表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/114

絶ボーン

はじまりです

「悪魔長クライド様のご到着です!」

門番らしき者が城の広間にかけこみ

中にいるたくさんの者達へ声をかける。


禍々しい瘴気を感じさせる城、フィリウォード城。

―悪魔長クライドと呼ばれた者の居城―


その広間の一段高いところに、これまた

禍々しい装飾がほどこされた椅子―玉座―がある。



謁見の間だろうか。

かけこんできた門番らしき者、

よくみれば鎧をつけた骸骨(スケルトン)だ。


さらに声をかけられた広間にいるたくさんの者達。


ドラゴンのような容姿の集団、ヴァンパイヤや

ローブをまとったスケルトン(リッチか?)など

アンデット達、ダークエルフやゴブリン、オーク等の

亜人と呼ばれる者達。


それ以外にも無数のいわゆる魔物(モンスター)と呼ばれる

異形の者達が口々に何かを言いあい、ざわざわと

謁見の間にひしめいていた。



「悪魔長クライド様ご到着!」


再度声が聞こえると謁見の間の巨大な扉がガコーンと音を

立てて開く。


フロアにひしめいていた魔物達は一斉に扉のほうを見る。


そこには、全身真っ黒でその境目が赤く脈打つ不気味な鎧を

身にまとい、真っ赤なマントをひるがえした

一人の人物が立っていた。


これが、クライドと呼ばれた者か。



フルフェイスの兜をかぶっているため

その表情はわからないが、ゆっくりとフロアを見渡し、

一つうなずくと魔物達のど真ん中を通り玉座へ向かい

ゆっくりと歩き出す。


あれほどざわついていた魔物達は、シーンと静まり返り

クライドが通過すると道を作るために真っ二つに

割れていった。


ゆっくりと、ゆっくりと魔物達の間を歩き、玉座に

到着したクライドはマントを翻し玉座に座る。


広間をゆっくりと見渡し

全ての魔物達が自分に注目していることを確認してから

鷹揚に片手を挙げる。


魔物達は、一斉に首を垂れ、クライドに傅く。


その様子を満足げに見つめたクライドは

玉座に深く身をゆだね、心の中で一人つぶやく。


「サウロ様、シーノさま。

お二人のおかげで私はここまでくることができました。

やっと、やっとここに」


その感情は喜びなのか、安堵なのか。



しかし即座に玉座から身体を起こし再び心の中でつぶやく。


「いや、まだだ、まだこれからだ。腹をくくらなければ

ならん。あのころと同じように」


「そう、あのころだって腹をくくらなければ

生きていけなかった。そして、それは今も変わらん」



全身に殺気をみなぎらせたクライドはおもむろに

玉座から立ち上がり魔物達に声をかける。



「・・・・・・・」











「クロノス幻想譚」ネットRPGゲームだ。

革新的システムを導入し人々を究極にひきつけ、

中毒になるものが続出し・・・・。


などという素晴らしいゲームではない。


一言で言えばクソゲーだ。



プレイヤーは様々なアイテム、クラスやスキルを取得。

それらをレベルアップさせ自分を強化させる。

そして魔王軍団と戦い世界を救う。



ありがちで凡庸なゲームだ。



ただ、このゲーム、ごく一部ではあるが異常なほど

ハマる人々がいた。


ハマる理由はゲームのシナリオやシステムではない。

(これらもいたって凡庸だ)



