逃ボーン
つれてかれました
厳重な警戒体制。
イコン族の一行に連れていかれることになった冬二だが
この行列に対する印象は、これであった。
警戒の対象は冬二ではない。(むしろ冬二の扱いは雑だ)
そうではなく移動そのものに
猛烈な警戒をしているのである。
この世界の移動ってこんなに警戒しなきゃいけないの?
というレベルで。
確かに森の奥深くや、ダンジョン、敵地を移動する際は
先頭に偵察系スキルを持った者を立たせ
警戒しながら移動する。
最もこれはクロノスゲームプレイヤーの話ではあるが
しかし、ここは見晴らしの良い街道だ。
それほど警戒する必要があるのだろうか?
どれくらい厳戒態勢で移動したであろうか、
この疑問は最悪の形で解消される。
厳重な警戒態勢ですすむ一行の前にフードをかぶった男が
ふらりと立ちふさがる。
深くフードをかぶっているため、その表情は見えないが
フードの端から見える口元は、真っ青だ。
比喩として真っ青ではなく、本当に青い。
人間ではない。そして危険だ。
冬二の脳内で警報がガンガンと鳴り響く。
逃げろ、今すぐ逃げろと。
しかし拘束されている冬二は、その場から
逃げることができない。
やがてフードの男が両手を高々と上げると
その両手の間の空間が円形にぐにゃりとゆがむ。
その空間から無数の武装した冒険者達が現れ
イコン族へ襲い掛かる。
転移通門。
人や物を一瞬で転送させる、極めて高レベルな魔法だ。
「やはり、来たぞ!行け!!」
馬上の男が周囲のイコン族の者達へと指示をする。
イコン族の者達もすぐさま応戦し、冒険者たちへと
突撃する。
キンッキンッという金属音やドカドカという足音、
そして男達の咆哮が聞こえる。
イコン族と冒険者たちの争いは、
シーノの馬車や冬二達から離れていく。
馬車の周囲は、冬二とわずかばかりのイコン族を
残すだけとなった。
先ほどのフードの男はいつの間にかいなくなっている。
「戦況は?」
馬車からシーノの声が聞こえる。
戦況は互角、ややイコン族が有利
といったところであろうか。
「手はず通り馬車から遠ざかっております」
「そうではありません!、兄達の戦況です!」
「ほぼ互角、ややイコン族が有利に見えます」
と冬二が返答すると
「まぁ、骨さん、ありがとう」
と馬車から優しい声が聞こえる。
「キサマ!誰がシーノ様に話しかけて良いといった!!」
イコン族の男が冬二にむかって罵声を浴びせる。
「そもそも、キサマが奴らを招き入れたのではないのか?」
イコン族の男が冬二の胸倉をつかみあげる。
強い力で胸倉をつかまれ冬二は苦しくなり
「う、うっ」
としか声が出せない。
「よしなさい」
と馬車の中から声が聞こえるか聞こえないかくらいで
胸倉をつかんだ手から急激に力が抜ける。
冬二は、地面に放り出される形で尻もちをついてしまった。
なんだよ乱暴な、と思いイコン族の男を見上げると
頭から血を流し白目をむいた男が冬二の横に
ドサッと音を立てて倒れた。
「ひぇっ」
と馬車のほうへ後ずさりする冬二。
倒れたイコン族の後ろには、
先ほどのフードの男が立っていた。
「「「おのれっ」」」
馬車の周辺に残っていたイコン族の者が
フードの男に切りかかる。
だがフードの男が、片手をかざし、
ボソボソと何かをつぶやくと
その手から無数の光の矢がイコン族へと飛んでいく。
魔法光矢
使い手のレベルに合わせた本数の魔法の矢を飛ばす
攻撃魔法だ。
魔法の矢の数は、ざっと20本は超える。
切りかかったイコン族の者達は、次々と
魔法の矢に貫かれ倒れていく。
20本を超える矢、先ほどの転移魔法。
高レベルな魔法の使い手だ。
クロノスゲームで判断するならば、
冬二の実力なら瞬殺される。
完全に腰が抜けた冬二は馬車にすがりつく。
そんな冬二へ(正確には馬車へ)
フードの男がゆっくりと近づいてくる。
大半のイコン族は、遠くで別の冒険者たちと争っており
こちらに気が付く気配は無い。
いや、気が付いて駆け付けたところで、
フードの男に瞬殺されるだけだろう。
「く、くるな、来るな!こっちへ来るなーーーー」
冬二が泣き叫ぶ。
「邪魔だ」
フードの男が、軽く手を払うと
ぐじゃっという音が聞こえるかのように、
冬二の骨の身体が吹っ飛ぶ。
「おとなしく言うことを聞いておけばよかったものを」
フードの男がシーノの馬車へとゆっくり近づく。
シーノを守る者は誰もいない。
フードの男が口元に嫌な笑いを浮かべ
「役立たずばっかりだったな」
役立たず?
倒れている冬二は猛烈な頭痛に襲われフラッシュバックが
起きる。
会社員時代のことだ。
冬二は、数人の同僚と並んで立っている。
みなうつむき加減だ。
立っているというよりは立たされている
という表現のほうが的確か。
一列に並んでいる冬二と同僚たちの前をガタイの大きな男
カツシマが何度も行き来する。
「無能ばかりの集まりだな!」
「全く仕事ができない、給料泥棒や!お前ら!」
「なんでこの俺がお前らごときのために
上から怒られなきゃいけねーんだ?あぁ?」
そして最後に吐き捨てる。
「この役立たずどもが!」
「ダレガ、誰が役立たずだ?ミンナ、みんな必死なんだよ
オマエガ、お前が誰かを役立たずなんて
言える権利があるのか?」
ゆらりと立ち上がる冬二。
スケルトンである冬二の眼窩は空洞なのだが、
そこに赤黒い暗い炎のようなゆらめきが宿る。
「言ってみろーーー!!!」
そこで冬二の意識はプツリと途切れる。
あおい人がやってきました