命短し恋せよお骨
シーノの部屋の前。
クライドは扉の前で、しばらく立っている。
政略結婚とはいえ、シーノさまは夫を失った。
結婚生活が幸せだったのか、そうでなかったのか
それはわからない。
けれど、夫を失ったのは事実だ。
直接とは言い切れないかもしれないが
その原因は自分にもある。
俺がベルザ・アークの策を見抜けずに
任務失敗したからだ。
シーノさまに会えると思って
浮足立って部屋の前に来たものの
どういう顔をすれば良いのだろうか。
なんて声かければ良いのだろうか。
明るい顔すれば良いのだろうか?
お悔やみ申し上げれば良いのだろうか?
それともシーノさまに
考える暇をあたえず
しゃべりまくれば良いのだろうか?
考えがまとまらぬままドア越しに声をかける。
「シーノさま、クライドです。
帰還いたしました」
部屋の中からガタリと大きな音が立つ。
「クライド?クライドですか!
遠慮せずおはいりなさい!」
懐かしい、優しい声。
シーノの声だ。
その声を聞くと今まで迷っていたのが嘘のように
クライドは扉を開けた。
失礼しますと部屋に入ると
クライドの視界に、シーノの姿が飛び込んできた。
そしてシーノの隣には顔を頭巾で覆った男がいる。
シーノさま相変わらずお美しい。
肌の白さが以前にも増して
美しさに磨きがかかっている。
神秘的というか薄幸の美女というか。
あ?薄幸って何だよ。幸薄いってダメだよ。
シーノさまは幸あれだよ。
ていうかエイトさん、不在じゃないのかよ。
変な頭巾なんかかぶって街の流行りのファッションかね?
いろんな感情が渦巻き黙っているクライドに
シーノが声をかける。
「本当に、本当に久しぶりですね。クライド」
嬉しそうなシーノさまの顔を見てると
なんか涙が出そうなで照れくさいので
べらべらしゃべってごまかすことにした。
「いやーシーノさま、相変わらず
お美しくてうれしいです。俺、シ
ーノさまに言われて何とか魔王軍
に入ろうと色々頑張ったんですが
結局だめでした。あ、でも無駄に
過ごしたわけじゃありませんよ。
パックスっていう変わった集団に
お世話になりました。あ、ワズム
爺さんトコの若いのともちょっと
一緒にお仕事しましたよ。パック
スでは、色々と経験させてもらい
ました。パックスの大将シックス
っていうんですけど、髭もじゃで
ねぇ~。髭もじゃで豪快なくせに
けちくせーのなんのって・・・」
シーノは微笑み、時折うなずきながら
クライドの話を聞く。
やがてシーノの瞳に光る物が見えた。
と思ったら
シーノもべらべらと喋り始めた。
クライドと同じ理由で。
「クライド、本当に久しぶりですね。
私も色々ありましたよ。嫁いだ先の夫
が戦いで亡くなってしまい、イコンの
家に帰されましたさみしさや悲しさも
ありましたが、前の夫は魔王親衛隊で
したから魔王様がお悔やみに訪れてい
ただきました。それがきっかけで魔王
様の情愛をいただくことができました。
あ、こちらが魔王様ですよ。悲しいこ
ともたくさんありましたが、今考える
と楽しいこともたくさんあった気がし
ます。前の夫には感謝しています。そ
してイコンの屋敷に戻ってきて、皆の
暖かさにも感謝しています。そんな折、
ふとクライドのことを思い出していた
んです。あの子どうしているかな?元
気にしてるかな?って、それが私にと
って悲しみを癒す励みの一つになって
いたんですよ。そうしたらクライドと
こうやって再び会えました」
「おかえりなさい、クライド」
シーノがふわりと優しい笑顔をクライドへ向ける。
「シーノさま、、、クライド、ただいま戻りました・・・」
・
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ん?