そうではなく、このゲームにはまる理由。

それは敵側である魔王軍団の設定だ。


異常に凝っているのである。

階級や軍団、その昇進条件、組織の内部設定

福利厚生、派閥や力関係。


幹部達の性格や心の奥の考え方。

所持している武具、その武具をどのように手に入れたのか。

過去の魔王軍団はどのような構成で、どんなことが起きて、

今現在の魔王軍の構成になっているのかといった歴史など。


異常に凝った設定がゲームをプレイしていると

細切れになって垣間見えるのである。


もっとも魔王軍の異様に凝った設定はゲームの攻略に

関して一切何のメリットも影響もないのだが。



これらの設定に魅せられた一部のプレイヤー達が

ファンサイトを立ち上げ魔王軍団の考察や

設定の補完などを行いはじめそれを二次創作として楽しむ

という現象が起きていた。



そのため、このゲームにハマることが無かった

多くのプレイヤー達からは


製作者の一人よがりゲー。

オナゲー。

設定厨歓喜ゲー。


と呼ばれていた。



また、設定にはまったプレイヤー達からすらも


ゲームそのものはオマケ。

設定が本体でゲームは特典。


と言われる始末であった。






田中冬二。サラリーマン。

周囲からの暴力的なプレッシャーと激務と安月給で

毎日毎日くたくたになって深夜帰宅する。

いわゆるブラック企業に勤める

どこにでもいるサラリーマンだ。


彼の唯一の楽しみがこの「クロノス幻想譚」を

楽しむことであった。

もちろんゲームそのものではなく魔王軍の設定を。



「魔王軍は、見た目怖いけど手柄を立てれば立てただけ

出世するから現実より天国だよな。魔王軍なのに天国って

やかましいわ!www」


今日も仕事でくたくたになって深夜に

帰宅した冬二は日課となりつつある

クロノス幻想譚ファンサイト『魔王様を愛でるスレ』に

書き込みをしていた。


明日の朝も早いのだから、さっさと眠れば良いのに

ついクロノス幻想譚の世界に浸ってしまう。


家族も恋人も友人も誰もいない孤独な冬二にとって

クロノス幻想譚の世界はたった一つの心の安らぎに

なっていた。



いつも妄想する。



もし魔王軍に入れたなら・・・。


今みたいに理不尽でくそみたいな上司や同僚なんか

いないだろうからきっと頑張れるんだろうな。

そして出世して幹部になって魔王軍のモンスター達の

指揮をとるんだ。



いつものようにゲームのスイッチをいれぼんやりと

眠っているのか起きているのかわからないふわりとした

妄想の世界に入り込む。



もうクロノス幻想譚のことは隅々まで理解している。

そんな世界の中で生きる自分の姿を

いつものように妄想する。



厳しくも温かく部下を見守る魔王。


決して

「無理というのは怠け者の逃げ道なんです。

無理でもやればできるんです。

そしたらもうそれは無理じゃない。

無理とか言う人間は嘘つきなんです。

過労死?

人間は働かなければ生きている意味が無いんですよ」


とか意味不明なこと言わない。



魔王のために一致団結して魔王軍を躍進させる幹部の

4侯爵達。


決して

自分の私利私欲ためだけに他の侯爵をはめたり

嘘情報流したり足を引っ張ったりして部下達に

余計な仕事を増やしたりしない。



魔王に絶対忠誠を誓い

4侯爵達を支える数々の魔物達。


決して

「さっさとやれや」とか

「つかえねーなクソが」とか

「お前が全ての原因だろうが」とか

暴言吐いて殴ってきたりしない。



今の自分をとりまく現実が妄想に入ってきたあたりで

心臓のあたりがギュッと痛む。


嫌な気分だから文字通り心が痛くなるのだが

原因はそれだけじゃない。



朝早く仕事に出て、心身ともに消耗し深夜に帰宅。

家では睡眠時間を削ってゲームをやる。


ほとんど寝てない状態。

これがもう2週間くらい続いているだろうか。


そりゃ心臓も痛くなるさ。


でもやめられないんだクロノス幻想譚は、

たった一つの心のやすらぎだから。



次第に胸の痛みも薄れてきたので再びクロノス幻想譚の

妄想世界へと浸る。


が、深く妄想の世界に入り込みそうになった時

頭の中でフラッシュバックが起きる。





目の前にたつガタイのでかい男。


カツシマ


ラグビー部出身。冬二の職場の上司だ。


顔を真っ赤にして青筋をたて


「ぐだぐだ言わずにさっさとやれや!!」


と冬二の胸を拳でたたく


「オドレほんっっっまにつかえへんな!!」


「なんやその眼は?ワシのミスか?しばくど?

