エピローグ【最終章】
一ヶ月後、カラオケアメニティー『らうどねす』は新装開店した。
各方面でケンケンゴウゴウの議論が巻き起こったが結局、火災の原因は漏電という事で落ち着いた。店側に落ち度は見当たらず、負傷者も死者も出なかったという事が功を奏して世論をもうどうでも良いじゃないかという気分にさせた。
『らうどねす』はロイヤルセキュリティー会社を告訴したが、出火当時電気施錠されていたという事実確認は出来なかった。
防火戸やスプリンクラーの無作動についても合理的根拠に乏しく、火勢と爆発の衝撃が想定外だった為として処理された。
停電と火災との因果関係は無いものと判断された帝都電力は、総点検を名目に電力の値上げを敢行し、消防署は勤務時間内のケータイ電話の所持を一切禁止した。出勤時に金属探知機を使って。
警察は件の白バイ警官を不問に処した。理由はネットに投稿された動画の顔が判然とせず、拳銃を発砲した形跡も認められなかったからだ。
鵜飼園生の弾倉には規定通りの弾数が残っていた。
道路で爆発炎上した筈のトラックの残骸もいつの間にか警察の倉庫から跡形もなく『消えて』しまった。
担当者は何も見なかった事にし、膨大な量の捜査資料が国家公安委員会、国務長官の命令によってシュレッダーにかけられた。
こうして不都合な事実は人智を超えたチカラによって修正され、今もなおその修正は続いている。
やがて人々の記憶から全てが忘れ去られる日もそう遠くはないだろう。
運命は電車から電車へ乗り換えるようなわけにはいかないのだ。
『らうどねす』再オープン当初は全国から客が押し寄せ、連日長蛇の列。
劇的に日商記録を更新していたにも関わらず、地元の人々の足は次第に遠退いていった。
幽霊が出るという噂が広まったからだった。
歌を唄っていると知らない誰かがハモってくるとか、店内で写メを撮るともう一人の自分がこっちを見てピースしているとか。深夜に屋上から何かが飛び降りるとか。エトセトラ。
建設大手藤間建設が宅地造成する前にはこの辺り一帯が火葬場だった事もつまびらかにされ、幽霊騒ぎは一段と信ぴょう性を帯びた。
心霊研究家とタレントがやって来てテレビの特番を組んだりもした。それでも一旦引いた客足が戻る事はなかった。
夏にピッタリじゃないかと社長はホラーキャンペーンと銘打って従業員にゾンビの格好をさせたがこれがひどい悪趣味でパッとせず、じきに売り上げは完全に伸び悩み、採算が取れなくなってとうとう閉店に追い込まれた。
『らうどねす』の跡地を破格の安値で買い取ったのは外資系の玩具大型量販店『トイぱゴス』だった。
長引く不況を物ともせず店は大繁盛した。
男の子の人気商品ベスト3は、歌って燃えるタンクローリー車マイクラウンダー。変幻自在・変身合体消防ロボ☆タイタン。走る！光る！撃つ！白バイライダーZ。
女の子の人気商品ベスト3は、双子妖怪キモカワ♡シリウス。ケータイ魔女ユーコ。それに、梢ちゃんのちびっ子カラオケ女子会セットだった。
奇妙な事に『トイぱゴス』が開店して以降、幽霊が出るという噂はとんと聞かれなくなった。
＿＿＿ その『トイぱゴス』。
深夜2時22分。
『トイぱゴス』の誰もいない筈の店内に、ミニカーで遊ぶ黄色い帽子の男の子が居た。
＿＿ 優太君、遊ぼうか ＿＿
その声は無人の館内に優しく響いた。
優太は声の方を振り向き、耳元まで大きく裂けた口でニカッと笑った。
＿＿ 鬼さん。こちら。手の鳴る方へ ＿＿
翔太 Fantastic Edition
【 終 】
ー fin ー
作品MEMO （あとがきにかえて）
地区理事 絵美子／翔太 Fantastic Edition
仮屋園信隆
二人の子どもと妻、週末に大型遊園地、トラックにポリタンク
前園真也
前園煙火株式会社部長、3才になる娘、誕生日、手作りの絵本を妻と作っていた
西園寺正義
桜西消防署警防課、消防士長、隊長、次期消防司令補
(篠原)こず恵
写メ、ブログ、直アド
園山慶次
大型タンクローリー運転手、液化石油ガス、
15t積大型タンクセミトレーラー、年上の妻と子ども3人、夢は一戸建てでガーデンパーティー
若木早苗とショータ
望月克哉と望月千夏
火事を目撃したあと心肺停止状態
園子
藤間俊一郎
藤間花緒莉
鵜飼園生
白バイ隊員、追跡係
宮園剛
タンクローリー運転手、元ヤンキー、ディスコ好き、来月結婚する長男、酒を飲む約束、孫が出来たら滑り台
シリウス
カルシウムとマグネシウム、双子のモンスター、女
タイタン
藻のモンスター
蝙蝠、線虫、亡者
雷、空のグラデーション、風
山岸吾郎
らうどねすの従業員、翔太の先輩
カラオケアメニティー「らうどねす」
「らうどねすボーナス」IDカードとオンラインで結ぶ管理システム
カエデ
木寺優子
藤間翔太
優太
