは、
残念な族名をつけられると理解し
「そ、そうですね」
とエイトに同意した。
シーノは少し残念そうな顔をしたが
「そうですね、族名はまた今度にしましょう。
何事も急はよくありませんものね」
と笑顔で答えた。
急がよくないんじゃなくて、シーノのネーミングセンスが
良くないわけですが。
「ということで、先ほども話したがクライド、
お前はシーノの付き人という形になる。
良いな。では、後はシーノにまかせたぞ」
と言いエイトは部屋を後にした。
ニコニコと笑うシーノと部屋に二人きりということで
ドキドキしていたがすぐにドアがガチャリとあいた。
なんだよシーノさまと二人きりを邪魔すんなよ、
空気読めよ。と思いながらドアのほうへ目をやると
そこには色黒で耳がとがっている
クロノスの知識で考えればダークエルフであろう
一人の色黒な女性が立っていた。
シーノとはちょっと違うが
こちらはこちらで美しい女性ではある。
シーノが薄幸の美というイメージなら、こちらは健康美
というイメージであろうか。
シーノが儚げなら、こちらは天真爛漫という感じか。
ともかく元気そうなダークエルフが部屋に入ってくるなり
「おいーっす」
と色気もくそもない挨拶をした後クライドのほうを見て
「お、こいつが新しい骨っすか?」
とシーノに問う。
「そうです。クライドといいます。」
シーノは、クライドのほうへ向き
ダークエルフの女性を紹介する。
「クライド、こちらの女性はボニー。ダークエルフです。
あなたのこれから過ごす部屋の手配や諸々の教育を
やっていただきます。いわばあなたの直属の上司
といったところでしょうか」
ダークエルフのお嬢ちゃんが、上司て
まぁブラック上司よりはましかなとか考えてると
「ボニーは見た目はとっても若々しいですが
私よりもずーっと年上なんですからね、
失礼のないようにね」
シーノとダークエルフのボニー、
見た目はどちらも変わらない
むしろシーノの方が若干年上な気がする。なのに、
ボニーのほうがずーーーーっと年上。
本来なら、女性に年齢なんか聞いちゃ
いけないんだろうけど、気になるからしょうがないよね
ってことで聞いてみた。
「あ、クライドといいます。よろしくお願いします。
ボニーさん。
ところでシーノさまより年上とのことですが、年齢は」
「おう、ボニーで良いよ。年齢はまだ150歳だ」
とニカッと笑った。
「ひゃ、ひゃくごじゅう?
うちの死んだばーちゃんよりも年上だ」
見た目の若さと"150歳だ"
という言葉のギャップに思わず考えたことをそのまま声に
出してしまった。
ボニーは驚きの意味を理解したのか、
ちょっと顔を赤らめて
「う、うるせーや、他の種族と違ってエルフは成長が
ゆっくりなんだ。あたしはまだ若い部類なんだよ」
「でも150年生きてますよね。
うちのばーちゃんよりも年上なので、
そういう目で見て良いですか」
「やめろぉ、やめろ、人をばーちゃんを見るような視線で
みるなぁ。だいたいおめーは骨で
年齢止まってんじゃねーか」
なんてやりとりをやっていると
「コラ、クライド、女性を年齢でからかうものでは
ありませんよ」
とシーノがくすくす笑いながら言い
「それではボニー、クライドへ案内を
よろしくお願いします。私は少し休みます」
と部屋から去っていった。
ボニーと二人になったので、クライドは
「ではボニーさん、よろしくお願いします」
と頭を下げた。
「なんだぃ、礼儀作法はちゃんとしてんだねー、
ボニーで良いよボニーで」
とボニーが感心したような顔をした。
社会人としては普通の対応なわけですが、
これで感心されるなら楽だわ。と思いながら
「それでは、ボニー。部屋への案内お願いできますか?」
なぜかボニーとは話やすく、屋敷の廊下を歩きながら
色々と疑問に思ってることを世間話のなかで
それとなく聞いてみた。
それによると
シーノは身体がやや弱いため、いたわること。
仕事はシーノの身の回りの世話や他のイコン族から
依頼される雑用をこなすこと。
食事や寝る場所はきちんと準備されてるから心配いらない。
エイトは、イコン族の一番上だからピリピリしてるが、
基本は良い人。
この屋敷でイコン族以外の種族は、
ボニーとクライドともう一人の3人だけ。
ボニーも、もう一人もシーノさまに
拾われて救われたとのこと。
最後に、
「おめーなかなかやるな」
という謎の評価をボニーからいただいたところで、
自分の部屋に着いた。
「じゃあ、明日からよろしくな!クライド」
とボニーが片手を挙げて、去っていった。
自分にあてがわれた部屋をざーっと見てみると、
先日宿泊した部屋よりはランクが落ちるが、普通の部屋だ。
収納もあるし、ベッドもある。不便さは何もない。
むしろ良い部屋じゃないかな。
ビジネスホテルのシングルルームに近い感じがする。
そもそも個人の荷物とか何もないしね。
部屋へ案内されて、明日からよろしくな!
