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第九話 広い世界へ

 パパンの書斎で魔術の本を発見してから、俺は毎日のように教本を読みふけった。

 教本の内容は初級魔術のさわりから、中級魔術への入門編といった感じだ。


 読み込むほどに、記述されている内容が頭に浸透(しんとう)していく気がする。

 さすが『馬鹿でもわかる、魔術師入門編』。

 赤ちゃんの頭にも大変に(やさ)しい内容だ。


 きっとこの本は俺とも相性がいい。

 魔術を体験したくて仕方がない俺にしてみれば、最高の一冊ではないだろうか。

 馬鹿にまで門戸(もんこ)を開いているし、実にすばらしい本だ。


 タイトルを直訳(ちょくやく)するたびにしみじみ思う。

 馬鹿でもわかるなら「俺でもイケる!」と。

 どこからか()いた妙な確信だけが、俺の中に確固(かっこ)としてあった。

 まるで子供の頃に宿っていた全能感だ。


「ん~? いつやるかって? 今でしょっ!」


 ページをめくりながら、脳みそにこびりついたセリフをつぶやく。

 魔術教本を暗記する勢いで、俺は勉強に没頭(ぼっとう)した。

 世界に存在する魔力という力。

 幻想を形にした不可思議(ふかしぎ)な力は、俺にとって異世界の夢そのものだった。



 パパンの書斎に引きこもる日常は、あっという間に時間という概念を加速させる。

 この世界の知識と、魔術という技術体系をむさぼるように吸収していく日々。


 光陰(こういん)矢の(ごと)し。


 ハイハイができるようになったのは、いつ頃だったか。

 前世では勉強なんて、のび〇のように紙飛行機にして窓から飛ばすものと考えていたのに。

 この勉強嫌いの俺の意識を変えるとは、やるじゃないか初代学長。


 魔術教本を読み込み、実践を伴ってわかりえたことは、しごく簡単なことだった。

 お(うち)の中での魔術の行使はやめましょう。

 実に単純だ。


 火事水難暴風に注意、いたずら精霊の落とし穴などが発生します。

 一度はあやうく書斎でボヤになりかけた。

 室内で発生した爆風はパパンの書斎をめちゃくちゃにした。

 果てはトイレの前にボットン便所式の落とし穴まで発生する始末。

 落とし穴にはご丁寧に土でつくられた上蓋(うわぶた)が設置されており、一目ではソレとわからない悪童仕様(あくどうしよう)


 お家の中には不思議がいっぱい、危険もいっぱいです。

 あら摩訶不思議(まかふしぎ)

 もれなく家族が巻き込まれるでしょう。


 一度目はパパンが引っかかって、二度目はモニカが引っかかりおった。

 何故(なぜ)物陰(ものかげ)(しの)び笑いをしていた俺を発見して、あろうことが大泣きしながら抱き着いてきやがったが……。


 くそぅ! しばらくにおいが取れなかったんだぞ!