おー?こら?」


「びびるくらいやったら最初っから言うこと黙って

きいとけやザコが!おら、下向いてる場合ちゃうど?」


「暗いねん、マジで、お前暗いねん」



冬二は、イライラとした思いと胸にざわつきを

感じていたが、そのざわつきはすぐに激痛へと変わった。



苦しい。また心臓のあたりが痛む。

いつもならじっとしてれば治るはずだ、さっきも治った。

だが今回の痛みはなかなか治らない。

いつもより痛みも強い気がする。



冬二は、うぐっと悲鳴のように声を挙げてしまう。


どれだけ痛みが続いただろうか。

その痛みに、もう限界だ。と強く目をつぶった瞬間

フッと急激に痛みがなくなり身体が軽くなった気がした。









どれくら時間がたったのだろうか。

冬二は、草の匂いのようなものを感じて目を覚ました。


空が見える。

いつの間にか寝転がっていたようだ。


「もしかして意識を失っていた?」


と思い身体を起こす。



ここで信じられないことに気が付いた。

自分は外にいるのである。


さっきまで家の中でゲームをしていたはずなのに外にいる。


しかも30センチはあろうかという草むらだ。

冬二が住む地域は大都会ではないが、決して田舎でもない。

草むらがあるような場所なんか無い。


ここはどこだ?と一気に頭が混乱する。


目の前に石のブロックでできた道がある。

―街道と呼ばれるものか―


当たり前だが、冬二の世界の道路はアスファルトだ。

こんな石のブロックでできた街道なんか無い。



とその時、左のほうから複数の声が聞こえてきた。

冬二は、なぜか反射的に草むらの中に寝ころび

自分の姿を隠した。



息を殺し身体を伏せて草の間から街道をじっと見つめる。


しばらく様子をうかがっていると、左から

鎧を着た男

杖をつき長いローブのようなものをまとった男

フードをかぶった小柄な男が何かを話ながら通っていった。




草むらに伏せながら


「あの鎧よくできてんなー本物みたいだなー。

今日、コスプレのイベントか何かあったっけ?」


などと考えるのは混乱のせいか。現実逃避であろうか。



そんなことを考えていると自分の右肘をペロペロと

舐められる感触がある。

そちらに目をやると犬が一生懸命骨を舐めていた。


「あー、ワンちゃん骨好きだもんねー。

でもそれボクの肘だから。骨みたいだけど違うのよー」


と犬に声をかけ、気が付く。


自分の腕が骨になっている。


"骨のような"ではない。


真っ白な骨なのだ。


腕だけじゃない、手も骨だ。

おそるおそる骨になった手で自分の顔を触る・・・。


コツコツと音がする。

考えたくはないがおそらく骨だ。


服の上から身体を触ろうとして気が付いたが

服はボロボロの布のような服だ。


そして身体は深く考えるでもなく骨だ。

つまり自分は骨だけの姿になってしまったということ。


自分は死んでしまったのだろうか?

たしか骨になる直前心臓が痛かった。

死んで地獄に来てしまったのだろうか?

だとするならば、さっきの人間達は何者なのか?



冬二は、色んな考えを頭に巡らせながら何気なく周囲を

大きくみわたした。


空と草と街道と、遠くに何か集落?のようなものが

ぼんやりと見える気がする。



この風景どこかで?

どこだ?

冬二の頭の中に地獄に来たという説ではない

恐ろしいようなしかしどこかワクワクするような

甘美な一つの推測が頭をよぎる。




この風景に見覚えがある。

いや見覚えがあるとかそんなレベルじゃない。

間違えようがない。


毎日毎日夢に見た世界。





クロノス幻想譚の世界ではないだろうか?