と言われたから自由時間なわけですが、ズバリ、暇です。
暇とかすごい久々だと、ふと気がつき
うれしくなったクライドは、部屋から庭先に出た。
庭はそれほど広くないものの手入れが行き届いていて、
気持が良い。
なんとなく庭に立ってぼーっと眺めていると、庭の端から
シャッシャッと音がする。
音のするほうへ目をやると白い何かが動いていた。
よーく見ると白い人だ。もっとよーく見ると、
どうやら箒で庭を掃除しているようだ。
どうみてもイコン族ではない。
もしかして、あれが、ボニーが言っていた
もう一人だろうか?
この屋敷でイコン族ではないのは、
ボニーと自分ともう一人の3人らしいから、
クライドは、挨拶しておくべきかと近づいて行った。
掃除をしている人に
「すいません」
と声をかける。
「ハイ、なんだべ?」
訛りにも驚いたが、振り返った人は骸骨だった。
そうスケルトンだ。
振り返ったスケルトンは、クライドの姿を見るなり、
「ハリャ、骨だべさ」
と驚いた。
おめーも骨だよという言葉を飲み込みつつ
「これからシーノさまに
お仕えすることになったクライドです」
というと、訛ったスケルトンは、
「あー、ボヌーが言ってた、もう一人の仲間って
オメのことだか!」
と、掃除する手を止めて、握手してきた。
「どんも、クライドさ、おらスケベイというだ。
シーノさまに拾ってもらっただ」
ん?名前なんて言った?
「あ、あのお名前をもう一度教えていただけますか?」
「ん?聞こえなかっただか、おら、スケベイ。
す・け・べ・い。という名前だ」
スケベイて・・・
なぁスケベイしようや、、、ってやかましいわ!!
なんじゃこの名前。
「おら、記憶が無いでよ。
家族もいなけりゃ名前もなくて、途方にくれてたとこで
シーノさまがオラを拾ってくれただよ。
そいで、スケベイなんて素敵な名前もつけくださっただ。
ありがてーことだ」
あーシーノさまの仕業ね、なっとく。
にしても素敵なおなまえて。。。
ただ、一つ気になることがある。記憶が無いっていったな
もしかして、こいつも転生してきたんじゃないか?
と気になったクライドはちょっと探ってみることにした。
「スケベイさん、スケルトンになる前って何してたの?」
スケベイは不思議そうな表情を浮かべて答える。
「スケルトンの前?知らねだ、気が付いたら
この姿だったんだ。
その前はもしかしたらどこかの村人だったのかもしれねな、
わがんねーよ。
クライドさは、骨になる前の記憶があるだか?」
「いや、自分もスケルトンになる前の記憶は無いので、
誰かそういうのあるのかなーと思って」
と答えると
「おー、クライドさも記憶無い骨だか!同じだやね、
シーノさまにつかえてる者としても
記憶無いスケルトンとしてもオラが先輩だべか?
クライドさ、なんでも気軽に相談してけれ」
なんでコイツ自分のことは、スケルトンって言うくせに
俺のことは骨呼ばわりすんだよと思いつつ、
まぁ上司のボニーに先輩のスケベイは
頼りないけど今のところ悪い感じはしないから
色々とこの二人に聞くか、
本当に何にもわかんないからなー。
ということで
「スケベイさん、よろしくお願いします」
ともう一度握手した。
「んだ、よろすくだ。オラまだ庭の掃除が残ってるだから、
また後でボヌーと3人で」
よろしくお願いしますねと再び挨拶を交わし、
クライドは自分の部屋に戻った。
ボニーとスケベイをちょっと頼りないな
と思ってるクライドだが
これから何度も何度もこの二人に自分が救われることを
クライドは、まだ知らない。
たよりないなかまがふえるよやったね