シーノさま、今サラッと何か
とんでもねーこと言った気がする。
クライドは視線をゆっくりと頭巾の男へ移す。
猛烈な威圧感を感じる。
この威圧感
何で今まで気が付かなかったんでしょー。
シーノが頭巾の男のほうを向き
「魔王様、申し遅れました。
こちらがクライド・スケルター。
これまで何度かお話していた者です」
や、やっぱり
今魔王様って言った、サラッと言いやがった。。。
頭巾の男がジロリと視線をクライドへ向ける
ぎぃええぇぇぇぇぇぇ
「し、失礼いたしましたーーー」
思わず頭を床にこすりつけてしまう。
「良い、骨!シーノから話は聞いておる
お主、イコン族、ナグル族、
そして今の話からすると
パックスにおったそうだな?」
魔王と言うからには威厳のある
低い声を想像していたが
想像と違い、少し甲高い声で魔王が
クライドへ声をかける。
「は、はいいいいい」
強大な力を持つ魔王軍4軍団長が
恐怖で萎縮するクラスの威圧感だ。
クライドはひれふしたまま
頭を全然挙げられず、身動き一つ
できないでいる。
「骨!魔王軍に入りたいというのは嘘偽りないか?」
「は、はいいいい、
入ろうと思いましたが
全然かすりもしませんでしたぁぁぁぁ」
「ふん!骨、
今私には安心して我が庭を任せられる者がおらん。
御庭番、するか?」
シーノが顔をしかめ魔王に抗議する。
「そんな、お庭番、雑用なんて!
クライドは軍団を率いる大将にいつかは・・・」
一瞬魔王の目元が歪んだ気がしたが
その瞬間
シーノの声を遮るように
クライドが気合いの入った声を出す。
「かしこまりました!!クライド・スケルター
謹んで魔王様の御庭番務めさせていただきます!!」
何のためにイコンの屋敷に戻ってきたかって
それはシーノさまの幸せのためだ。
せっかく魔王様に気に入られて幸せなシーノさまだ。
俺のことなんかで魔王様の不興を買う必要はない。
そう思っての返答だ。
それに
お庭番、文字通りの意味ならば庭を掃除したり
手入れをする雑用的な役割。
この屋敷で言えば、スケベイみたいな役割だ。
だが、時代劇なんか見てれば御庭番というのは
その国の諜報部隊の隠語だ。
魔王様は、さっきイコン族、ナグル族の名前を出した。
両種族とも非公式とは言え魔王直属の諜報部隊だ。
そしてパックスの存在も知ってらした。
パックスは諜報、破壊活動を行う部隊だ。
それらの名前をあえて挙げての御庭番。
つまり専属の諜報員のお誘いだと計算しての返事だ。
でもなー・・・。
もしガチでただの雑用係のお誘いだったらどうしよう。
それだったら
こそっとスケベイと入れ替わるか?
同じスケルトンだし、ばれねーべ。
なんて考えていると、魔王の思惑が
次の言葉で
クライドの想像通りであることを確信する。
「ふん!勘所は良いな、骨!
だが文字通りのお庭番もさせるからな」
頭巾の下の目がいたずらっ子のようにニヤリと笑った。
クライド the スケルター、ここに念願の魔王軍入りとなる。
役務は、
お庭番(雑用係)兼、御庭番(諜報員)。
■
イコン族屋敷、門前。
「魔王様が居るって何で言わなかったんだよー」
クライドがボニーを軽くなじる。
「だって聞かれなかったし
教える前にクライド、さっさと行っちゃうから」
「聞かれなかったから言わなかったって
子供か!?
お前150歳だろ!おばあちゃんじゃねーか」
「うるさいうるさい、
おばーちゃんとか言うな!言うな!
知ってると思ってたんだよう!」
「シラネーヨ。だいたい
どこの世界に
故郷に帰ってきたら姉的な人物が魔王の側室になっていた
ってどこぞの小説のタイトルみたいな
想像できる奴がいるんだよ?いねーよ」
「そんなこと言われたって
本当の話なんだからしょうがないじゃないかよぅ」
「おかげさまで額を床に擦り付け過ぎて
穴があきそうです」
「魔王様ってそんなに恐ろしいだべか?」
「なんだ、スケベイ魔王様にあったことないのかよ?」
「んだ、魔王様はいっつもお忍びで来るから
おら達は直接お会いすることはねーべ」
「へぇーー」
クライドはニヤリと笑いスケベイへ語りかける。
「すげー怖いよ。
全身の骨にひびが入るオーラ放射してるよ。
俺は鍛えてたからひび入らなかったけど
スケベイならまずいな・・・」
「ひ、ひえぇぇぇぇ」
スケベイは頭を抱えて屋敷の奥に逃げ込んでいった。
「ちょっとぉ、スケベイおどして嘘ばっかり
ついてんじゃないよぅ」
「フヒヒヒ」