ゲームの世界へ行きたい行きたい。と願い続けた結果

そうなったのではないか?



つまり、異世界に転生したのではないか?



もしそうならワクワクが止まらない。


現実世界に絶望的な嫌気を感じていた冬二にとって

現実の世界にはなんの未練もない。


むしろ異世界に転生したことで

あのクソみたいな世界にとはおさらば。

と考えるだけでもウキウキする。


もちろんそれだけじゃない。


以前、現代人が異世界に転生すると言う物語を

読んだことがある。



その物語はこうだ。


異世界に転生したダメ主人公は、神の力か何なのか

転生先でものすごく強い力を手に入れて

俺ツエーーーーーーーと世界を満喫する。

無敵なハーレムナイトだ。


異世界に転生したとてもダメな主人公。


自分にあてはめて考えてみる。


大丈夫だ条件はバッチリだ。俺は立派なダメ人間だ!


って誰がダメ人間じゃい。



ということは、俺ツエーーーなんだから、

ものすごく強い力を手に入れているということか。

自分の姿は骨。


クロノスの世界で言うならばアンデット。


骨のアンデットはいくつか存在するが人間型の骨ならば、

スケルトンだ。


スケルトンの強さは装備に依存する。


今自分の装備は?



ぼろい服だけ。



ぼろい服だけ着たスケルトンは

何も装備していないスケルトン。

単なる骨。一番弱いスケルトン。


通称まっぱスケルトン。


え?ということは、オレまっぱスケルトン?最弱の骨?


いやいやいや、まてまてまてまて

おかしいおかしいおかしい。


そんなはずはない。

俺は異世界転生主人公だ。強大な力を持ってるはずなんだ。


冷静に考えろ、冷静に。。。

装備が関係ない強い骨のアンデット。。。


冬二はクロノスの知識を総動員して考える。

強い装備をしていないが

強大な力を持つスケルトン。

そんな都合の良いモンスターがいたか?

いた!

リッチ!そうだリッチだ。


リッチ

不死を求めて己をアンデット化した高位の魔法使い。

最強の部類に入るモンスターだ。


魔法使いだから装備は関係ない。


たしかに、俺は肉体派じゃない。

どっちかというと頭脳担当じゃん。


そうか俺はリッチに転生して強大な魔力を行使するんだ。

そして魔王軍でバンバン出世する

というサクセスストーリーが待ってるわけだな。

よーし、よーし。


どれ、どんな魔法が使えるかな?


たしかリッチは

火球(ファイアーボール)が使えたはず。


炎のエネルギーが前方へ勢い良く飛ぶという

メジャーな攻撃魔法だ。

今周りに誰もいないし、ちょっと使ってみるか?

ファイアーボール。


冬二は草むらを飛び出し、手に力を入れる。


手のひらに次第に魔力が集まりそれが

真っ赤なエネルギー体と化すようなそんなイメージを描く。


次第に手のひらが熱くなるような。

そんな感覚が強くなっていく。


そして、勢いよく手を前方へかざし叫ぶ!


「全てを燃やし尽くせ!!ファイアーボール!!!」


コキッ



炎と化した強大なエネルギー体が

周囲を破壊しつくしている、予定であったが

実際は何も起きず。


手を前方にかざした勢いで肘の骨がコキッと

軽く音を立てただけだった。


スケルトンになっても関節ってなるんだなー。


と全然関係ないことを考えているが、

それは現実逃避である。



そもそも魔法ってどうやって使うんだ?

手のひらに魔力を集めるってどうやるんだ?


おかしい、おかしい、おかしい。くそっくそっくそっ。


やけくそで手をぶんぶん振ってみたがとくに何も起きない。

カラカラと骨の音がするだけ。


え?え?え?もしかして俺単なるスケルトンってこと?

単なる雑魚ってこと?



