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骨あしらい

「ふん、フン、フン、ふ~ん」


鼻歌を歌いながら、陽気に道を歩く

凡庸な顔の男。


そう。

この物語の主人公クライドが

魔法のアイテムで人間に擬態した姿である。


行先はザンビエの街。


前回、エイトからもらった紹介状を手に

ケイ・ウラーの屋敷へ向かっている。



ザンビエの街。

商人連合が支配する地方の中心地だ。

首都といったところか。


街の活気はクライドがこれまで見た

街のどこよりも活気にあふれており

巨大な建物が立ち並んでいる。

その活気や建物に多くの人は圧倒され

雰囲気に飲まれる。



クライドも、ザンビエの街の大きさや

人の多さに圧倒されかけたが


あ、現代の都会のほうがもっと人の密度多いわ

と思い、気にならなくなり

冷静に目的地であるケイ・ウラーの屋敷を

集中して探すことができた。






ケイ・ウラーの屋敷。

街の人に聞けばすぐわかった。


街の中心からちょっと外れたところに立つ

ひときわ大きな建物が

ケイ・ウラーの屋敷兼本店

ウラー商会。



店は扉が開かれ容易に立ち入ることができる。


クライドはおもむろに店の中に入り

「すいませーん」

と声をかける。



「ヘイ、なんでございましょ?」

店員らしき男が出てきたので


「私クライドと申します。

イコンの紹介で参りました。

ケイ・ウラーさんはいらっしゃいますか?」


とたずねる。

怪訝そうな顔をした店員が首をかしげながら

「少々お待ちを」

と言い奥へ下がる。



しばらく待っていると

先ほどの店員より偉いと思われる人物が出てきて

クライドへ声をかける。

「ご用件は何でございまひょ?」


はりつけたような笑顔で目を細めているが

あきらかに警戒しているのが

クライドにはわかる。


「あ、ケイ・ウラーさんですか?」


そうクライドが言うと目の前の男の表情が

あきらかに侮蔑の色へと変わる

「すんまへん、わてはケイではありまへん。

ウラー商会本店でバントーを務めさていただいてる者だす」


どうやらこの店の責任者代理のようだ。


「あ、すいません。イコンの紹介でやってきたのですが

ケイ・ウラーさんいらっしゃいますか?」

と言うと


バントーの男は

「最近はウチのケイと知り合いだって勝手に言って

悪だくみする輩が絶えんのですわ。

おたくが、その手の輩じゃないという証拠はありまっか?」


顔に笑みを浮かべているがあきらかに

敵対心を持った姿勢だ。



まぁ、そうだよなとクライドは

イコンからの紹介状を見せようと

懐から手紙を出した瞬間

バントーの男はひったくるようにその紹介状をとると

じめじめと嘗め回すように

手紙とクライドを見ながら

「ほーん、本当にイコン族の紹介のようでんなー

せやけど、意味ありまへんな」


と、いきなり紹介状をこちらへ投げ返してきた。


不思議なもので

あまりに突然、あまりに堂々と無礼を働かれると

怒りより驚きが勝つらしく

クライドは驚いた表情のまま何もできなかった。


「そら先々代、はるか昔はウチとイコンさんと

色々縁あったみたいでっけど

最近はとんと疎遠でね。ウチが苦しんでるときに

そっぽ向いといて、ウチが力つけたからって

今更おこぼれをもらいにこられてもねぇ」


バントーの男はクライドの前に顔を突き出し

「ちゃいまっか?

わて、何か間違ったこと言うてまっか?」


クライドが驚きで何も返せずにいると

バントーの男は、フンと鼻を鳴らし

店の奥に向かって

「おーい、お客様お帰りや、塩撒いたれ!」







クライドは

ザンビエの街、ウラーの屋敷からイコンの屋敷へ

戻り、イコン族当主エイトと会談を行っていた。


「そうか、ダメだったか・・・」


「ダメとかそういうレベルじゃなくって

門前払いでした。ちょっとイラっとしました。

っていうかもう行きたくねーっす」


クライドは正直驚いていた。

何が驚いたって、商人の街と聞いていたから。


商人ならば、商売の可能性が少しでもあると

思える相手、己に利益をもたらす可能性が

ある相手ならば、それがどんな相手であれ

いつかお客さんになると言い聞かせ邪険には扱わない。

そんな対応すると思っていたからだ。


ましてや以前取引があった相手。

もっと言えば魔王軍の情報機関だ。

話を聞くだけ聞いても損は無い相手だと

ウラー側が考えるであろうと

自負していた。


だが甘かった。


それだけでは、旨味がある相手だと思われなかったか?

それとも、以前の付き合いで余程のトラブルがあったか?

それとも、別の理由?



ふとクライドは疑問を持ち

エイトに尋ねてみる。



「そもそも昔付き合いがあったって

どんなつきあいだったんですか?」



「ウラー家から特定の地域の特定産物相場を知りたい

と言われ、それを教えていた。

ずいぶん昔からだ」


「へぇーなかなかめんどくさいことやってたんですねー」

とクライドが感心した声をあげると



「いや、これくらいは我々イコンにとっては

めんどくさくも、難しくもないよ」

とエイトが優し気に微笑む。



「そんなに大変じゃないんだ。

じゃあ何で取引やめたんですか?

