トイレの花子さん
半年ほど書いていなかったのでリハビリの短編
もしかしたらいつか同じ時間軸で話が出るかもですね
「ねぇ、知ってる?このトイレにある怪談話」
休み時間の女子トイレの手洗い場で私と友達が話していると、いかにも遊んでそうなギャル風の女子が話しかけてきた。
見た目は茶髪に髪を染め、日焼けしたような褐色肌の、典型的なほどのギャルとはいえ、美少女に違いなく、胸も妬ましくなるほど大きい。
服装も第2ボタンまで開けて、黒いブラが少し見える上、透けて見えるし、スカートも腿の半分ぐらいの長さしかない。
事実、胸にコンプレックスのある友人は「ぐぬぬ……」と親の仇を見るかのような眼差しで相手のおっぱいを睨んでいる。
それにしても、この学校のトイレの怪談なんて聞いたことないんだけど、こういうのって、ひっそりと広まるから知ってる人は知ってる、みたいな感じなのかな?
「トイレの怪談どころか、この学校に怪談があること、今知ったんだけど」
友人も私と同じような考えだったようで、睨んだまま目の前のギャル風の子に尋ね返す。
彼女は朗らかに笑いながら、
「あっはっは。そりゃそうだよね。知ってる人は知ってるっていうレベルだし、確かにこの学校の怪談は意外と知られてないからねぇ。
実は七不思議だってあるんだよ?
音楽室の『血塗られ鍵盤』
東校舎3階廊下の『暗闇様』
運動場の『影取鬼』
プールの『あしひき様』
理科室の『落語家骸骨』
屋上の『くびれ鬼』
で、このトイレの『花子さん』」
「花子さんとか、またベタな話過ぎやしないかなぁ」
思わず噴き出してしまった。
あまりにもベタ過ぎて怖さよりも笑いが込み上げてきてしまうのは仕方がないはず。
そもそも学校の怪談だなんて今じゃただの笑いの種としか言いようがない。
そんな私にギャル風の彼女は、いやいやバカにできないよ、と話を続ける。
「何でも昔、戦争のあった頃に、ここで死んだ女の子が友達を欲しがっているみたいでさ。
声をかけた人を連れて行くんだって。」
そう言った彼女は急に私の手をつかみ、私の耳元で囁いた。
「一緒に遊びましょ、って」
思わず私は手を振り払って後ずさった。
ギャル風の子はそれを見て満足そうな笑みを浮かべて、
「な〜んてね。今の話は冗談だよ。ほら、鐘が鳴ったし授業に遅刻しちゃうよ。」
授業開始3分前のチャイムが鳴って、彼女に押されてトイレから出された私達は慌てて駆け出した。次の授業は遅刻に厳しい化学の落合先生の授業なのだから。
そして。
私達は教室に向かう途中、気付いてしまった。
この学校は進学校だからか、それなりに身なりに厳しい。あんなギャルギャルしい格好なんて目立つはずだし、有名になっているはずだ。
それなのに、顔も名前も私は思い出せなかった。
いや、むしろ知らなかったと言うべきだ。
血の気が引いた。
友人もそれに気付いたらしく私と同じように顔を青くし、声を震わせて呟いた。
「さっきの子、誰……?」
「ふふふ。は〜な〜こさん、遊びましょ」
ギャル風の女子はそう言って個室に入り、扉を閉め、再び開いたとき、そこに誰もいなかった。