うそやん・・・



異世界に転生したのに雑魚とかどういうことだよ!


冬二はだんだんと怒りがわいてきて思わず叫んでしまった。



「異世界でも雑魚とかマジフザケンナーーーー」









どれくらい時間がたったのかわからないが

次第に冷静になってきた冬二は現状を整理することにした。


自分が何であるかはわからない。(雑魚って信じたくない)

だが、人ならざる者である自分の姿から想像すると

どこか異世界にやって来たのは確かである。


そして、その世界は自分がハマっていたゲーム、

クロノスの世界にそっくりである。



冷静になるとクロノスの世界に詳しいせいで

逆に恐ろしいことがわかってきた。



クロノスの世界=魔王軍の世界は実力主義だ。


優秀であればどんどんチャンスが与えられ

どんどん出世していく。


しかし実力が無いならばどうだ?


魔物の世界。

つまり弱肉強食、そして暴力が支配する世界だ。

暴力が支配する弱肉強食の完全実力主義。


今の自分は何であるかわからないけれど間違いなく弱者だ。

最悪なことを仮定すれば、圧倒的な弱者だ。


食う者と食われる者で言えば、食われる者だ。


例えるなら外国の治安の悪いところに

なんの知識も武装もなく突然放り出された。

そんな状態ではないだろうか。


しかも自分は魔王軍所属なのか?

もしかして魔王軍の所属ですらない

野良モンスターじゃないのか?


魔王軍ではない野良モンスターならば魔王軍の魔物達は

上から下まで自分の味方でも何でもない。下手すれば敵だ。


しかも、さっきみかけた鎧を着た人間とその一行は

いわゆる冒険者達だろう。

冒険者が存在するということは彼らは、魔物をハントする。

ということは自分は狩りの対象"けいけんち"でしかない。


世界にすりつぶされるだけの存在。



これじゃ、転生前と何もかわらんじゃないか!


いや直接的な暴力の世界な分

転生前よりひどくなってないか?

下手すると普通に殺される。

比喩として殺されるとかじゃなくってガチで殺される。

ブラック会社どころじゃないブラック世界に

来たんじゃないか?


