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翔太/Fantastic Edition  作者: 抹茶あいす
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二次会へ

レストランの周囲の垣根にはツツジが植えてあった。やけに気の早いのが一つ二つ、照れ臭そうに咲いていた。

全部咲いたら綺麗だろうな、そんな事を思いながら島津はエントランスに近づいた。

「やあ、紀伊国屋さん」懐かしい顔にバッタリ合った。


「おお、島さん。久しぶり。何してんの」

紀伊国屋宗介は満面の笑みで手を差し伸べた。島津はその手をしっかり握り返した。

「まあ、いろいろ。貧乏暇なしですよ。そっちは?」

「金はあるんだけどね。ん、またアメリカでも行こうかと思ってさ。良い仕事があるんだよ。島さんも行くかい?」勿体ぶった感じで宗介は答えた。

「アメリカかあ。いいなあ」

「行くかい?ラリー・カールトンの別荘に連れてってやるよ」

「まじで?凄いなあ。いや、でもやっぱまだ子どもが小さいし、まだそばに居てやりたいんだよ。宗さん」

「ん、そうか。そうだよな」

「何かあった時、アメリカじゃすぐ帰れないし」

「いや良いんだよ。島さんの人生だしさ」

宗介は大袈裟に首を振った。

「そんなたいそうなもんじゃないけどね」島津は照れた。

「大事にしてやって。奥さんと子ども」

「宗さんは結婚しないのかい」島津は訊いた。

紀伊国屋は早苗を一瞥して笑った。

「こいつかい?まだ毛も生え揃ってねえガキなんだぜ」

「もお!見たのかよ!」

早苗はシャネルのバッグで紀伊国屋を思いきりぶった。

「イテーな、この野郎。あ、こいつね。早苗っていうんだ。毎晩公園でプラプラしてやがってさ。何だよ赤くなりやがって。島さん、また飲もうよ。アメリカ行く前にでもさ」

「初めまして、早苗さん。うん。そうしよう」

「じゃまた」

「うん、また。宗さん」

ふざけ合いながら駐車場を横切って行く二人を島津は微笑ましく思った。



「島津さん」

「あ、小俣さん。こんにちは」

「お友達なんですか」

「ええまあ、前に仕事が一緒だったんです。」

真樹子はちょっと驚いた。そして店内であった事を話すのは今日は止めておこうと思った。

「そうなのね。もういいの?法事の方は?」

「まだ途中で。学校行けなくてすみませんでした。これからまた八王子まで行かなきゃいけないんですよ。お墓の事でちょっと揉めていてね。その前に議事録だけでも見せてもらおうと思って。先生に尋ねたらここだと聞いて」