金額が割に合わなかったから?

競合にもっていかれたから?

それともウラー側を怒らせた?」



「ウラー家の先々代くらいだろうか

急に連絡を取ってこなくなったのだ。

依頼が途絶えたのだ。

それ以来疎遠になった」


「何か理由があったんですか?」


「それはわからん。

我々はウラー家との取引が特に嫌だということは

なかったが、ウラー側に何か事情があったのかな。

詳しくは知らん」


「知らん?」



「相手のことだ事情は知らん。

それからほどなくウラー家は一時期没落したのだが

現当主ケイ・ウラーになって5代表組合長の一人に

なれるくらいもりかえしたわけだ。

・・・そうか昔の縁は通用しなかったか」



クライドはさっきから気になって気になって

仕方がないことを思わず口にした。

「ちょっと待ってエイトさん。

今日もだけど、この前から気になってたんですけど

イコン族って情報で収入を得てますよね?

魔王軍最強の情報機関。

つまりこの世界最強の情報機関ですよね?」



エイトはちょっと照れたような困ったような表情を浮かべ

「まぁ、我々に匹敵する情報屋はいないと思うが

・・・たかが情報屋だよ。何の力もない。

そこで最強と言われてもな・・・ハハハ」

と力無く笑った。



なんてこった。

この世界の住人は情報の重要性がわかってないと

思ってたけど

その情報を取り扱う張本人すらも自分達の価値を

理解してないなんて!



クライドはエイトに顔をズイッと近づけて

「エイトさん、聞いて良いっすか?

っていうか聞きますね。

なんで、いっつも、いーーーーっつも

受け身なんすか?」


「受け身?」


「そう!受け身。

依頼があるから答えてるだけでしょ?

なんでウラー家から依頼を絶ったか調べないんですか?

なんでウラー家が没落したか、その後持ち直したか

調べないんですか?

なんで常日頃から情報集めないんですか?

なんでその集めた情報を分析して

必要としていると思われる奴らに

こっちから売り込みにいかないんですか?

軍事系の情報は日々集めてるかもしれませんけど

それも魔王軍からの依頼がそれ系だからでしょ?

ほとんどが依頼されてはじめて情報収集してる。

日々いつ誰に何を依頼されても良いように

あらゆる方面から情報を収集せなあきませやん

どんな小さな情報も膨大に集まれば大きな価値が

出るんでしょ?エイトさん俺に教えてくれましたやん!」



クライドの勢いの押されエイトが少々のけぞるが

構わずクライドは続ける。


「軍事機密なんかはそりゃ中々売りにくいでしょう

敵対する双方に売れば死の商人なんて言われて信頼なくすでしょう。

けど

それこそウラー家に売ってた情報なんか

ウラー家が欲しがる地域、産物の相場情報だけじゃなくて

全国の産物の相場を集めて売り込めば

ウラー家だけじゃなく

商人なら誰だってよだれ垂らして欲しがるでしょう?

もっと言いましょうか?

もし仮に全国の産物相場情報を誰も欲しがらなかったとしても

その相場情報を利用して

自分達で売買すりゃ収入になるっしょ?

自分達で売買するのが面倒なら

ウラー家に情報を渡してさらに

指定する取引を代行してくれ、その儲けを

わけあおうって言えば嫌とは言わないっしょ?」



少々のけぞっていたエイトであったが

クライドの話を聞くにつれ次第に前のめりになっていく。



現代人であるクライドにとっては特に珍しくもない

知識、事例であるがエイトにとっては驚くべき事柄のようだ。



エイトの顔がパッと明るくなる。

「そうか諜報活動と思い込んでいたから

取引先は魔王軍や国家など軍事系ばかりに気がむいてた。

そうだ

ザンビエと商取引に関する情報をやれば良いのか!」


さすが長年諜報にかかわってるだけあって

クライドの話を素早く理解した。


そしてエイトは一流の当主である。

思い立てば行動は素早い。


「よしクライド!一つたのまれてくれ!

ウラー家にもう一度行ってくれ。

これから大急ぎで産物の相場を調べリストを作る。

そして

お前が今言った取引を契約してきてくれ!

ウラー家とつながりを取り戻し

そしてイコン族の財政状況を好転させる。

ついでに

お前の顔つなぎにもなる。

誰も損しない!クライドいってくれ!」




ゲッ!!

無責任に軍師気取りで、したり顔アドバイスという名の

妄想をたれ流したら

自分がやらなきゃいけなくなったでござる。


めんどくせー。

あの嫌味タラタラおじさんのトコ行きたくねー。



ものすごく気が進まないけれど

エイトがあまりにもキラキラした瞳で見つめてくるし


イコンが助かるわ、任務がこなせそうだし

シーノさまも喜んでくれるだろうし。


ということで、仕方なく再びウラー家へ向かうことにした。



まぁ今回はかなりの美味しい話を持っていくから

商人なら反応するでしょう。



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