と気が付き、冬二は、絶望と恐怖を深く味わっていた。



そして、はたと気が付く。

こんなところにぽけーっと立ってる場合じゃない。

冒険者や他の魔物に気が付かれたら容赦なく狩られる。


まるでウサギのように。


冬二は、まずい!と先ほどのように

草むらに身をひそめ街道の様子をうかがうことにした。




街道に誰かが通るというような気配もなく静かで穏やかだ。


そのおかげで冬二は、穏やかじゃないのは俺の気分だけだわ

と悪態を付けるくらい冷静さを取り戻した。




その時


「オイ、何をしているキサマ」


突然、頭上から殺気に満ちた声をかけられた。


声をかけられた冬二は、


「ヒャッ」


と声をあげ飛び上がるように振り向き

尻もちをついてしまった。


そこには馬に乗った耳の先がちょっととがった金髪の

一人の男が切れ長の目の中にすさまじい殺気をふくみ

コチラを睨んでいた。


あきらかに人間ではないが一般的によく知られる

エルフとは容姿が異なりがっしりとした体躯と

よく日に焼けたような色黒な肌をしている男だ。


男が

「何をしていると聞いている。どこの者だ!」


と鋭く声を上げると、

冬二の回りはいつの間にか馬に乗った男と同様の

容姿をした他の男達―おそらく同族であろう―

に囲まれていた。


その囲いの向こうには一台の馬車が止まっている。


その容姿で冬二は彼らが何であるか気がついた。


あ、イコン族だ、こいつら。


魔王軍の下っ端で

探索とか諜報とかの情報収集をやる種族だ。

そんなに強くないけど

こいつらに見つかったら魔王軍に知らせが行って

周辺の魔物が増えるという厄介な設定だ。


アイテム集めや経験値稼ぎ以外の時は魔物が増えると

面倒だからイコン族を見つけたら速攻で狩るというのが

攻略の定番だったな。


クロノスの設定の中ではね。。。



そんなに強くないとか言ってるけど

実物はめちゃくちゃ強そうじゃないか。

逆らったらいとも簡単にポキッとやられるわ。


イコン族を見つけたら速攻で狩れって、

むしろイコン族にみつかったら速攻で狩られるじゃないか。


と、とりあえずあやまろう。

よくわかんないけどあやまろう。



結論が出た冬二が早速


「しゅ、すぃ、す・す・すスイマセンデシタ」


と土下座の体制になると


「やはり!キサマどこの者だ!誰にたのまれた!」


とさらに厳しい声で追及される。


謝ってみたけど

さらに厳しく追及されることになってしまっでゴザル。



あわてた冬二は、


「ちがうんだす、全然関係ないんだす。

よくわからんのです」


と必死に言うが周りの男達から、


何が違うんだ!

関係ないなぞだれが信じるか!

わからんの意味がわからんわ!!


とさらに追い詰められる。


まわりからの猛烈な追及に思考が停止してしまった冬二は、

ぽーっとブラック会社員時代のことを思い出していた。


会議室だ。

自分や同僚を立たせて上司達が何かを言っている。



「なんで失敗したんだ!」


「あの、それは・・・」


「言い訳するな!」


「・・・」


「なんで失敗したんだと聞いてる!原因はなんだ!」


「あの、カツシマさんが・・・」


「人のせいにすんなや、おどれ!無責任やぞ!!!」


「どうやって責任とるんだ!」


「自分のミスなんだから残業代など払えんぞ!」


「使えんなーコイツら」



軽い頭痛を覚えた冬二は、どうでも

本当に何もかもどうでも良い心境になり


何者だ!誰に頼まれた!とか知らねーよ。

ぐちゃぐちゃ言うならもう好きにすれば良いじゃん。


めんどくさい。やーやーうるさいんだよ。

異世界なんだから犯罪とか無いだろう?さっさと殺せよ。



殺せ?あ、そっか逮捕とかないんだわ。

じゃあ今グチャグチャ言ってる一人くらい喉にかみつけば


やれるな・・・


あの馬の上のヤツは無理だろうけど、それ以外の

調子にのって一緒にギャーギャー言ってる取り巻きの一人

くらい道連れにできるな。


と回りを見渡した。



その瞬間、スケルトンである冬二の目に当たる眼窩は

空洞であるはずなのだがそこに赤黒い暗い炎のような

ゆらめきがやどった。


馬に乗ったイコン族の男がそれに気が付き

一瞬驚いた顔をした。


そのタイミングと同じくらいに、後方の馬車から


「まぁまぁ恐れているではありませんか。

お兄様それくらいで、他の者達も」


と、女性であろうか、涼やかな声が聞こえた。



その言葉が聞こえた瞬間、馬に乗った男以外は

一斉に馬車の方へ跪いていた。


「しかし、怪しいのは間違いない」


とお兄様と呼ばれた馬上の男が答えると馬車の中より


「では、屋敷についれていき、落ち着いてもらって、

詳しくお話を聞けば良いのでは?

そうすればお兄様の心配も解消されるでしょう。

むしろここに長く留まるほうが危険です」


と聞こえ


「うむ、シーノの言うことも一理ある。そうしよう」


と馬上の男が答えるや否や、冬二のほうへ向き。


「ついてこい。拒否権は無い」


と告げた。


馬車の中の涼やかな声と、とりあえずではあるが

命の危険は過ぎ去ったようだということで

すっかり気が抜けた冬二は


「ハイ」


と素直にイコン達についていくことにした。


先ほど冬二の眼窩に宿った薄暗い炎のような

ゆらめきは消えていた。


ついていくことになりました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=267184339&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