 トイレの前に作るのはダメだな。

 まきこまれた時のことも考えないと。


 われながらボットン便所式の落とし穴は、やり過ぎたかもしれん。

 せめて片足がハマるぐらいにしとけばよかったと、ちょっと反省。

 どうもアレから愛するマイファミリーの視線が気になる。

 まるで、何か信じられないものを見るような目を、この愛らしい息子である俺に向けてくるのだ。

 モニカはいたって、いつも通りだが。


 いろいろな魔術的イタズ……魔術的実験を、俺は時間をかけて何度も行った。

 実験は経験となり、経験は知識となり、知識はいたずらへと変化したのである。

 知識と経験といたずらを伴い、初級魔術程度なら問題なく行使できるようになった。


 特にボットン便所式落とし穴には、自分なりに汗と涙と情熱を(そそ)ぎ込んだつもりだ。

 小規模な実験をくりかえし、様々な応用を試みた。

 その努力は見事に結実(けつじつ)し、回避不可の超力作に仕上がったのだ。


 われながらうまいこといった。

 こちらも予想外の痛みを()ったが、それは次に()かすとしよう。




 魔術を行使する方法は、いくつか存在する。

 一つは詠唱を利用した魔術。

 一つは魔法陣を利用した魔術。

 一つは魔力付与品(マジックアイテム)を利用した魔術。

 おおまかに分けると、魔術を行使する方法は三つに分かれる。

 それぞれに利点があり、欠点があるらしい。



 詠唱による魔術の行使。

 これがもっともポピュラーな方法だ。

 なにせ魔力があれば、呪文を(とな)えるだけで魔術が使える。

 初歩の魔術なら大げさな才能云々(うんぬん)は関係ない。

 最低限の魔力さえあればいい。

 

 熟達した魔術師ならば詠唱も必要ないらしい。

 当然、その数は限られるみたいだが。

 その記述を読んだとき「それって、もう魔術師最強だろ?」と俺は興奮したものだが、やはりどんな人間にも適用されるわけではないらしい。

 今のところ俺には、その才能はないようだ。



 次に魔法陣による魔術の行使。

 これは大規模魔術に向いている。

 街を守護する破邪結界(はじゃけっかい)

 邪悪な魔物を弱体化し、容易(ようい)()せ付けないようにする。


 永続的な効果をもとめるなら、大勢の魔術師が定期的に魔法陣に魔力をそそぐ必要がある。

 魔術規模に見合った魔晶石を用いる方法もあるようだ。

 片方は人力自転車で、もう片方は電動自転車みたいなものだろう。


 欠点は魔術の規模が大き過ぎるため、個人では使い勝手が悪いこと。

 魔術の行使に下準備が必要なことも、難点といえば難点なところか。

 突発的(とっぱつてき)な事態に即応(そくおう)がきかないのだ。



 最後は魔力付与品(マジックアイテム)

 魔力が込められた指輪や腕輪、その他もろもろのことを指す。

 魔力付与品(マジックアイテム)に才能は必要ない。


 魔術の行使に必要な条件は、ただ一つ。

 行使条件を満たすことだけだ。

 それはキーワードであったり、魔術的効果が発揮される状況を整えることが重要になる。


 たとえば炎の魔力がこめられた「火」を指し示すキーワードで発動する指輪ならば、「炎よ!」と叫ぶだけでも効果は現れる。

 詠唱ともいえない言葉を発するだけで、誰にでも魔術が行使できるのだ。

 これが強力な効果を宿した魔法剣だったら、どうだろう。

 それだけで家の二つや三つ建てられるという垂涎(すいぜん)代物(しろもの)だ。


 剣や魔法が使えない者たちにとっては、身を守るために有用な魔力付与品(マジックアイテム)は必需品といえる。

 しかしこれを手に入れるには、当然クリアするべき条件がある。


 富か力か、だ。


 己の力を信じて仲間とともにダンジョンに入り、凶暴な魔物や凶悪な罠を潜り抜けて冒険の末に手に入れてくるか。

 冒険で手に入れたお宝を売って得た金で、露天商から発掘してくるか。

 金に()かせてオークションで()り落とすくらいしかない。

 

「冒険ねぇ」


 男として産まれ、異世界にまで飛ばされたのだ。

 一度でもいいから挑戦してみたい。

 そう思うのが男だろ?

 まだ見ぬ世界に、俺はあこがれを募らせていった。

すっごい間が空きましたねw

詰まるとサボるから、没作品が増える。


あとは第二話で、ドラクエ的にステータスとかユニークスキルみたいな特典が付く流れだったんですが、削除しました。そういう制限は邪魔に思えたので。

その手の作品を作るのは、また別の機会にして、ちゃんと作っていけたらいいですね。

長い目で見て、完成まで持っていけたらいいかな、と夢想してます。

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