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翔太/Fantastic Edition  作者: 抹茶あいす
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夜空のスプラッターマウンテン

優子は、カッと目を見開いた。


避雷針の破片をつかむと躊躇する事なくタイタンの胴体を内側から真一文字に一閃した。

「グァ…」


タイタンは砕け散った。

緑色のスライムを全身に浴びた優子はしかし呼吸一つ乱してはいなかった。


「乙女の純潔をこんなヤツに捧げる気はないわ」


優子は絶命したタイタンの一部を夜空に高く蹴上げた。


「へえ」翔太は驚いた。

「ねえ翔太君。こいつは翔太君の願望なの。だとしたら絶望的ね」


「どうかな。俺は君に消えて欲しいと思っただけだよ」

「あちこち触ってきたりして」


「消化する為だろう」

「変態だわ。翔太君。もうがっかり。サービスはココまで」


優子は飛び上がり両手を力一杯広げた。


逃げ惑う線虫達が優子の放つチカラに手繰り寄せられてゆく。


キュービクル式受電設備の鉄板、シリウスが破壊したクーリングタワーの残骸、サイン看板を繋ぎ止めていた鋼鉄の支柱、散らばったコンクリートの破片、屋上の様々なガラクタが磁石の様に引き寄せられ、優子の裸体を覆っていった。

鉄くず達が優子の身体を包んでいった。

中世の鎧のように。

最後に突き立っていた避雷針がムチの様にしなって優子の手の中に納まった。


「こういうのって何て言うの」

「武装」翔太は身構えた。


「あなたも何か着なさいよ」

「必要ない」


「私どう?似合う?」

「素っ裸よりエロチックだよ」

「ばか」



「やったろうじゃねえか、とことん。国家権力を舐めんなよ」


鵜飼園生は発砲しながらヨダレをまき散らしていた。

次から次へとコンテナ車を爆破していった。

コンテナ車が破壊されるたび、夜空に向けて何千発という花火が打ち上がった。



桜西署は蜂の巣をつついたような様相を呈していた。

第一報がもたらせた時、署長は呑気に交通課の女性警官を口説いていた。

「いいだろう。警部補にするからさ。手錠を掛けさせてくれよ。一度で良いから」


「署長、報告!」

「な、何だ!いったい!何なんだ!ノックをしろ!馬鹿者!」

「コンコン」

「口で言うな」


「通報です。桜西ニュータウンを拳銃を撃ちまくりながら暴走してる白バイがいると」

「あはは。まさか。夢でも見てるんだろう」

「私も最初はそう思いましたが通報の数が尋常でないんです」

「早く言え」

「この一時間で200件を越えました。ホームページにも書き込みが。ツイッターにも動画がアップされ物凄い勢いで拡散しています。フォロワー数がじきに100万を越す勢いです」

「ほ、ほほお。まさかうちの警官じゃないだろうな」

「いえそれが、鵜飼園生というれっきとしたうちの白バイ隊員です。どうしますか」

「どうしますかだと?ヘリを出せ。空からその男を狙撃しろ」

「まじっすか」

「まじだ。あ、それから救急にも出動を要請しろ。死人が何人も出そうだからな」

「坊さんじゃなくて?」

「何年警官やってんだ。検死が先だろうが。あほう」

「ラジャー」

「ラジャー?何だそれ。新発売の炊飯器か?」

「それは電子ジャーです」

「何だと」

「いえ、すいません」


署長は網タイツのミニスカポリスに向き直った。

「ねえ、久美子ちゃん。手錠を。一回だけ…」



桜西ニュータウンの信号は全滅していた。

あちこちの交差点で車同士の衝突事故が多発していた。

「馬鹿野郎!どこ見てやがるんだ!」

紀伊国屋宗介はブチ切れていた。

「保険入ってねえんだぞ、こら!」


「知るか、チンピラ!」

「何だとお!テメー降りて来いこの野郎!」


男は電柱を指差して言った。

「直して欲しくねえのかよ。この停電」

車体を見ると帝都電力というロゴマークが付いていた。

稲妻を抱えた雷神がふんどし姿で走っている。

「三週間ぶりの休みなんだぞ」

帝電の作業服を着た男は不満をぶちまけた。

「知るかタコ!」


「ねえ、宗介」ポンコツの白いセドリックの窓から女が顔を出した。

「何だ早苗、この忙しい時に」

「見て。綺麗な花火」


ドドン、パァーン!



突然、鵜飼の前に車両が飛び出した。

ポリタンクにガソリンを詰め込んだ4トン車だった。

仮屋園信隆は二人の子どもと妻と一緒に週末に大型遊園地に出掛ける予定だった。

鵜飼は舌打ちした。

「ばっかやろう。信号見ろ…や…ありゃ!?」



前園煙火株式会社部長前園真也は3才になる娘の誕生日に手作りの絵本を妻と作っている途中だった。

荷台にはこの夏コンテストに出す予定の自慢の大玉が数十発積んであった。大玉の直径は1メートル前後。


「パパの花火見せてやるからな。世界一の花火だ」

有名俳優が司会の花火中継番組にもゲスト出演する事になっていた。

「一昨年は雨で散々だったからな…」



交差点を急ハンドルを切って本線に合流すると危うく4トン車と正面衝突するところだった。

バックミラーを覗く前園真也の目には、4トン車の後ろを白バイが追い掛けて来るのが映った。

シートに立って拳銃を構えている男はヨダレを垂らし、血走った目で何か叫んでいた。


鵜飼はブレーキングで縮めたフロントフォークを伸ばさず車体を倒した。


バンクさせる時の動きは意識しない。

逆操舵状態の方がバンク速度が上がる。フロントへ荷重を掛けてブレーキ残す。

コーナー中は高いギアで低回転が鉄則だ。

リアタイヤが滑ったがそんなの知ったこっちゃない。

マトリックスみたいに空中で回転しながら5、6発撃ったが外れた。


「クソが」


仮屋園信隆はドリフトしながらこの危機を回避した。

積んでいたポリタンクがチャプチャプ揺れた。

「どうだ。スプラッターマウンテンより凄いだろう!」


「きゃははは!」

助手席に座っていたショータがパチパチと手を叩いて喜んだ。


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