希ボーン
しゅじんこうおいてけぼり
翌朝。
クライドは、昨日と同じ客間へと連れていかれた。
客間では、既にエイトとシーノの二人が座って待っており、
「おはよう。よく眠れたかね。
まぁこちらにきて掛けなさい」
昨日とは、なんだか対応がちょっと違う気がして
気持ち悪くなったクライドは、そろそろとソファーに座り
そろそろとエイトとシーノを見る。
エイトは昨日よりも若干穏やかな表情をしている。
シーノさまは相変わらずお美しい。
エイトが再び口を開く。
「いや、昨日は乱暴な対応になってすまなかった。
まずは、命の恩人である君にお礼を言わねばな。
妹の命を救っていただき、感謝する」
頭をすっと下げるエイトにびっくりしたクライドは
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
と恐縮してしまった。
「昨日の襲撃でわかったと思うが、
今我々は非常にピリピリしていてな。
シーノが嫁入りするのだが、それでな。」
嫁入りと襲撃が何の関係があるのか
さっぱりわからないクライドが
「なんで嫁入りと襲撃?」
と首をかしげると、シーノが説明をしてくれた。
「嫁入りというのは、勢力を拡大する手段の一つです。
私たちは魔王様の元一つになっているといっても
勢力の小競り合いは絶えません。
私たちの一族も小さいとはいえ、
敵対勢力がいくつか存在します。
ゆえに私たちの勢力が拡大することが
都合が悪いという者達も存在するのです。
したがって私の嫁入りを妨害しようとする者がいる
可能性があるのです」
で、昨日の襲撃とタイミング良く表れた自分が
敵対勢力のスパイか何かだと勘違いされた、ということか。
とクライドは納得した。
「それでだ、君が、敵対勢力の者ではないというのを
信じたいのだが、どうしても
疑いを拭い去ることはできんのだ。
あまりにもタイミングが良すぎるとは思わんかね?」
確かに、そうだ。
自分がエイトの立場だったら猛烈に怪しむ。
「それで、一つ提案なんだが、
魔法による身体検査をさせてもらえないか?
もし君が、敵対勢力の者ではないというのがわかれば
我々は命の恩人である君を歓迎する用意がある。
記憶が無いということは行く当てが無いのだろう?」
たしかに、エイトの言うとおり、自分は行く当てがない。
しかも弱い。
あてもなくふらつけば、冒険者や魔物に狩られるだろう。
今回はたまたま命がつながったが、
話が全然通じない相手と遭遇して、そのまま殺される
なんてことは簡単に想像できる。
生き延びるためにここでイコン族の庇護下に入るのも
悪い選択ではない。
(シーノさまもいるし。嫁入りする話は残念だけれども。)
と考えていると
「もちろん、いきなり私のもとに来ると
不安があるだろうからしばらくは
シーノに仕えることになるが、そちらのほうが・・・」
「はい、ぜひ」
"シーノに仕えることに"のあたりで
食い気味にクライドは返答した。
「・・・そうか、ならば身体検査をさせてもらうよ。
おい、誰か!」
エイトが声を発すると、扉ががちゃりと開き、
イコン族の男がやってきた。
そして、無言でクライドの腕をぐいっとつかむと
連行するように立たせつれていく。
部屋に静寂が訪れるとシーノは、エイトに話しかけた。
「兄上、
今日はクライドに気持ちが悪いくらい友好的ですね。
あんまり変わると逆に怪しまれるかもしれませんよ?」
と笑いながら言うと
「お前が弟のようだ。なんて言うものだから、
俺までそう思えてきてしまってな。
それに恨みを買って、ハイアンデットになったころ
復讐されちゃかなわんよ。
お前は、あいつに好かれてるようだから大丈夫だろうがな」
と苦笑した。
きれいなおねーさんにつかえることになりました