「良いのよそんなの。週明けで。お墓の事はちゃんとしないと後々厄介だから」

「そうなんですよ。ほんと。そちらは何か変更になった事とかありました?」

「ないわ。いつも通りよ。心配しないで。月曜に回覧を回すわ」

「わかりました。それじゃお言葉に甘えてこれで失礼させてもらおうかな」

「大丈夫よ。何かあったら塚田さんに伝言を頼むから」

「了解です。じゃまた来週どっかで」

島津はお辞儀をした。

「ええそうして下さい。道中気をつけてね」

「ありがとうございます。皆さんによろしくお伝え下さい」


振り返ると薔薇の花が咲いたように地区理事の面々が輪になって立っていた。

「なあにアレ。あんな若い自分の娘みたいなの連れて」と篠原こず恵。

「ババアなんて言われたの初めて。ほんと失礼極まりない」と寺澤ひとみ。

「私あの人見た事あるわ。たまにうろちょろしてる」と丸山朋美。

「やだ。ヤクザじゃないの?不審者?」と星乃舞。

「工事の人でしょう。違うの?ストーカーかしら?」篠原こず恵。

「訪問販売よ。あんな格好してるけど営業なのよ。細くて綺麗な手をしてたわ。銀行にいるとね、手を見ればだいたい職業がわかるわ」と安西保子。

「へえ。全然気付かなかった。そんな余裕なかったわ」と望月千夏。


「それにしても…」皆が一斉に真樹子を見やった。

「凄かったですね。尊敬しました」絵美子がやっと口を開いた。

「警察の人が親戚にいるなんて知らなかったわ」

「ほんとホント!」朋美と舞が手を打った。

「私、一旦停止違反のキップ切られてんだけど、どうにかなんないかしら」

「イヤね~。あんなの嘘よ」真樹子がペロリと舌を出した。

「えーそうなの?嘘って」

「マジで?やるぅ~!おば様!」こず恵が真樹子の肩をパーンと叩いた。

「ちょ、ちょっとぉ。誰がおば様よ。口から心臓が飛び出しそうだったわ」

「そんな感じしなかったわ~」

「ど迫力」

「カッコよかった!」

「見た?あいつのあの時の顔ったら」

「ほんとホント~!」

「チンパンジーは最高だった」

「ペチャパイなの?」

「あのねー」

「あれは笑えたわ。だってそっくりなんだもん」

「思い出しても向っ腹が立つ」

「綺麗な手をしてたわ」

「おいおい!そこなの?」

「さすが安西さん。男を見る目が違うわね」

「どういう意味よ」

「いえいえ」

「変な噂立てないでよ」

「今日のはレジェンドだなあ」


「ねえ皆んな、二次会行く?」

「行く行くぅ~!」

「カラオケでいい?」

「オケオケ~!」

「あなたはどうする?」真樹子は絵美子に訊いた。

「もちろん行きますよ。何だか興奮しちゃって」

絵美子は朗らかに答えた。

「あらまあ!」

「きゃあ大変!」

「男はいないわよ?」

「あのチンパンジーに興奮したの?」

「若いわねえ~」

「いえ、そういう意味じゃなくって…」

困った人たちだ。


運動は得意な方ではなく、むしろ苦手。

なので、小説の中ではスポーティーな人がたくさん出てきます。

運動能力が高いという意味でなく、生き様がスポーティーという意味です。

どんな職業についていても、それが善人であれ悪人であれ、基本的には明朗快活でポジティブな性格の持ち主なんです。

前に進むことが好きなので、失敗することも多い。

その失敗とどう向き合っていくか。考え出すと止まりません。


登場人物には性格の次に環境を与え、人となりを整えていきます。

姓名と服装や髪型といった外観も大事です。

頭の中にキャラが出来上がるとこの人物を動かしたくなります。ストーリーに沿って動かして、喋らせてみる。

始めはぎこちないのですが、書き進むうちに自然な感じになってきます。

私は登場人物にストーリーを与えるだけ。

あとは勝手に主人公たちが動き、喋ってくれる。

これ本当なんですよ。

ある場面を描くとそこにふさわしい人が自動的に現われて、いろいろやってくれる。

私が描く登場人物はみんな一様に厚かましく、勝手にいろいろ喋ろうとするからコントロールが大変なんです。

ちょっと待て、今はお前の出番じゃないと。


これを繰り返してるうちに、小説は予定を越えて大幅に長くなったり、深みを増したりします。

途中でストーリーが変わったり、主人公が入れ替わったりする事もしばしば。

普通の小説ではあり得ない事が起こります。

私はその変わってしまったストーリーのために悪戦苦闘します。

実を言うとこの悪戦苦闘が楽しみの一つなんです。

夢中でやっているうちに私の中のもう一人の私に出会えるからです。


私は登場人物たちが大好きです。

私が愛してやればやるほど、登場人物たちは期待に応えてくれます。

役を覚え、的確に動き回り、喋ってくれます。

私と登場人物たちにホットなチームワークが生まれた時、物語はクライマックスを迎えます。

小説にはエンドマークが付き、場合によっては後書きが残されます。

再び会う約束はありません。


月日が経つと、私はふと自分が愛した登場人物たちに会いたくなります。

どうしているんだろうか。


懐かしい気持ちで読み返す時、私はまた彼らに新しい生命を吹き込みたくなるのです。

つい、ほんの出来心で。





[image:2]

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