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翔太/Fantastic Edition  作者: 抹茶あいす
42/48

視聴率40パーセント

明けて月曜日。

鎮火時間に間に合わなかった朝刊は見出しの割りに具体的な詳細に欠く中身の薄い記事をアップせざるを得なかった。


【桜西ニュータウン一帯で謎の大停電】


【日曜の夜の惨劇。猛火に包まれるカラオケ店】


【行方不明者多数!今世紀最悪の大火災はテロの仕業か!?】


その点、各テレビ局は予定を切り替えてこの二件の大ニュースを朝5時から流しっぱなしだった。

MCは視聴者の好奇心を必要以上に煽り立て、急場凌ぎの自称専門家達が思い思いに無責任な持論を全国ネットに垂れ流し、この機を逃してなるものかとばかりに名前を売ろうとした。

視聴率は軒並み30パーセントを越え、SNSで拡散した白バイによる追走劇の映像をメインに押し出したワイドショーでは40パーセントを叩き出す場面もあった。



午前10時。

国民が見守る中、帝都電力の記者会見が始まった。

社長以下役員達が一列になって頭を下げる中、各報道記者が質問を浴びせかけた。

タレントの不倫騒動の様に質疑応答お断りというわけにはいかなかった。本当はそうしたかったのだが。


「原因は何ですか」

「現在調査中です」

「一部ではテロとの情報もありますが?」

「現在調査中です」

「停電は全面復旧したとの発表ですが、原因も解らず復旧もクソもないのでは?」

「クソですって、取り消して下さい。電気は通っています。このテレビも見れてると思いますよ」

アハハ!とスポークスマンは笑った。


「総点検の必要があるかと思いますが」

「まあ、あるでしょうね。目下、事務レベルで協議中です」

「まああるとは何だ。株主はそんな好い加減な論調黙ってないと思いますよ」

「落ち着いて下さい」

「ネットでは異星人の破壊工作という噂も出ていますが」

「はあ?あるわけないだろう。映画の見過ぎだ。馬鹿かこいつら」

「何だと。この野郎。何か隠してるんじゃないのか」

「何にも隠してないです。落ち着いて下さい」

「隠ぺい体質があると世論は思っていますが、今回は大丈夫でしょうね」

「隠ぺいではありません。守秘義務です」

「誰の為の守秘義務だ。お前ら誰の命令で動いてるんだ」

「落ち着いて」

「現在調査中です!」


「電力自由化についてどう思われますか」

「知るか、ボケ!」

会見をテレビで見ていた霞ヶ関の経済産業省・資源エネルギー庁の官僚達は頭を抱えた。

「あそこはもう駄目だな」



スタジオの片隅でこのやり取りを聞いていた

警察庁のお偉方は、この後に予定されていた生記者会見を急遽中止して桜田門に退散する意向を伝えた。無論、退散とは言わない。緊急事態による招集という名目で。


番組プロデューサーは顔を蒼白にして引き止めた。

「待って下さい。約束と違いますよ」

「うるせえ。あれじゃまな板の上のマグロじゃねえか。貴様ら、面白けりゃ何でも良いんだろう」


「マグロじゃなくて鯉ですよ」

「揚げ足を取るな」

「やるって言った癖に」

「さっきから白バイ警官がトラックに発砲してる動画ばかり流しやがって」

「あれは視聴者からの」

「やかましい。CGかも知れんだろ。撃ち殺されたいか」

警察庁長官はピストルの撃鉄を起こしてディレクターのこめかみに突き付けた。


「これでもか」

「滅茶苦茶だ」

「国家権力を舐めるなよ」

ディレクターは小便を漏らした。

「今の撮ったか、今の撮ったか」

プロデューサーはわめき立てた。



消防の記者会見は比較的まともだった。

警察と合同の会見予定だったが、警察が逃げ出したので広報官は内心ホッと胸を撫で下ろしていた。

あいつらは馬鹿だから。


ただ内容は帝都電力同様ナンチャッテであった。

「では発表します。現時点において死者、負傷者はゼロ。行方不明者約300名。以上であります」

「ちょっと待って下さいよ。ゲガ人もいないんですか」


「消防隊員がちびっと火傷しました」

「いや、そうじゃなくて」

「隊員の中にケータイで撮った動画をSNSに投稿してるともっぱらの噂ですが」

「さあね」

「イジメ体質は改善しましたか」

「そんなの今関係ないだろう」

「行方不明者の名前は」

「あーそれは、もうちょっとかかります」

「何故ですか、理由を教えて下さい」

「えーと」

「300名の根拠を教えて下さいよ」

「えーと。おいどうなってる」

「見た感じです」

「そうか、見た感じです」

「何だそりゃ、いい加減にしろ。ちゃんと発表しろよ」

「行方不明なんだから仕方ないだろう。何人居たかなんて予想でしかない」

「わからないという事ですね」

「そうだ。文句あるか」担当官は開き直った。

火事の発生から一睡もしていない。

「何ですかそれ。暴言ですよ」

「うるせえな。もう帰ってビール飲みてえんだよ」

総務省・消防庁の官僚達は頭を抱えた。


喜んだのは各テレビ局の幹部達だけだった。


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